第3話 補充と研鑽の日々

あの日の少女の笑顔を想い、今日も両手を握り開きを三回繰り返し冷たい水で顔を洗う。捨てられたものを分解し調べ上げ、使えるものを剥がしては棚に置いていく。


ダンジョンの機能を使って、鑑定し分析し構造を把握しては。

捨てられたゴミ達の拾って来た中から、まだ使える部分を引っ張りだす。


最初に縫いぐるみをなおしてしばらくしたら、鍋をなおして欲しいとスラムのおばちゃんに依頼された。


「二週間もらえるかい?」アクシスはそういうと、おばちゃんから鍋一つ秘密工場に持って帰って来た。



まず、鍋は粗悪な鉄で出来ていて。底に穴が空いて、これでは鍋にはなりそうにない。だから鉄を外から被せて穴を塞いで。熱しながら溶かしこんで溶着させ、鍋を外と内から磨き上げ。


外に、強度を上げる為のへこみを叩いてつける。


持ち手もネジが緩んで外れかけ、危ない事この上ない。

まず、土を盛り上げ簡易的な窯を作り。その上に、石の塊を入れ。


石の塊の上部に凹みを作り、火を入れる。

石を熱する事で、温度調整を可能にし。熱のクッション替わりにして、ひたすら調整に腐心する。人なら眼が潰れるそれですら、魔神は肉眼で色を見極める事が出来る。



だから、ひたすら熱して燃料を投下し。鉄が粘って油粘土の様な柔らかさになったら叩く、叩いて叩いて汗だくで叩く。


ゆっくりと、だがしっかりと鉄が伸びくっつくまで叩く。

折り返し、練り返し。


表と裏で合わせて二ミリ~三ミリ、そこに満遍なく広げて少し鍋の厚みが増した気がするぐらいに伸ばしたら。叩いては、秘密工場内に音が響く。


熱し過ぎも冷めすぎもダメで、何度も温度を上下させると強度が落ちてしまう。

だから色で見極めて、熱し過ぎた石の上と地面を上げ下ろししながら叩いては。


袖で汗を拭く訳にもいかない、そこまで温度を上げている時に袖で汗を拭いたなら。

人なら簡単に火傷するし、魔神でも多少は痛いからだ。



スライムに、砂を勢いよく吹きかけて貰っては研磨の変わりにして形を整え。

冷めてから、まるで魚の鱗の様に外周を叩いていく。


金属の鍋で、こんなに元が薄いのなら。

かなり荒い使い方をしてるだろうから、厚めに直して模様にしては強度を補強する。


もう一度磨いて、塞いだ穴が見えない様に。

叩いて整え、丁寧に磨いては形を戻していく。



「もう少し、頑張れるようにしてやるからな……」

そう、鍋に言い聞かせ。一心にそれを叩いては、磨くを繰り返す。


今度は、油を使って簡易のメッキを施して。

持ち手の金具は、しっかりと取り付け。


すりこぎを補足したようなチマキの様な形の持ち手を差し込んで、金具を縦と横でピンの様に叩いていれ。


木が手から滑らぬように、あえて握るとこだけざらつく様にして。

さきに持ち手だけを削りだし、磨いて作っておいたそれをしっかりと叩いていれて。




ピンの代わりにした、棒の頭を切り取って金属で被せ。隙間が見えなくなるまで磨き上げる。



「これだけやっときゃ、持ち手が外れて怪我するなんて事はねぇだろ」



何度も、持ち手を持って振り回し。持ち手がガタついたり、動いたりしない事を確認しては一つ頷く。


この金具たちも、元はジャンクだったもの。


木型や石型を作っては流し込み、木の四角いブロックでこすったり叩いたり。

とにかく、あるものでそれらしくなおす。



新しいモノを、なおしてくれと言われる度に。ひたすら、アイディアを出してジャンクで直す。新品の部品を買うと高くつく、自分より安い料金で請け負う所が無いから外注もできやしない。



だから、ひたすらアクシスは研究して分解して。道具も部品もつくり上げては、なおして、秘密工場にしか頼めないような人の修理をやる。



大切に使うのならば、信頼して預けてくれるのならばそれに応えていく。



(それが、修理屋アクシスの生き様)



およそ、魔神の生き方ではない。およそ、真っ当な生き方でもない。

最悪のコスパにタイパ、それでもアクシスは今日も秘密工場で何かをなおし続ける。


未だ魔神が誇る生き様の結晶たる、権能を使えぬ我が身ながら。

己で出来る事を一身に、ただやりぬいて。



「俺が、客と見込んだやつの笑顔の為に」



最初の少女のぬいぐるみをなおした時から、こうしてぽつぽつと。

しかし、確実に依頼は増えていった。

依頼が増えたから、最初の様な短期ではできず。

しかし、仕事に妥協も出来ず。


だから、すまないが時間をくれと頭を下げ。

アクシスは、午前で仕事をしては午後に完成品をもって街まで歩く。



完成品が無い日は午後も、修理をしてそれも無い日は部品の補充と分解を。

どうしても、新しい部品が無いと無理な時。


距離は遠いが、箱舟本店に買いに行く。

転位魔法が使えない自分にとって、箱舟本店直通の魔法陣があるのはありがたい。



どんな部品も品切れがないからこそ、本店に行くのは最後の手段。



煙草一本買うのも苦労して、楊枝を一つ咥え煙草に見立て。



「今日も、誰かの笑顔が眩しいなぁ」

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