第6話 超お高い魔法薬作成キット
おそるおそる薬師ギルドのドアを開けると、とてもあわただしい雰囲気で、小さなグループがしきりに話し合っている。
「ゴブリンが集団で出たそうだ。少数なら余裕だが、ゴブリンの集団は恐ろしいからな」
「けが人が運ばれてくるかもしれないぞ。回復薬の在庫はあるのか?」
「ゴブリン集団が相手なら、騎士団が討伐に出るんじゃないのか?」
「騎士団なら、聖女様も一緒だろ。大丈夫だって」
ゴブリンが出たみたいだけど大丈夫かな。飛び交う言葉にアワアワしていると、受付のお姉さんから声がかかった。
「いらしゃいませ。サリー・グレアム様。薬師ギルドにようこそ。わたくしは、受付のオリビアと申します。今日はどのようなご用ですか?」
なぜか、私の名前を知っている受付嬢のオリビアさんが現れた。金髪のロングヘアのきれいな女性だ。こんな時でも落ち着いている。
「回復薬を作りたいので、材料や道具を欲しいのですが」
「わかりました。ご用意しますから少しお待ちください」
そう言って奥に入った彼女はしばらくしてから手には大きな木箱を持って出て来た。でも微笑みを浮かべているのは、なぜなんだろう。微妙だ。
「こちらが材料と道具になります。ギルド自慢の新商品『魔法薬作成キット』も入っています。このキットがあれば大量に各種魔法薬が作れるので非常に便利です。もちろん初級回復薬も作れます」
なるほど、そのキットがあれば、きっといいのね。
「現在回復薬が不足しておりまして、ぜひ大量に作っていただけると助かります。ほんの少しお高くて金貨6枚600万マルクになっております」
笑みをたたえた彼女はそう言って、薬草とビンと魔法薬作成キットを、ドスンとカウンターに置く。
600万マルクってなんかすごく高くないかな。セリーナとの話から察すると1マルクが1円くらいなんだよね。という事は600万円のセット! それに、このオリビアさん、道具の扱いも全然大事にしないから、いい感じがしない。
これだと薬師を始められる人は貴族かお金持ちに限られると思う。回復薬の出回る量が少ない原因はこの新製品のキットが問題だったりするのかも。
ま、まあ、上位貴族の私なら買えるからけど、魔法薬作成キットの使い方がわからないから聞いてみるしかないな。
「あの。この魔法薬作成キットで初級回復薬の作り方を教えていただける方をご紹介願えますか」
「わかりました。薬師ギルドの職員を紹介しますのでお待ちください」
しばらくすると、白い服を着た、背の高い男性が現れた。かなり神経質そうだ。
「薬師ギルドのサイラスと申します。回復薬の作り方を説明させていただく係です。今日は忙しいので、別の日にしたいのですが、予定はいかがでしょうか?」
「では、明日お願いしたいです」
「わかりました。明日の朝、9時にいらしてください。遅れないようにお願いします」
「はい。よろしくお願いいたします」
お金を支払って外にでると、歓声が聞こえてきた。目の前を騎馬に乗った騎士たちが行進して行くのが見える。
「「騎士様ガンバレー!」」
「「魔物をやっつけてくれ」」
「「王都を守ってくれ」」
沿道の市民からの声援がすごい。熱気がこっちまで伝わってくるようだ。
かっこいい。
初めて見る、騎乗した騎士団の姿に圧倒された私は、ぽかんと見ていた。
すると、一騎の騎馬が隊列から離れてこちらに向かってやって来た。白い甲冑に施された豪華な模様からすると、一般の騎士ではなく、身分のある騎士のようだった。
「聖女サリー様 こんなところで何をなされているのですか? ケガは大丈夫ですか?」
男性がヘルメットを取って声を掛けてきた。
その顔を見て驚いた。私を井戸から救い上げてくれたイケメン男性だったのだ。
「へっ! あ、あの、回復薬を作ろうと思い、薬師ギルドに来ております。それから、あの時は本当にありがとうございました。きちんとお礼も出来ずに帰ってしまいました。ケガは回復薬できれいに治りました」
へんな声が出てしまった。でも何とかお礼を言えて良かった。
聖女じゃなくなってしまったことは、話すのはやめておいた。戦場へ赴く騎士に余分な事をいうとなぜか縁起がよくないと思ったからだ。
「そうですか。ケガが治ってよかった。それに、ヒールが出来なくても、回復薬を作ろうとしているのですね。それは良かったです。討伐から戻ったら、ぜひ会いましょう。では、これで」
そう言うと、イケメン男性(ルーク様)は、さわやかに去って行った。
「お、お気をつけて…………」
私は、去っていくルーク様の背中に向かって小声でそう言った。
それにしても、私がヒール出来ない事は、ルーク様も知っていることだったんだ。
ともかく、私の作る回復薬が、ルーク様や騎士団を救うことになるのだから、回復薬づくりをがんばろう。断然やる気がわいてくる。
それに、デートのおさそいかな。男性と2人でお茶とか前世でも経験ないぞ。でも貴族社会のマナーが分からない。知らない男性とお茶しても大丈夫なのかな?
その後、馬車に乗って家に帰った。
とにかく、明日、回復薬の作り方を覚えて助けなきゃ。デートも気になるけどな。ちょっとウキウキして眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます