第107話 的中!


 俺とシャルは組むことに決めると、一度解散し、ファミレスで勉強会をした。

 そして、月曜になると、昼休みにシャルと合流する。


「金曜以外に学園で会うのは変な感じね」

「あまり会わないからな。トウコとシャルが不自然に目を逸らした場面に遭遇した以来だわ」


 あれは本当に笑えた。


「それは忘れて。行きましょうか」


 微妙な顔をしたシャルと一緒にジェニー先生のもとに向かうことにした。

 そして、ジェニー先生の部屋の前に来ると、扉をノックする。


『どうぞー』


 中からジェニー先生の声が聞こえたので扉を開け、入室する。


「失礼します」


 ジェニー先生の部屋はウォーレス先生の部屋とは違い、整理整頓されており、かなり綺麗だった。


「魔法大会のパートナーの申請ですか?」


 作業机で弁当を食べている先生が聞いてくる。


「はい。こちらのシャルリーヌさんと組みます」


 そう言って、先生に書類を提出した。


「わかりました。長瀬君はイヴェールさんと…………え?」


 書類を受け取った先生は驚いた顔で俺とシャルを見比べる。


「どうしました?」

「いえ……えーっと、長瀬君? シャルリーヌ・イヴェールさんとですか?」


 先生はイヴェールの部分を強調した。


「そうなりますね。ラ・フォルジュとイヴェールのタッグです」

「あー……イヴェールさんも御承知で?」


 先生は目を泳がせながらシャルに確認する。


「そういうことになりました。何か問題が?」

「私達は何もありませんけど、むしろ…………いえ、わかりました。では、長瀬君とイヴェールさんということで確かに書類を受け取ります。今週末には対戦相手が発表になりますので掲示板を確認してください」


 先生は書類に目を通すと頷いた。


「わかりました」

「よろしくお願いします」

「はい。あ、長瀬君、少し時間はありますか?」


 書類を机の引き出しにしまった先生が聞いてくる。


「ええ。俺は午後からの授業がありませんので」

「でしたら少し残ってください。お話があります」


 話?

 俺、何かしたかな?


「えーっと、わかりました」


 ウォーレス先生の件だろうか?


「では、ジェニー先生、私は午後の授業があるので失礼します。ツカサ、またね」


 シャルは先生に向かって一礼し、俺に向かって手を上げると、退室していった。


「あのー、本当にイヴェールさんと組むんですか? あなた達が仲が良いのは知っていますが、問題になりませんかね?」


 2人きりになると、先生が聞いてくる。


「大丈夫です。俺、長瀬ですし」

「まあ……でも、親御さんや家の方に伝わったらどうするんですか?」

「どうもしませんよ。何かを言われる筋合いはないですしね」

「いや、筋合いはあるのでは? あなた、ラ・フォルジュの力でこの学園にいるんじゃないですか」


 まあね。

 だから何だ?


「勉強を頑張っています」

「そうですね。あなたは大変努力するとても良い生徒です」


 うんうん。

 ノートを取ってなくてごめんなさい。


「話はそのことですか?」

「いえ、これはちょっと気になったことですね。本題は別です」


 あ、そうなんだ。


「何でしょう?」

「本題の前にもう1つ確認です。長瀬君はラ・フォルジュさんと兄妹であることを内緒にしていますね?」


 ラ・フォルジュさんとはもちろんトウコのことだろう。


「ええ。双子って笑われるんで」


 あのシャルですら笑った。


「まあ、その辺りは生徒の自主性を尊重します。先生達もなんで隠しているんだろうって思ってますけどね。ついでに言うと、なんで皆、気が付かないんだろうって思ってます」


 意外と気付かれないもんだ。


「このまま気付かれずに卒業します」

「そうですか……わかりました。何故、これを確認したかというと、今回の魔法大会の対戦相手に関係してくるからなんです」


 んー?


「どういうことでしょうか?」

「対戦相手はランダムで3組選ばれると言いましたが、実際はランダムではありません。魔法大会は授業の一環であり、演習ですのでこちらで対戦相手を調整するのです。めちゃくちゃ強い組とめちゃくちゃ弱い組が戦っても得るものがないどころか下手をするとトラウマものですからね」


 確かにそうだ。

 戦闘に特化した組と戦えない組がぶつかったら悲惨なことになる。

 というか、開始の合図と同時に審判が止めるんじゃないかってレベルだ。


「それはわかります。ある程度調整し、バランスを取る必要があると思います」

「その通りです。本来なら誰と組むのかすらこちらで調整する方が良いと思うのですが、誰と組むのかも一つの授業ということになりました」

「自分の特性、他の生徒の特性を見極める力ですね」


 彼を知り……己を…………あれだ。


「はい。長瀬君はこっちの分野では大変優秀で助かります」


 こっちだけね。


「そういう意味ではトウコが優秀ですね。すぐにユイカと組みました」

「ええ、その通りです。そして、それが問題なんです。私が見る限り、妹さんと赤羽さんは1年ではトップクラスの戦闘タイプの魔法使いです。その2人が組んでしまいますと相手がいません」


 確かにねー……


「それで?」

「すみませんが、高確率であなたとシャルリーヌさんが対戦相手になります」


 やっぱり……

 シャル、すげーな。

 予感が当たったぞ。


「避けられませんか? 俺はともかく、シャルが……」

「あなたの気持ちはわかります。ですが、イヴェールさんは妹さんとの決闘に勝っているのが問題なのです。つまり、他の先生方はイヴェールさんが妹さんに対抗できる魔法使いと思っています」


 ちゃんと見極めろよー。


「先生、決闘の審判を務めてくれたじゃないですか。わかるでしょ?」

「わかります。試合はイヴェールさんが勝ちましたが、どちらが強かったかは明白です」

「じゃあ、それを説明してくださいよ」

「イヴェールさんは決して弱くありません。高火力な魔法を使え、魔法の展開も非常に速いです」


 それはそう思うけど……


「接近戦が致命的ですよ?」

「そこはあなたがカバーしてください。ナイトの役目です」


 敵役が凶悪なトウコとユイカなんですけど……


「マジですかー?」

「はい。一応、長瀬君とラ・フォルジュさんは兄妹であることをバレたくないという思いがあり、対戦は避けてほしいという要望があったことは伝えます」


 おー! 先生!


「お願いします」

「期待はしないでください。それが通りそうにないほどに妹さんと赤羽さんコンビの対戦相手が見当たらないので」


 あいつら、解散しろよ。

 いや、待てよ……


「俺とシャルが組まなかったら大丈夫です?」


 そう聞くと、先生が首を横に振った。


「イヴェールさんは上級攻撃魔法、転移魔法、飛行魔法を使えます。さらにはこれらを同時に使えるほどの魔法使いです。妹さんの強力な魔法に対抗できるのはイヴェールさんだけなのです」


 シャル……

 強いのか弱いのかはっきりしろよ……

 努力家があだになってるじゃん。


「接近戦は中学生以下なのに……」

「特化型の性ですね。とにかく、そういうことですので」

「わかりました。覚悟しておきます」


 あいつら対策を本格的に考えないとなー。

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