第7話 激闘の始まり

ある日、外に額に眼のある桃色髪の幼女が涙目で、そこに立っていた。



左手に、古すぎる携帯ゲーム機を握りしめ。

それを見つけたアクシスは、最初のぬいぐるみの少女にしたように膝を曲げて視線を合わせる。



「どうしたんだ?」「このゲーム機が壊れてしまって、古すぎてどこの修理屋もなおせないの一点張り。だから、修理屋を巡ってなおしてくれるところを探している」



「お嬢ちゃん、ちょっとそれ見せて貰っていいか?」


すっと、差し出されるクリーム色のゲーム機。

表と裏を一度見て、アクシスが頷いた。


「成程、七十六年前発売のネギ婆ちゃんの回転おにぎり屋大繁盛か。こいつは確かに断られるのも無理ないぜ?まず恐らく基盤が、箱舟本店以外じゃ手に入らねぇ。特殊チップ搭載で、四層基盤の脆いタイプだな」


その手にゲーム機を持ったまま、アクシスが眼を閉じる。



(これ何処が壊れてるのかぱっと見じゃ判らねぇけど、イヤな予感がすんだよなぁ)



「ここでもなおらないか?」幼女が寂しそうに言った。


(断りにくいなぁ)


「お嬢ちゃん、名前は?」「エタナ」



そこでもう一度、幼女を見てそのみすぼらしい貫頭衣を見た。


貧乏で、遊び道具がこれしかないって感じか……。



「まず、エタナの御嬢ちゃん。こいつは難敵だ、いつなおるか明確な回答が今の俺には出来ない。長い時間預かる事になる。料金は勉強させてもらうが、それでも無料にはできねぇどう考えても部品買わないと恐らくダメだろうからな」


ゆっくりと、エタナが頷く。


「お金は問題ない」


貫頭衣のポケットからそのボロい恰好とは不釣り合いな程のエノース金貨を見せた。


「お嬢ちゃん、あんまり大金見せびらかすもんじゃねぇよ」


しまっときなと苦笑して、アクシスはその手のゲーム機を見た。




「別にゲーム機が無事かを見に来る分には問題ねぇ、触りさえしなけりゃな。変に触られたり鼻息で部品が飛んだり、息がかかったら息の水蒸気で錆びるかもしれねぇからだ。直してんのに、壊されたんじゃ修理屋としてはたまらねぇからな。それを約束して、俺に預ける気はあるかい?」


エタナが僅かに顔を上げ、涙目ながら笑う。


「なおるのか!」


「クッソ時間かかるぞ」「構わん」


はぁ~~~と、アクシスが長い息を吐きだした。


「じゃ、これ注文票だ」胸ポケットから、白紙を二枚取り出した。


持ち主、預けたもの等を書いておく紙が二枚。


「俺とエタナで同じ紙を一枚づつ、ゲーム機がなおるまで持っておく。その紙が割符の変わりでもあるから受け取りにそれがいるぞ。もし、親とか大人が来るならそれを必ず持ってこい。後、料金の目安だが恐らくエノース銀貨の仕事になる。流石に、金貨はゲーム機でとれねぇよ。それで良ければ預かるぜ?」


にこりとアクシスが笑えば、エタナも何度も頷いてお前に頼むと言った。


「おっさんに、任せとけ」


(ちっ、引き受けちまったけどゲーム機は専門外なんだよなぁ)


この時のアクシスは知らない、このゲーム機がアクシスの修理屋神生(しゅうりやじんせい)でもワースト五になるヤバい案件になる事を。



「頼んだ、後で黒貌にちゃんと言っとく」

「誰だそりゃ」「おじいちゃんの変わりだ」


「お嬢ちゃん、悪い事は言わねぇからせめて黒貌おじいちゃんとか言わねぇとダメだぜそりゃ」


一度首をこてんと左に倒して、ぽんと拳を胸の前で叩いた。


「全く、子供のうちからそんな言葉使ってるとドツボにハマるぜ?」


笑ってアクシスが、預かったゲーム機を手に秘密工場の中に入っていく。



「頼んだぞ!」



そう叫んだ幼女が、夕日に消えて。

その大きな声で思わずチラリとアクシスが、その背中を見た時に長い髪の下に神乃屑と書かれた文字が貫頭衣に書いてあるのが見えた。



「もうちょっと、センスのある服着せてやれよ。女の子にありゃないぜ、黒貌さんよ」



全然、知らない彼女のお爺さんの変わりという。黒貌とやらに文句を言いながら。



「さて、他の仕事片付けてこいつ一本にしねぇとやべぇな」


アクシスはいつものように、幸薄そうな笑みを浮かべ。

洞窟内に、再び歩き出した。

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