第8話 修理屋の矜持

「おい、アクシス。そりゃゲーム機か?随分年季の入ったゲーム機だな」


アクシスが手作りした机の上にぽつりと置かれたゲーム機を腕を組んで睨むアクシスにコンが声をかけた。


「あぁ、専門じゃねぇが嫌ともダメとも言えなかった。これ持ってきたのは、半べそのボロイ服着た子供でさ」


コンが笑いながら、他の仕事どうすんだよと尋ね。アクシスは、今とってあった仕事は先に終わらせたさ。しばらく、仕事受けずにこいつに専念する。そういうと、再び腕を組んで考え込む。



しばらく考え込んだ後、木で作ったネジや部品を分けていれて置くケースを用意して。ケースの底には磁石をはりつけた。細かいネジがどっかにいかない様に、そしてドライバーや測定器具を机の上に並べていく。



「後は中がどれだけの状態で、どれだけ生きてるかだな……」


「しっかし、おめー本当なんでも直すよなぁ」


「何言ってんだ、俺は修理屋だ」


「近くに魔神が住み着いたって来てみりゃ、凄腕の修理屋ってんだから判らねぇもんだ」


「俺にもっと腕がありゃ、これもすぐになおして返してやれるのによ」


「なおりそうかい?」


「殻割(からわり)してみなきゃ判んねぇよ」


※カセットやスマホ等を実際に開いてあける事、保証対象外になるので知識無くやるのは辞めましょう。


ゲーム機のネジを一本一本外して、ケースに無くさないように保管。

工程ごとに写真を撮って、形状を忘れないように。


あけてみて、アクシスの嫌な予感が確信に変わり思わず渋面になった。



「うっわ、マジかよこれ……」


コンもアクシスがこんな声を上げるのは、ここに来てから一度も聞いた事もなかったので思わず覗き込む。


「基盤に直付けのチップの脚が何本か死んでやがるな、恐らく経年劣化だがグリス切れで熱が逃げずに熱膨張と収縮でハンダにクラックが入ってるのも何か所かある」


アクシスは魔神でダンジョンの中なら、顕微鏡の様に細かく肉眼で見る事が出来る。


「コンデンサも膨らんじまってるから、外して交換しなきゃだし参ったなぁ」


ボタンのスイッチの裏側のゴムも所々破れかけてるから当然交換しなければならないし、他にも、錆が浮いたりと見ただけでその状態がまずいのが判る。


「幸いなのは、子供の持ちもんだから当然だが煙草のヤニが付着してねぇ事だな」


そういって、とりあえず修理の予定を組む。


「まず、買える部品は全部買わないとダメだ。あれば清掃してハメるプラモデルだが部品が無ければ無い程全部作らにゃならんで地獄だぞ」



「なおらねぇって返せばいいじゃねぇか、何でそこまで拘る?」


「小さな女の子が半べそで頼んで、出来ませんで突っ返すのかよ」


「はぁ~、お前本当に魔神か?」


「残念ながら、正真正銘魔神だよ。その昔強さを追い求め、憧れすらした邪神系統の魔神がペットだと知った時。俺は強さを求める事を止めて、ひたすら何かを極めた人生をおくろうと決意した。その、極めんとしたのがたまたま修理だっただけだ」


