第103話 魔法大会


 翌日の月曜日になり、またも1週間が始まった。

 フランクとセドリックと寮で合流し、教室に向かう。

 そして、いつもの後ろの席で待っていると、ジェニー先生が教室に入ってきて教壇に立った。


「皆さん、おはようございます。基礎学の授業を始まる前に皆さんにお知らせがあります」


 ん?


「今月末に開催予定の魔法大会ですが、昨年までの大会とは大幅なルール変更を行うことが決定しました。詳細は今日中にでも掲示板に貼られますので確認してください。ただ、大きなルール変更だけはこの場で先に話しておきます。まず、従来の1対1を2対2に変更することです。これは魔法使いの特性上、どうしても有利不利が生じ、公平ではないという意見があったからです」


 イルメラやフランクが言っていた相性だな。

 確かに公平ではないし、2対2なら組む相手によって弱点を補える。


「せんせー、2対2ができるほどに人が集まらないと思うんですけどー」


 イルメラが手を挙げて質問する。


「はい。それが別のルール変更です。ルールというより、規定変更ですね。今年から1年生に限り、全員参加となります」


 は?


「え? 全員ですか?」

「はい。ただし、社会人の方などの別の仕事がある人はこれまで通り、希望する人だけです。もしくは、実家や本人の都合がある人は免除されます。その場合は申請をしてください」


 マジ?

 俺も参加しないといけないってこと?

 というか……


 前の席の方のノエルを見ると、ノエルが手を挙げた。


「あ、あの、全員参加って私みたいなのもですか?」

「はい。そうなります」

「あの……何もできずに終わると思うんですけど……」

「それは工夫、戦略次第です。どんな魔法使いでも特性があります。あなたであれば回復魔法が得意なのでそれが役に立てます」


 それはそうだろう……

 でも、俺なら真っ先にそういう奴を潰す。


「えーっと、ギブアップは?」


 あ、始まってすぐにギブアップする気だ。


「一人が戦闘不能になったら認められます。もしくは、審判がこれ以上やっても無理と判断した時点で戦いを止めます」


 まあ、ノエルが一人になった時点でな……


「そ、そうですか……」

「では、ルール変更の説明を続けます。これまではその年の参加者の数によって、総当たり、もしくはトーナメントを実施していましたが、今年は各チームがランダムで選ばれた3チームと対戦してもらいます。当然ですが、3勝するチームが複数出ると思います。ですが、優勝というものはありません。あくまでも実技演習です」


 優勝がないんかい……

 まあ、賞品もないし、別にいいけどさ。


「先生、組む相手はどうやって決めるんですか?」


 今度はトウコが手を挙げて質問する。


「それは自由です。希望者は好きな相手と組んでも構いませんし、こちらに任せる場合はこちらが適性を考慮し、選びます。来週の月曜までに書類を提出してください」

「それは他所のクラスでも良いということですか?」

「はい。ただし、1年生だけです」

「わかりました」


 俺、誰と組もうかなー……

 まあ、トウコ以外なら誰でもいいか。


「お知らせは以上です。詳しいことは掲示板を確認、もしくは、各教員に聞いてください。では、授業を始めます」


 ジェニー先生はそう言って基礎学の授業を始めた。

 今週の基礎学は実技の時間もあったので最初の2時間の座学を終えると、演習場に向かう。

 そして、一通りジェニー先生のオートマタに魔法を放っていくと、自由時間になったのだが、ノエルが頭を抱えていた。


「大丈夫?」


 イルメラがノエルに声をかける。


「最悪な光景が脳裏に浮かんでいます。ユイカさんに切り刻まれるか、ツカサさんに首の骨を折られるか、トウコさんに氷漬けにされるか……」


 そりゃ最悪だ。


「私はしないよ」

「俺もしない」


 ユイカと俺が即否定する。

 とてもではないが、このノエルを攻撃できない。


「じゃあ、氷漬け……」


 絵になるじゃん。

 絶対に口に出さないけど。


「さすがにトウコもしないでしょ。それにノエルの場合は一人になった時点で先生も止めると思う」


 俺もそう思う。


「真っ先に狙われません? 回復魔法や補助魔法の使い手って真っ先に狙われるイメージがあるんですけど……」

「うーん、どうだろー?」


 イルメラが言葉を濁している。


「どうです?」


 ノエルが俺とユイカを見てきたので同時にさっと目を逸らした。


「狙うんだ……」


 俺はノエルを狙わないが、複数対複数ならまず数を減らすことが大事になるし、それが弱いヒーラーなら真っ先に潰すのが定石だと思う。


「辞退できないのか? 先生も家や本人の都合があれば出なくてもいいって言ってたじゃん」

「あれは秘匿の魔法がある場合や家の都合上、魔法や技術を晒すことを嫌がる場合があるからです。ウチにそんなものはありません。イヴェールにくっついているだけで名門でもないですし、何よりも研究職の家です」


 そ、そっかー……


「こうなったら強い奴と組めよ」

「弱い私と組んでくれますかね?」


 さあ?


「ノエル、私と組む? 私が敵を蹴散らしてあげるよ」


 ユイカが立候補する。


「おー、バーサーカーさん!」


 その言い方はどうなんだろう?

 それにユイカはないだろ。


「ノエル、悪いことは言わないからユイカはやめとけ」

「え? なんでです?」

「そいつは突っ込むしか能ない奴だ。絶対にお前を守らん。ユイカが突っ込んだ時にお前は無防備になり、良い的だ。悪いことは言わないからユイカみたいなタイプじゃなくて、イルメラかフランクと組め」


 ユイカは攻撃に極振りしているのだ。


「ノエル、私と組もうか」


 イルメラもそう思ったらしく、ノエルを誘った。


「私と組むと十中八九負けますよ? 足手まといですし」

「正直、良い結果は出ないと思うけど、演習だから別にいいじゃない」

「すみません……」


 どうやらノエルはイルメラと組むっぽい。


「お前らはどうするんだ?」


 フランクとセドリックに聞く。


「どうすっかなー? 2対2は想定していなかった」

「僕は出ることすら想定していないよ。まあ、1週間あるし、考えてみる」


 俺はどうしようかな……

 誰でもいいし、先生に任せようか……

 でも、なんで急にルールというか規定が変更になったんだろ?

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