第4話 この小さな洞窟で
「ここが秘密工場か、本当に看板が無かったらどこが入り口かも判んねぇ程だな」
想像以上に小さい洞窟に、想像よりボロい木を彫って手作りしましたと言わんばかりの小さい看板が一つ。
これが魔国で四か所ある、ダンジョンの一つだとは夢にも思えない程。
(普通ダンジョンは資源を生み、魔物を生み、その支配者たる魔神はもっと傲慢だろう)
入り口で、そう腕を組んで首を捻っていたら。外に出てきて、腕と足を曲げ伸ばししようとしたアクシスとばったりと出会う。
(魔神が毎日、ダンジョンほったらかしで街に来て修理屋やってるなんて眉唾だと思ってたぜ)
「おはようさん」図体のデカいコンが片手で挨拶した。
「あ?あぁ……。修理のお客さんかい?」
魔神の癖に、全く覇気もさっきも無く薄く笑うツナギを着たしわがれたおっさんが一人。
あぁ……、こりゃステータス見たって魔神だってホントかよって思うわ。
「すまねぇな、色々予約がつまっててさ」「あ?あぁ用事は修理じゃねぇんだ。俺に手伝わせてくれねぇかと思ってさ」
その瞬間眼がすっと細くなり、睨みつけるようにコンを見るアクシス。
背筋が凍る様な、まるで獰猛な肉食獣が餓えてしぬ寸前で肉を見つけたような時眼の前に置かれた肉が自分だった様な錯覚を覚える。
「理由がねぇし、ギャラは出ねぇよ。見ての通りボロくて貧乏してる、場末のなんちゃって修理工場だからな。道具や部品さえまともなものが買えなくて、ジャンクから分解して揃えてる有様だしな」
コンは、ゆっくりと深呼吸してこう言った。
「親父と喧嘩してさ、最近街で噂の修理屋で修理でも教えて貰えないかと思ってな。街だと親父が有名で、何処も俺を雇っちゃくれないし教えてもくれねぇんだ」
はぁ~~~~と長い長い、溜息をついて殺気が霧散する。
「デカい図体して、ダメダメじゃねぇか。しゃーねぇ雇う金はねぇから、教えるだけだ。学校じゃねぇから、飯と水位自分で用意してこいよ」
頭の後ろをゴリゴリとやって、何とも言えない顔をして。
「ありがてえ、じゃ明日から勝手に来るぜ?」「おう、午後は街に出る事が多いから午後に来ても俺は居ねぇ事多いぜ気をつけな」「判ったよ」
ーーこれが、長い長い付き合いになるコンとアクシスの始まりーー
(ったく、有名ってあいつのスラムの顔か何かかよ。デカい獣人だなぁ)
初対面のアクシスは、そう思っていた。
(まぁ、現実に幻滅したなら。すぐ辞めんだろ)とも。
修理屋なんて、こんな何にもならねぇ仕事は魔神位しかやんねぇよ。
毎日分解しては材料や道具をこさえて、最近は鍋の修理が多かったなと思えば持ち手を余分に作って置くし。剣の修理が多いなと思えば、水を沢山くんでおき。
窯にいつでも火をいれられるように、薪を割っては積み上げて。
水分がぬけねぇと使い物にならねぇから、沢山沢山割って積みあげては自分の爪で割った日付をほっておく。
こんな、割に合わなくて金にならねぇ仕事をやろうって奴は大馬鹿だ。
「俺みたいにな……」それでも、人がいるっていうのは何処か嬉しくて。
(続くといいな、一か月か一週間か。一年はねえよな)
そう思っていたんだよ、コンが初めてここに来た時はさ。
「研鑽と努力の狂気に手を染めても、誰かの笑顔の為に」その気持ちが無い奴が修理屋なんかやれるわけねぇ。
だからさ、コンとやら。
淡い夢を見せてくれ、こんなわりにあわねぇクソ見てぇな仕事でもやりたいってバカが俺以外にもいたっていう俺にとって都合のいい夢をよ。
これが、アクシスが押しかけて来たコンを迎え入れた理由。
魔神はダンジョンの中限定で鑑定が使えるが、悪意の反応はなかった。
彼にあったのは、本当に自分の親父に対しての怒り。
だから、毒気を抜かれて溜息もでようってなもんさ。
「明日を楽しみにしてんぜ、オッサン」
自分を棚にあげて、コンの背中にむかってそう呟いた。
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