第118話 さすメラさん
俺とシャルが出入口となっている通路に戻ると、イルメラとノエルが待っていた。
「お疲れー。見事だったわね」
イルメラがグーを差し出してきたのでグータッチする。
「余裕、余裕。次はお前らなん?」
「そそっ。ノエル、行くわよ」
「は、は、はい」
ノエル、大丈夫かな?
顔が真っ青だけど……
「落ち着きなさい。怖いのはわかるけど、それを表情に出さない」
同郷のシャルがノエルの背中に触れて、慰める。
「はい……」
「冷静に……全部、前衛のイルメラさんに任せなさい」
「はい。全力で応援します」
応援でいいんだろうか?
「ははっ! 応援もいらないわ! 一瞬で終わらせる! あんたらもそこで見てなさい!」
イルメラが槍を取り出し、肩に担ぐと上機嫌で演習場に向かう。
ノエルも慌ててイルメラを追っていった。
「イルメラさんは自信満々ね」
「対照的な2人だったな」
俺とシャルは出入口で観戦することにした。
イルメラとノエルが演習場の真ん中に立つと、対戦相手も出てきた。
どうやらイルメラ達の相手は男女のペアのようで男子の方は軽装だが、剣を持っており、女子の方は杖を持っている。
俺とシャル同様に前衛と後衛のペアのようだ。
先生の説明が終わると、ノエルと相手の女子が後ろに下がっていった。
「ノエル、下がりすぎじゃない?」
ノエルはほぼ壁まで下がっている。
「ビビりすぎだなー……」
「まあ、仕方がないわね。ツカサはこの対戦をどう見るの?」
「イルメラの勝ち。相手にならんな」
本当に5秒で終わるわ。
「え? そんなに?」
「うん」
俺が頷くと、ジェニー先生が開始の合図をした。
直後、イルメラが槍を構えて、まっすぐ突っ込んでいく。
相手の男はそれを迎撃するために腰を下ろして、剣を構える。
しかし、イルメラの姿が消えた。
「え?」
「ほらなー」
イルメラは男子の後ろに現れ、背後から男を突き刺した。
すると、男は何もできずに膝をつき、消えてしまう。
そして、イルメラがゆっくりと振り向き、残っている女子を見た。
「ひっ!」
女子は完全にビビっているが、杖をイルメラに向ける。
だが、遠目にも震えているのがわかった。
「ありゃダメだ」
完全に戦意を喪失している。
「そこまでです! 勝者はイルメラ、ノエルチーム!」
ジェニー先生も同じ判断をしたようで試合を止めた。
「本当に一瞬……何あれ?」
「シャルと同じ転移魔法。イルメラ相手に前衛と後衛が分かれた時点で負け決定だわ。本来なら後衛から潰すんだろうけど、そうしなかったのはイルメラの優しさだな」
さすがにやめたか。
「接近戦タイプの魔法使いの転移魔法……恐ろしい戦術を使うわね。後衛殺しじゃないの……」
「あれで逃げるクマの脳天を突き刺してたな」
「恐っ! あれが相手でなくて良かったわ」
後衛のシャルはそう思うだろうな。
まあ、俺達とやっても勝てるけどな。
何しろ、後衛が何もしないから実質、イルメラだけだし。
「転移魔法は難しいの?」
「めちゃくちゃね。前衛に使われたらたまったもんじゃないわ」
シャルがそう言って踵を返したので俺もあとを追う。
そして、そのまま通路を歩いていくと、正面から金髪横分けのイケメンが歩いてきた。
もちろん、エリク君である。
「ツカサ?」
シャルが前を向いたまま俺の名を呼ぶ。
「従兄のエリク君」
「あれが……」
実は事前にシャルにはエリク君のことを説明してあるのだ。
もちろん、父さんの案である組み合わせは先生が決めたことにするというのも伝えてある。
俺達がそのまま歩いていくと、エリク君と対面した。
「ツカサ、まずは1勝おめでとう」
エリク君がいつもの笑顔で声をかけてくる。
「ありがと。えーっと、こちらはシャル。生徒会長ね」
「もちろん、知ってるよ。僕はエリク・ラ・フォルジュ。噂はかねがね」
「シャルリーヌ・イヴェールよ。こちらも噂はかねがね」
因縁の2人が挨拶を交わした。
エリク君はいつも笑顔だし、シャルもいつもの仏頂面だ。
だが、雰囲気は非常に悪い。
「シャルリーヌさんも見事だったよ」
「ありがとうございます。ツカサ、じゃあ、午後からね」
シャルはそれだけ言って、エリク君の脇を抜け、そのまま歩いていく。
「午後からって?」
シャルの後ろ姿を見ていたエリク君が振り返って聞いてくる。
「トウコ達の試合だよ。両チーム共に俺達と戦うことになるから偵察。特に相手チームのロナルド、ユキチームはまったくわからないから要チェックなんだ」
これは本当。
「なるほどね……一緒に見ようかと思ったけど、ツカサはシャルリーヌさんと見るか」
「そりゃね。一緒に見て、対策を考えないと」
彼を知り……己、を……ってやつ。
「やるからには勝ちにいく、か……」
「負けても気にしないけど、負ける気はさらさらないからね」
シャルのためと兄の立場を維持するため。
「さすがだね。わかった。とにかく、おめでとう。じゃあ、僕はちょっと校長先生に挨拶に行ってくるよ」
「わかったー」
エリク君が踵を返していったのでそれを見送る。
「おっ! ツカサー、私の雄姿を見てたー?」
後ろから声が聞こえてきたので振り向くと、イルメラとノエルが近づいてきた。
「見た、見た。あのコンボはマジで強いな」
「でしょー? まあ、他の二組に見られただろうから次はこう簡単にはいかないけどね」
「それでも勝つんだろ?」
自信がありありと出ている。
「もちろん。転移魔法は逃げる魔法としか認識されてないけど、攻撃にこそ使えることを知らしめてあげるわ」
「頼もしいです!」
ノエルが手を合わせて喜ぶ。
「ノエル、マジでイルメラで良かったな。敵が来ても転移で助けてもらえるし」
「本当ですよ。頼るべきはイルメラさんです」
「だよねー。あははー!」
2人共、上機嫌で良かったわ。
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