第5話 回復薬をつくりたい
「セリーナ、お母様に相談があるんだけど、どこに行けばいいかしら」
「奥様は、ご自分のお部屋にいらっしゃると思いますよ」
私は、セリーナを連れてすぐに、お母様の部屋に向かった。
ノックするとお母様の返事があったので、すぐに中に入る。
「お母様、私回復薬作りをしたいのです。もう一度がんばってみたいのです」
私は、胸の前で両手を握っておねだりポーズで、お母様にお願いする。
「いいわよ。とにかく皆に迷惑をかけないようにね」
あれ……? お母様が、あっさりと了解してくれたことに、ちょっと驚く。
「わかりました。もう迷惑をかけません。それから、回復薬を作る場所と道具が欲しくて、作り方も勉強したいのですけれど」
「もちろんそれも大丈夫よ。場所は、物置を改造すればいいからセリーナと相談しなさい。お金はセリーナに渡してあるから自由に使いなさい。作り方の勉強もセリーナと相談してあなたの自由にすればいいわ」
「お母様ありがとう」
私は、思わずお母様に抱き着いてしまう。
「大丈夫よサリー、私たちは決してあなたを見捨てないわ。ヒールができないから回復薬を作ろうと考えたんでしょ。あきらめないで、前向きに考えられるようになったのはいい事よ。成長したわねサリー。応援しているからがんばりなさい」
お母様は、私を抱きしめると、背中をトントンと叩きながらそう言った。愛情いっぱいの言葉に、目から涙がこぼれ落ちた。
しばらくお母様と抱き合ってから、セリーナと物置を見に出かけた。
物置と言っても、伯爵家の物置なので20メートル四方くらいあって、予想以上に立派な建物だった。
「大きいわね。ここなら十分ね。お水と排水はどうなるのかしら」
「お水は井戸から水を運ぶ事になりますね。排水は溝を掘りましょう」
「お掃除をして、中を空っぽにしないといけないわ」
「中の掃除と、排水は使用人で行いますから1日いただければ大丈夫です。伯爵家使用人にお任せください」
「テーブルも、ここにあるものを使っていけばいいわ。でも薬用の棚が必要ね」
「出入りの大工をあさって呼びましょう。お嬢様の考え通りに作らせればよいかと思います」
明日掃除をしてもらえば、すぐに作業が出来そうなので、ワクワクしてくる。
「セリーナ回復薬を作りたいんだけど、どこに行けばいいのか分かるかしら」
「お任せください、お嬢様。それなら薬師ギルドがいいと思います」
「じゃあすぐに薬師ギルドに案内してちょうだい」
急いで行きたい私がそういうと、セリーナはすこし眉を下げて私に言った。
「お嬢様、お待ちください。平民街に行きますので、それなりの服装に着替えましょう。それから馬車で行かなければなりません。お嬢様は貴族ですからご注意ください」
なるほど、貴族と平民の身分差がある世界に来たんだ。これは、一番気を付けない事だろう。
「分かったわ。私貴族のマナーも忘れてしまったようだから、セリーナを頼りにするしかないわ。いろいろ教えてくださいね。セリーナに全部任せるわ」
「お任せください、お嬢様。心を込めて務めさせていただきます」
数分後。私は、着せ替え人形になって部屋に立っていた。
家にどんな服があるのかもわからないし、どんな服を着て行けばいいのかも分からない。経験のあるセリーナに任せるのが一番だからだ。
着せられたのは、男性っぽいチュニックと白いシャツ、それにベストだった。確かに、お嬢様の着るドレスで貴族が平民の住む町に出かけられないんだ。しかし男性っぽく、動きやすい格好だったので、この体のワタシがどんな行動をとっていたかの想像がついた。
セリーナに任せていると、馬車に乗せられた。御者さんがきちんといて、セリーナも私の横に座ってくれた。これは助かった。
「セリーナも行ってくれるのね。よかったわ」
「お嬢様、それは当然でございます。おひとりで平民街へ行くことは慎んでくださいませ」
そうか、外出も護衛が必要なのよね。私は武術もできないしどうしよう。
「セリーナって武術もできるの?」
「多少心得がございます」
「おおお!」
「伯爵家のメイドならば当然でございます」
「なるほど!」
「それなら、私も武術を教えてくれるかしら」
「お任せください、お嬢様。もちろんでございます」
これから、生きて行く上で、自己防衛くらいできないといけないから、武術をセリーナから習うことにしようと決めた。何でも知っていて何でもできるメイドのセリーナさんは、スーパーなメイドさんらしい。
町の中を馬車で薬師ギルドまで移動した。窓から見える景色を、セリーナにあれこれ聞いていると、街の事が少しわかってきた。
薬師ギルドは、白く大きくどっしりしている3階建てで、権威を象徴するかのような大きな扉が目立っていた。
薬師ギルドの前に立った時、なんだかざわざわしていて、落ち着かない。薬師ギルドへ出入りする人もバタバタしているような気がする。威厳のある薬師ギルドの雰囲気とは全く違う落ち着きのなさが気になる。
ちょっと首をかしげながら、薬師ギルドの扉を開く。
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