第2話 縫いぐるみ返却

街についたなら、もう昼になろうかという塩梅。

「おう、魔神さん。仕事は貰えたかい?」そう衛兵に尋ねられ、アクシスは「あぁ……、一件だけな。可愛いレディのお客さんさ」


片手で軽く手を振り、足取り軽く街に入っていく。


「はぁ~、魔神に戦闘以外を頼む酔狂がこの魔国に居るとはねぇ」


判んねぇもんだなと肩を竦め、アクシスの背をチラ見した。



ゆっくりと、歩いてまるで霞の様に存在感薄く。表情は、まるで淡い桜の様。



街に入ってずっと真っすぐ歩き、迷うことなく中央を通り過ぎ。

スラムと中央街の間の寂れた場所に、アクシスの目的地があった。



今か今かと、女の子が玄関でしょんぼりお小遣いを握りしめ。

保護者替わりの、シスターと一緒に立っていた。



「よぉ、お嬢ちゃん」ゆっくりと左手をあげ、優しく笑う。


「魔神のおじちゃん、さっちゃんは?」


よっこいしょと、声を上げ。すっと預かった時と同じようにしゃがんでは、背中の箱を横に置いて。「それを、今から君に確認してもらうんだよ」ともったいぶったように箱の蓋をあけた。



シスターと、女の子が二人でわぁ♪と声を上げた。



「預かったさっちゃんは、この通り修理したぜ?。着ている服と縫いぐるみ用のタンスはサービスだ。約束通り、これで間違いないかい?」


「うん♪」満面の笑顔で少女が頷く、アクシスは両手を出した。


皮の厚くなった、ごつごつした手にゆっくりと少女の手から石貨が数枚渡された。


「まいどあり」アクシスは、しっかりと石貨を握りしめ。ポケットに、乱暴に突っ込んだ。


「また、なんか修理するもんがあったら宜しくな」そういうと、立ち上がりかえろうとした。ところがシスターがこっそりアクシスに尋ねる。


「これ、保存の魔術がかかってますよね?」アクシスは来た時同様うっすら笑って、「サービスだよ、俺に初めて仕事をくれた素敵なレディにな」



「ほんじゃ、渡すもん渡したし俺は帰るよ」



そういって、空になった箱を再び背中にしょって。ゆっくりとした、しかし大地をしっかり踏みしめるように歩き出した。



「俺に、修理屋としての仕事をくれてありがとな」


そんな呟きは、季節の風に消えて。



女の子が縫いぐるみの手を持って、バイバイと手を振っているのを後ろをチラ見して。


「買い直しが当然の世の中で、誰もなおして使おうなんて時代遅れだというだろうが……」


(それでも、俺は……)



「修理できるもんは修理して、最後まで使ってやりてぇじゃねぇか」



とは言っても石貨数枚じゃ飯代にもなりゃしねぇ、食べなくて済む魔神だからこそ。材料費もその辺で取って来たものを手間だけ死ぬほどかけて。


ボロやジャンクから用意したもんだから、あの子の小遣いでも修理が頼める。

本当は自分の服もボロいのに、なおしてくれなんて頼まれたらさ。



「判ったよ、そう気がついたら答えてた。バカだなぁ」



大馬鹿だろ、商売にならねぇのに。交通費もでねぇから、こうして歩いて街まで来た訳だ。



「さて、帰ったら使った分は補充しねぇとな。モノを使い捨てで使えるもん投げ捨てていく奴が居る限り、材料にゃ困らねぇとは因果な商売だ」



洞窟に向かって、秘密工場に向かって。

アクシスは、いつも街に来た時と違い。




初めて、充実した帰り道。




「お嬢ちゃん、君が大きくなって縫いぐるみがいらなくなるまで。その縫いぐるみが寄り添えるように、しっかりなおしたぜ……」


そのしわがれた両手はしっかりと、ぬいぐるみとアクシスの真心を伝えた。

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