第104話 沈む


 基礎学の実技の時間を終え、寮でフランクとセドリックと昼食を食べたが、話題は魔法大会のことだった。

 食堂には他の生徒も多くいたが、やはり話題は魔法大会のことであり、皆が一喜一憂しているように見えた。


 昼食を食べ終え、少し2人と話すと、家に帰る。

 そして、部屋でゴロゴロしていると、隣の部屋から音がしだした。


 俺はベッドから起き上がると、隣の部屋に行く。


「トウコ、ちょっといいか?」


 そう言いながら扉を開けると、トウコが制服姿のままベッドに寝転んでいた。


「お兄ちゃんはノックという大事な文化を頭からデリートしたの?」

「お前もせんだろ。それより、いいか?」

「なーに?」


 部屋に入ると、ベッドにもたれかかるように座り、トウコを見上げる。


「お前、魔法大会どうすんの?」

「出ない理由がないし、出るよー」


 まあ、ウチも秘匿する魔法なんかないしな。


「誰と組むん? 決めた?」

「さっきユイカと組むことになった」


 ユイカか……

 また血の気の多いコンビだな。


「早く決めたな」

「イルメラとノエルが組んじゃったみたいだからね。他に友達いないし、知らない人と組みたくない」


 なるほど。

 それで即決か。


「お前らは三勝しそうだな」

「どうかねー? まあ、誰が来ても潰すだけ。会長が来ないかなー」

「シャルは参加せんだろ」

「会長も強制参加じゃないの? 規定が変わったじゃん」


 ……あれ?

 その辺はどうなんだろうか?


「後で聞いてみるか……」

「お兄ちゃんはどうするのー?」

「どうでもいいな。先生に任せようかと思っている」


 そこまで興味ないし。


「フランクとセドリックは?」

「あいつらはあいつらで組むだろ」


 バランス的にもちょうどいい。


「あー、そうかもね。お兄ちゃん、ハブだ」

「言い方。俺は元々、誰かと組んで戦うことを想定してないんだよ」

「ぼっち魔法使いだねー。まあ、私もなんだけどさ」


 あとユイカもだな。

 だからトウコとユイカは良い組み合わせかもしれない。

 絶対に連携はしないが、個々が強いので好き勝手できる。


「他の生徒の魔法も知らんし、先生に任せた方が良いだろ」

「まあねー。でも、お兄ちゃん、自分の部屋に戻ってスマホとにらめっこした方が良いよ」

「なんで?」

「多分、会長が泣きついてくるから」


 子供か!


「そんなわけないだろ」

「どうかなー? まあ、待機してなよ」

「ふーん……」


 トウコにそう言われたので立ち上がって、部屋を出た。

 そして、自室に戻ると、ベッドに寝転びながらトウコに言われた通り、スマホで適当なサイトを眺めることにする。

 そのまましばらくネットを見ていると、画面が着信画面に代わり、シャルの名前が表示された。


「……本当にかかってきたし」


 身を起こし、着信ボタンを押す。


『ツカサー……元気ー……?』


 暗っ!


「どうした? めっちゃテンション低いぞ」

『あなたも魔法大会の中身が変わったのは聞いたでしょ?』

「まあ、だいぶ変わったっぽいな」

『一番変わったのは何だと思う?』


 しかし、暗いなー……


「全員参加?」

『せいーかーい……審判も先生に代わりましたー……つまり私も強制参加でーす』


 トウコが言っていた通りか……


「当日、風邪引けよ」

『逃げたって思われるだけよ。恥中の恥』


 まあ、俺も逃げたなって思うけども。


「どうすんの?」

『どうもこうもないわね。あなたの妹さんにボコられる私を見せてあげるわ』

「いや、対戦相手はランダムで3組だろ。トウコと当たる可能性はかなり低いぞ」


 計算はできないが、めちゃくちゃ低いと思う。


『私は今回の変更をラ・フォルジュの陰謀だと思っている』


 何を言っているんだろう?


「なんでそう思うん?」

『トウコさんにリベンジさせるためよ。だから私を強制参加させてボコらせる気ね。だからランダムというのも絶対に仕込み』


 すんごい被害妄想に聞こえる。


「そんなことはないと思うけどなー」

『いーや、きっとそうね。自分のところの有望株が口だけ女に負けたのが遺憾なのよ。それで復讐するために圧力をかけたに違いない』

『……お嬢様、ラ・フォルジュもそんな暇じゃないと思うんですけど』


 やっぱりクロエはいるんだな……


「俺もクロエが言う通りだと思うぞ。それをやるならトウコに決闘するように指示するだろうし」


 というか、口だけ女って何だ?

 シャル、まったくしゃべらないじゃん。


『トウコさんは誰と組むか決めたの?』

「ユイカと組むってさ」

『殺す気満々……1年で1位、2位を争う殺傷能力高めの女子2人』


 まあ、それは否定しない。

 そして、トウコもシャルと当たんないかなーって言ってた。


「ユイカはどうにかなるだろ。あいつは接近戦しかできんぞ」


 指弾とかいうのがあるらしいけど……


『もう1つ、ラ・フォルジュを疑っている理由があってね……トウコさん、文字通り、私の翼を奪っていったでしょ』


 あー……空を飛ぶ魔法……

 タイミングわりー。

 確かにトウコが嵌めたように思えてくる。


「いや、トウコにそんな意図はないと思うぞ。あいつ、バカだもん。昨日もリビングで飛んで頭をぶつけてたし」

『もう覚えやがった……私は半年もかかったのに……』


 ダメだこりゃ……

 シャルが落ち込みすぎて超ネガティブになってる。


「あのさー、今回は負けても仕方なくね? コンビでの戦いならシャル一人のせいじゃないし」

『お嬢様、ツカサ様の言う通りですよ。そもそもいくらイヴェールの次期当主とはいえ、無敗なんてありえません。時には負けることもありますし、何よりもまだ学生であり、所詮は演習です』


 クロエは良いことを言うな。

 学生時代、無敗の奴が言っても嫌味にしか聞こえんが……


『そうねー……骨は拾ってちょうだい』


 仕方がない……

 もし、シャルとトウコが対戦する様になったらトウコには風邪を引いてもらおう。

 1万円くらいで引いてくれるだろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る