第106話 情けは不要!


「それで理由は何なんです?」


 ちょっとへこんだが、聞くことは聞かないいけない。


「そうね……理由はいくつかあるんだけど、まずは君に関係すること」


 え? 俺?


「俺のせいですか?」


 シャル、ごめん!


「そういうことじゃないわよ。他の町との関係が微妙になってきたから危機管理というか自衛手段を考えてほしいっていうのがある。昨今の魔法使いは戦わない人は本当に戦わないからね。それはどうなんだってこと」

「戦いは良くないって話じゃないでしたっけ?」

「争うための武と自分を守るための武は違うのよ。他の町との関係に限ったことじゃないし、自衛手段は持っておこうって話」


 まあ、わからないでもない。

 実際、俺がシャルに武術を教えているのはそっちの意味だし。


「急ですねー」

「前から検討していたみたいね。というよりも、かなり前から要望があったらしいのよ。1対1を想定していない魔法使いって多いし、補助系や回復系の魔法使いこそが演習に出ないといけないのに勝ち目がないからまったく出てこないのはおかしいってね」

「普通の授業に演習を取り入れればいいのでは? 年に2回は少ないですって」

「それはそれでうるさいのがいるのよ。戦争を助長するとかー、イジメに繋がるーとか」


 面倒だなー……


「なんか非効率ですね」

「組織なんてそんなもの。君も大人になればわかるわ」


 へー……


「あの、このことをシャルに伝えてもいいです?」

「どうぞ。ラ・フォルジュ派としても勘違いで恨まれたら嫌だしね」

「すみません」

「大変ねー……ちなみに、ツカサ君は誰と組むか決まった? 妹さん?」


 なんでやねん。


「トウコはまず除外ですよ。向こうもそう思ってます」

「あ、そうなんだ」

「双子はよくセットにされますけど、普通に嫌ですよ。それに兄妹であることを隠してますからね」


 一緒にいると高確率でバレちゃう。


「あー……そうだったわね。じゃあ、どうするの?」


「先生に決めてもらう方向にしようかなって思ってますね」

「え? そうなの? 君のことだから仲の良い子と組むと思った」

「やる気ないですからねー……賞品や単位をくれるならまだしも」


 モチベーションがないわ。


「あくまでも実習だからそれはできないのよね。でも、出たら頑張ったの?」

「真っ先にユイカと組んで全員、蹴散らしますね」


 同じ戦闘特化のユイカとならやれる。

 まあ、もうトウコに取られたけど。


「自信はあるのね……まあ、先生に任せるというのは悪くないわよ。先生も生徒達の適性や相性なんかを見て、決めるからね。他の生徒や魔法に詳しくないツカサ君はそっちが良いかも」


 ミシェルさんがそう言うならやっぱりそれだな。


「じゃあ、そうします。話を聞かせてもらってありがとうございます」


 そう言って立ち上がる。


「全然いいわよ。これも教師の仕事だし、何より私はあなたの家の派閥の人間だからね。あ、そうそう。私からも聞きたいんだけど、将来、エリクさんが手伝ってくれって言われたらラ・フォルジュの魔法使いになる?」

「いや、就職に困ったら双子はセットだろって言って、エリク君に泣きつくつもりなんですけど……」


 優しいエリク君はきっと助けてくれる。


「あ、そう……君って軽いわよね」

「重いと生きづらいですよ? 魔法使いだろうと名門だろうと楽しく生きましょうよ」

「そうね……本当にそう思うわ…………ハァ……こりゃダメだ。本当にダメだ」


 ミシェルさんが目を手で押さえ、天を仰ぐ。


「何が?」

「いーえ、お婆様が言っていた通り、君は本当に素直で良い子ね」

「……どうも」


 すげー他意がある気がする……


 俺は何だろうと思いながらも暗くなってきたので急いで家に帰った。


 翌日、この日も話題は魔法大会だった。

 そして、金曜になり、午後からへこんでいるシャルを慰めながら呪学の授業を受け、土曜となった。


 俺達は朝から公園で武術の訓練をしており、心ここにあらずのシャルを投げた。

 すると、仰向けで倒れているシャルが俺をじーっと見上げてくる。


「こうやってトウコさんに投げられて、ユイカさんの短剣でぐさっ……」

「シャルさー、負ける想像ばっかりするなよ」


 もっと良いイメージを持ちな。


「私があの2人に勝てると思う?」

「思わない。でも、大丈夫だって。多分、当たらないし」

「どうだか……」


 まーだ疑ってやがる。


「昨日、説明したじゃん」


 昨日の呪学の授業後にミシェルさんから聞いた魔法大会変更の経緯を説明したのだ。


「それとは関係なく、当たる気がするのよ……」


 完全にネガティブになってるわ。


「シャルは誰と組むんだ?」

「知らない」


 ん?


「知らないって先生にパートナーを見繕ってもらうのか?」

「そうね。私、友達いないもの」


 悲しい……


「えーっと……」

「いいの。それに本来だったらマチアスと組むことになってただろうし、それを考えるとまだマシ」


 まあ、マチアスの能力を置いておいてもあれと組むのは嫌だな。


「良い感じの生徒と組めるかもしれんし、そっちに期待するのもありだぞ」

「ないわね。遠距離しかできない私と組むことになるのは多分、接近戦タイプのバランス型。でも、それはトウコさんとユイカさんの餌食よ。ついでに私も餌食」


 フランクやイルメラのタイプか……

 確かにユイカとは相性が悪いな。

 さらに最悪なのはトウコが遠距離で魔法も放てる接近戦型なこと。


「もう諦めようぜ。たかが実習だって」

「そうね……恥だけど、弱いのは事実。これを糧に頑張ればいいのよ」


 シャルはそう言って立ち上がった。


「いっそ俺と組むか? ユイカもトウコも潰してやるぞ」

「…………ん? あなた、同じクラスの子と組むんじゃないの?」

「いや、先生に頼むつもりだった」


 結局、フランクとセドリックで組んだし。


「へー、意外……え? ツカサと組むの? CクラスとDクラスよ? もっと言うと、イヴェールとラ・フォルジュよ?」


 まあ……


「別にいいだろ。何も問題ない」

「えー……」

「嫌なら別にいいぞ」

「ちょっと待ってね……」


 シャルが腕を組んで考え出す。


「じっくり考えろー。ただし、月曜までな」


 月曜までに先生に申請しないといけない。


「うーん……ツカサか……確かにトウコさんとユイカさんに勝てるかもしれない……でも、クラスと家の問題が……いや、別に学生の演習だし、そこまで関係ないか。ツカサが前、私が後ろ……悪くないような……でも、どっちも特化しすぎ……」


 すげー悩むなー……


「もうちょっと軽く考えれば? 他にもクラスを跨ぐ奴はいるだろうし、そもそも誰も気にしねーよ。優勝も何もない演習だぞ」

「確かに……よし! 一緒にトウコさんを倒しましょう!」


 そうそう。


「任せとけ。母さんに頼んで、前日の夜はあいつが好きな生牡蠣にしてもらう」


 俺は嫌いだから食べない。


「いや、よしさない……それはよしなさい。可哀想でしょう」


 あ、当たったことあるな。

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