ヴィントレス

めいき~

プロローグ

「さみぃな」アクシスは小さく呟く。



ここは、洞窟に木の看板が立てかけてあるだけの秘密工場。


まだ、魔国の春は来ない。うっすらと、樹々の蕾を見つめ相変わらず悲しい顔で薄く笑う。


 始めたばっかの、秘密工場に修理頼もうなんて馬鹿はいねぇやな。

そう一人火のついていない煙草をただくわえ、もう何度目か判らない白い息をゆっくりと吐き出した。




彼の名は魔神アクシス、未だ権能を開眼させていない変わりものの魔神である。

本来、魔神というのはダンジョンマスターで無い。だが、ダンジョンを作る程度の力はある。この魔国には、東西南北に四大ダンジョンがあり。


西は居酒屋エノちゃん床下にある怠惰の箱舟、北は悪魔の憂鬱、南は欄干日暮、そして東の秘密工場。


最弱最小のダンジョンというのもおこがましい、ただの洞窟に一人住み色々な街で預かった修理品を修理して返す。という商売を始めたものの、今日も仕事を一つも取れず。


こうして、道具を磨いたり作ったりするだけの日々。



「魔神がダンジョンやらずに、修理屋やろうって事自体この世の常識に全力で逆らってんだけどな」


そんな独り言すら、お天道様に消えていく。




今日も街まで歩いては、樹の板とベルトで作った箱を背負って。


「今日も空だったな、人間だったら干からびて死ぬんじゃねぇか?」と自分に言い聞かせ。ただ毎日、歩いて帰ってスライム枕に地べたで寝る日々。


ただの洞窟なんだから壁もありゃしない、床にしくものも特になく。

ゴミ捨て場で拾って来たものを再利用したり、分解したり、洗浄したりして。

使える部品だけとっては外して、それを倉庫代わりの洞窟の奥に並べておく。


自分の布団一つしかないのに、道具はきちんと磨かれて。




そんな、アクシスが最初に修理を頼まれたのは小さな女の子のボロくなり過ぎた縫いぐるみ。


「初仕事がこれかぁ……」ただ、とても身なりが良いとは思えない女の子が必死に握っていた縫いぐるみとお金。足りねぇよと断るのは簡単だけど、モノを大切にしない事にムカついて始めた修理屋なのに。そこで、断るのはおかしいじゃねぇかと自分に言い聞かせ。


「おじちゃん、これなおる?」その台詞に、アクシスはあぁと頷く。

「俺は修理屋だぜ?、モノなら大抵治せるさ。嫁の機嫌だのは旦那の浮気だのは、専門外だけどな」



そういって、ぬいぐるみを背中の箱に丁寧に座らせて。

持って帰ってきたはいいが、大きく息を吐きだした。



「三日、うちに入院させるけど構わねぇかい?」



ゆっくりと膝を折り、しゃがんで目線を合わせ優しい笑顔でアクシスが女の子に尋ね。ゆっくりと、首を縦に涙目で振ったのを確認しもって帰ってきた。



んで、道なりに道端の花を愛でながらえっちらおっちらさっき帰って来たトコだ。



「とは言ったものの、もうギリギリ縫いぐるみの形保ってるだけのボロい布の塊なんだよなぁこれ……」



ダンジョンの鑑定とスキャンを使って、原形と現在の差異を空中に映しながら苦笑した。


「まっ仕事だからやるけどさ、おっさん頑張って直すから大事にしてくれよ」




これは、異世界修理屋秘密工場の何処か既知感のある魔神アクシスのお話。

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