第105話 ごめんね……


「大丈夫かな、シャル……」


 電話を切ると、首を傾げる。

 そして、違う人物に電話をかけてみることにした。


『もしもしー? どうしたのー?』


 しばらく呼び出し音が鳴っていたが、目的の人物であるミシェルさんの声が聞こえてくる。


「こんにちはー。急に電話しちゃってすみません」

『いえいえー、仕事も終わって家でゆっくりしてたところよ』


 電話が繋がったということはこっちの世界にいるわな。


「すみませんが、ちょっと話を聞きたいんですけど、いいですか?」

『魔法大会の件?』

「ええ。それです」

『いいわよー。電話じゃなんだし、あそこの公園に来てよ』


 俺とシャルがいつも武術の訓練をしている公園だな。

 ミシェルさんと初めて会ったのもあそこだし。


「わかりました。すぐに行きます」

『はいはーい』


 電話が切れたので運動着に着替え、家を出る。

 そして、走って公園に向かうと、いつもシャルと待ち合わせるベンチにミシェルさんが座って待っていた。


「遅れてすみません」

「いえいえ、ウチはここから近いからね。まあ、かけなよ」


 ミシェルさんに勧められたので隣に腰かける。


「今日から教員ですっけ?」

「そうね。まあ、何かの授業を任せられているわけではないから雑用なんかをしてたわ」


 働くって大変だなー。


「初日で大変な時に呼び出してしまってすみません」

「いいの、いいの。それで魔法大会の何を聞きたいの?」

「えーっと、知っているかわからないですけど、なんであんなに変わったんですかね?」

「そうねー……知っていると言えば知ってるわね。ちなみに、君はどう思う?」


 ミシェルさんは頬に指を当てながら笑顔で聞いてくる。


「いやー、さっきシャルと電話してたんですけど、シャルがラ・フォルジュの陰謀だーって言ってましたね」

「はい? 陰謀? ラ・フォルジュがなんで?」


 ミシェルさんがポカンとする。


「トウコが決闘でシャルに負けたんですけど、それを恨んでリベンジさせる気だって言ってますね。どう考えても、次やったらシャルが負けるんで」

「あー、そういうこと……あの子、気が強いのか弱いのかどっち?」

「気は強いけど、コンプレックスの塊ですね。魔力が低いことと弱いことを相当、気にしてます」

「弱そうだとは思うけど、別に魔力は低くないでしょ」


 確かに魔力が低いわけではない。


「トウコと比べてですよ。イヴェールとラ・フォルジュの関係もあって、あの2人はライバル関係なんです。でも、武家のシャルの方が魔力も低くて弱いんで気にしてるんです。ましてやシャルは次期当主ですから」

「まあ、わからないでもないけどね。しかし、難儀な子ねー……あの子、完全に研究職タイプでしょ」

「わかります?」

「そりゃね。武家って言うけど、剣なんて握ったこともなさそうだし」


 ないだろうな。


「実際、弱いんですよ。何が弱いって、そもそも性格が良すぎて戦いに向いてない」

「褒めてるの、それ?」

「褒めてますよ」

「武家の子には褒め言葉じゃないわよ。それどころか失格の烙印ね」


 そうかもしれない。


「でも、事実そうなんですよ。戦いに向いている奴っていうのは2種類います」

「ほうほう。聞かせて」

「まずは感情を殺せる人間。怒りも持たないし、淡々とこなす人です」


 多分、ミシェルさんやクロエがそんな感じ。

 あと、同級生で言えば、フランクがこれに当たる。


「なるほどね。もう一つは?」

「良い言い方をすれば、心に熱いものを持っている人です」

「悪い言い方をすれば?」

「野蛮人です」


 悪い言い方どころか普通に言えばそうだ。


「野蛮人ねー……」

「シャルは殴られたら殴り返す人間なんですよ。気の弱い人は殴り返すこともできない」

「じゃあ、良いんじゃないの?」

「いーえ、野蛮人は殴られそうになった時点で先に殴ります」


 イルメラ、ユイカはそのタイプ。


「なるほど……」

「シャルは闘争心はあるんですよ。負けたくないという想いも人一倍強い。でも、肝心の性格が優しい。人を傷つけることに躊躇する。これは致命的でしょうね」

「よく見てるわね」

「土日はほぼ一緒にいますし、武術を教えているのでわかります」


 というか、優しくないとこんなにも勉強を見てくれんだろ。


「こりゃヤバいわ……完全に手遅れ」


 ミシェルさんが足を組んで手を顎に置き、遠くを見る。


「何が?」

「いーえ。そんな優しいシャルリーヌさんはトウコさんに絶対に勝てないと?」

「無理でしょうね。トウコは殴ろうとする相手を先手必勝でボコボコにしますから」

「魔力も負け、武術も負け、資質も負けている。なるほど……勝ち目はないわね」


 番狂わせは二度も起きない。


「シャルもそれはわかっているんですよ。だからトウコとは二度と戦わないって言ってたんですけど、今回こうなりました」

「はいはい。そりゃラ・フォルジュが裏で手を回したとか言い出すわね」

「実際、どうなんです? 何か知ってます?」

「いや、そんなわけないでしょ。研究職の家のラ・フォルジュが戦いに勝って何になるのよ。というか、学生の勝ち負けに意味なんてないわ。ただの演習じゃないの」


 クロエもそう言ってたなー。


「気にしいなんですよ」

「面倒な子ねー……ねえ、シャルリーヌさんが面倒だとは思わないの?」

「いや、俺の学力の方が遥かに面倒なんで……」


 すみません……


「あー……ごめん」


 バカですみません……

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