第1話 縫いぐるみ修理
「あー、目や肩が痛ぇ」
丁寧に縫いぐるみの、糸を外し布や綿やボタン等に分解し一つ一つ磨きながらチェックをしてダメになった部品をはね終わったアクシスが目頭をもんだり肩を回しながら声をあげた。
「眼のボタンも片方は割れちまってるし、布もよれてワタが抜けちまってんな」
ダンジョンの地面を使って、丁寧に一つ一つ状態を書き写し。
ほぼ七割損傷からの、これじゃ修理じゃなくて復元じゃねぇかと苦笑する。
新品の布を引き出しから取り出して、ボロや雑巾等の切れ端を綺麗に洗浄して消毒して鍋の底を再利用してアイロンみたいに使い手作りノリと蒸気までかけた奴を幾つか。
それを、つなぎ合わせて一枚布に見立て。
ダンジョンの鑑定と測定で元の姿を映し、なるべく近づける様にフリーハンドで型紙を作って型紙を当てて布を切り抜く。
それと、同じボタンがなかったのでそれっぽく見えるボタンを二つ並べて置いて。
まず、足と手の部分になる場所を裏側からしっかりと縫いつけていく。
次に、しっかりと縫いつけて。子供が使うものだから何度も引っ張って強度を確かめながら一縫いづつ丁寧に。
爪を使って、糸玉をきって糸玉も目立たない様にする。しかし、しっかりと何度もかえして抜けない様にし。良く天日干しした新品のワタを少しづつ押し固めながらいれていく。
スカスカにならない様、しかし硬くなって抱き心地が変わらぬ様に。
抱かれて飾ってが縫いぐるみの本分、それを妥協する訳にはいかない。
「どうせ、この仕事しか受けてねぇんだから。最高のもんで返してやらにゃ魔神がすたらーな」
一通り詰め終わって、一度座りをチェックする。
倒れる様なバランスではダメ、机の上にも台の上にも座れなければ。
あの子にかえした時に、寄り添える様にな。
(縫いぐるみは、一緒に寝るとき以外倒れちゃいけねぇ)
アクシスは、目を細め。木の板から手作りした机の上で座る縫いぐるみを何度もぐるぐると回りながら上へ下へ斜めへ様々な角度で確認した。
その後、ぬいぐるみの服をそっと着せてやる。
「ぬいぐるみがマッパじゃ可哀想だしな」
そういって、服を数着本当の人間が着るように洗濯して畳んだものを用意し。その内の一着を着せ。
薄く笑いながら、「うん似合ってる似合ってる」と呟く。
どうせ、暇なんだからと縫いぐるみ用のタンスまで作ってそれに残りを入れ。
手に、布の切れ端から作ったリボンをつけて。修理完成日を裏に小さく書いて、来た時と同じ箱にいれ。
「すぐにあの子の元へ帰してやるからな」
よいしょと、箱を背負い。秘密工場の手作りの看板を外出していますに変えて歩き出す。
「縫いぐるみ用のタンスやら洋服まで気合いれて作っちまったが、喜んでくれるといいなぁ……」
ーー彼は魔神アクシス、魔神の癖に誰かの笑顔が好きな変わりものーー
近くの、ルノの街へ。
アクシスが修理屋として、初めて請け負った仕事は……。
(小さなボロボロの服を着た女の子の、同じようにボロボロになった縫いぐるみ)
秘密工場から街までは、徒歩一時間。
休む事はしないが、人と同じ様な速度で歩いては近くに咲く花を優しい眼で見る。
彼は一見して魔神には見えず、左胸に秘密工場と書かれたツナギを着ていた。
樹から削りだして、蓋が出来るようになっただけの簡易な水筒を腰に下げ。
それに入った水をちびちびやりながら、まるで自分の子供でも背負っているみたいに。
背中の修理品を大事そうに、ゆっくりと運んでいった。
今日も、お天道様が眩しいな。
洞窟暮らしの魔神にゃ、快晴の空は青過ぎた。
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