修理に生きる決意をしたなら、誰かの笑顔の為に死ぬ気でなおして返してやるのが男ってもんだろ。子供が助けを求めてきたんだ、手を差し伸べてやりてぇじゃねぇか。


その言葉を聞いて、コンが溜息を一つつくと。


「今時、流行らねぇよ。まぁ、俺に取っちゃこうして教われるし親父から逃げれるしでお前の心を折ったペットには感謝しねぇとだが」


勝手にやっとけと、手を振るとまた奥の部屋で別の修理の仕事をやりにいってしまった。

その背中に向かって、アクシスが呟いた。


「残念ながら、俺は長生きの世間に疎い魔神だからな。流行もすたりもわかんねぇって」



さてと……、口ばかり動かしてもしゃーねぇな。




「まずは、電話で聞いてみねぇとな。もしもし、秘密工場のアクシスってもんだがそっちに資料や部品の在庫はあるかい?」


古ぼけた受話器を取って、箱舟連合豚屋通販の番号を押しリペア系のオペレーターにつないでもらう。


「もしもし、いつもお世話になってます」アクシスがいつもどうりの挨拶をし。

「あぁ、秘密工場様。こちらこそいつもお世話になってます、担当はここちです、んで早速何がご入用なんですか?」


「話が早くて助かるよ、回転おにぎり屋大繁盛ってゲーム機の直し方や部品なんか一通り欲しいんだが在庫はあるかい?」


「お調べします、折り返しますので受話器を置いて電話の前でお待ちください。五分から十分程欲しいのですが、お待ち頂けますか?」


「すんません、じゃ電話の前で待たせて頂きます」


そういって、受話器をガチャリと置いて息を吐きだす。


「普通大手って言ったらもっと傲慢なんだけどな、箱舟は相変わらず腰が低い。通信費も全額向こう持ちってのも俺ら弱小にゃありがたい」


じりりじりりと電話が鳴る、素早く受話器をアクシスが取った。


「あっもしもし、秘密工場様ですね。ここちです、口頭で在庫をお伝えしましょうか。それとも、郵送した方がいいですか?FAXとかでも構いませんよ」


「口頭で頼めるかい?」


「畏まりました、まず修理手順の動画と設計図は許可が必要ですが秘密工場様には許可が下りてますのでお渡しできます。次に、中央基盤ですがテスト済みの残数が二枚ですのでご注文が二枚以下であれば御受けできます。ボタン裏の配線シートと樹脂ゴムなんですがこちらの在庫が今御座いませんので、七か月ほどお時間を頂きたく……」


その瞬間、アクシスの顔が真っ青になる。


「無いのは、シートとゴムだけかい?」「はい、それ以外は特別便で届くのは最速で明日の夕方になります」「こっちで必要な中央基盤は一つだが、ちょっとこえぇから予備として二枚とも注文する事はできるかい?」


「予備も本来は許可が下りてないとダメなんですが、秘密工場様に関しては今回許可が上から既に下りているので在庫全てでもご注文頂けます」


(ありがてぇ!)


「すまないが、明日の夕方もし俺が居なかったら置き配しといてくれるか。金はデットベースマネタリーシステムズの口座から引き落としで」


「委細承知致しました、動画はいつも通りカセットで宜しいですか?」

「うちには、カセットしかねぇよ。すまねぇな……」


「いえ、こちらこそすいません。確認だけはしないと、上からどやされるもんで」

「そっちも大変だねぇ、まぁ今時動画なんてストリーミングで見ろよって言わないだけオタクには本当助けられてんだ」


「うちは、お客として認めた全ての相手に配慮しろって上が言うもんで」

「店が認めない奴は客じゃねぇから、知ったこっちゃねぇってか」


「うちは最初からそれが経営方針ですし、ルールにも書いてありますんで。他にも何かあったらなるはやで連絡してもらえると対処しやすいんでお願いします」



「あぁ、いつも頼りにしてるよ」



ガチャリと電話を置いて、アクシスがふぅと溜息をついた。


「シートがねぇのはマズイな、ゴムは別の妖重(あやしげ)商店にでも頼めばなんとかなるかな。あそこは輸入してチェックしねぇから大量に買ってこっちでチェックしねぇといけなくて歩留まり悪すぎるから使いたくねぇんだが」


(それでも、七か月は待てないから俺に選択肢は無いんだけどな)


「箱舟でたのめりゃ、動作チェックは完璧にしてるし梱包は丁寧だし輸送業者も自社だから時間通りにぴったりくるしで言う事ねぇんだが。ないモノを怒鳴ったって、いい事は一つもねぇもんな」


そういうと、ゲーム機の全てのパーツを丁寧に修理中の箱にいれて。

一つ一つ丁寧に元に戻して、最後に箱に部品待ちと書いたテープを貼って机の下にそっと置いた。


「にしても、シートどうすっかなぁ……」


アクシスは秘密工場の床で大の字になると、憂鬱そうに言った。

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