第066話 クロエ「また悪いところが……」
「うーん、この味よね……」
シャルが透明のカップに入っている飲み物をストローで吸い、眉をひそめる。
「甘っ……」
俺も同じものをストローで吸ったのだが、口全体に甘みが広がった。
ちょっと俺には甘すぎる。
「この味のポーションを作れなんてわがままな妹さんね」
「いや、トウコもそこまで言ってない……」
シャルがムキになっているだけだ。
「あなたの要望のソーダ味は上手くできそうなんだけどね」
無視かい。
「どうも……しかし、アストラルにもキャラメルマキアートが売ってんだな」
俺達は休日の日曜日にアストラルの商業区にある喫茶店で休んでいた。
さっきまでシャルが色んな店を案内してくれたのだが、ちょっと休憩をしようということで喫茶店に入ったのだ。
だが、メニューにキャラメルマキアートの名前を見つけたシャルはそれまでの笑顔が消え、険しい顔になった。
「飲食は向こうからも仕入れているからね。こっちにしかないものもあるけど」
「へー……そうなんだ。あ、話は変わるけど、この前、外に行ってきたわ」
「そうなの? どこに行った?」
シャルが険しい顔から笑顔に戻る。
「湖。絶対に日本にはない光景で感動したわ」
「あー、あそこね。私もたまに行くわ。すごいわよねー」
「たまに行くの?」
やはり武家の子だから魔物退治か?
「森があるでしょう? あそこの薬草ってなかなか質が良いのよ」
あ、そっちか。
「そういや、ジョアン先輩も薬草採取に来てたな」
「ジョアン? 誰?」
シャルがまたもや眉をひそめる。
「Dクラスの先輩。たまたま会ったんだよ。というか、アンディ先輩っていう同じくDクラス2年の先輩と一緒に熊に襲われてた」
「熊……そういえば、そんな注意喚起が来てたわね」
「そうなの?」
「ええ。浅いところで熊が出たから注意って知らせが来たから掲示板に貼ったわね。生徒会長の仕事」
掲示板……
各校舎の前にあり、呪学を受ける際のシャルと待ち合わせている場所ではあるが、見たことない。
「そっかー。その熊を仕留めたのは俺だぞ」
「さすがねー。それでその2人の先輩は薬草採取に来てたの?」
「そうそう。ジョアン先輩は錬金術師だって」
多分、頭が良いんだろうな。
「お仲間ね。確かに薬草は自分で採取した方が安く済むし、効率的だわ。実際、私もそうしてる。注文すると欲しいのは根っこなのに葉っぱしかないこととかもあるのよ」
「それで採取に行くんだ? 武家だから親に行けとか言われるわけじゃないんだな」
「それも言われるけど、そっちはどうでもよくて、メインは薬草ね」
本当に武家の子っぽくないなー。
「ちなみに聞くけど、1人?」
「そんなわけないじゃない。クロエと一緒。怖いもん」
怖いもん……
「クロエは大丈夫なん?」
「クロエは強いわよ。護衛を兼ねた侍女ね」
次女……?
あ、メイドか。
「ふーん……ちなみに、日曜の夕方に行ったらダメっていうのは知ってる?」
「はい? 何それ? 普通に行くけど? というか、日曜の夕方が一番行くわね。土曜はあなたと勉強会だし」
わーお。
「カップルばかりじゃない?」
「んー? なんか湖の前に2人組が多い気がするけど……」
空気が読めない生徒会長だなーって思われているかもしれない。
「そっかー。やめた方が良いぞ?」
「え? 何?」
マジで知らないっぽいな。
「フランクとセドリックに聞いたんだけど、あそこの日曜の夕方はカップルの聖地らしい。そういう暗黙の了解があるんだってさ。実際、見張りの人に聞いたらその時間は特別手当が出るレベルだって」
「は? 本当?」
「らしいよ。トウコもイルメラ達から聞いたって」
「………………」
シャルがテーブルに突っ伏し、無言で頭を抱えた。
「大丈夫?」
「……私、嫌な女じゃないわよね? 哀れじゃないわよね?」
色んな想像をしたらしい。
「そんなことないな。普通に昼に行けよ」
「そうする……あ、一緒に行く? 何だったら今からでもいいし」
「今日はダメ。トウコがイルメラ達と行ってるんだよ。この前、トウコと相談して鉢合わせは避けようってことになった」
昨日、明日行くから近寄らないでねって言われた。
前から思ってたけど、あいつ、言葉のチョイスが致命的に良くない。
「徹底して兄妹であることを隠すわね……でも、確かにトウコさんがいるなら避けたいわ。しかも、イルメラさんもいるんでしょ? ろくなことにならない予感がする」
俺もする。
「来週でも行くか? 魔物は瞬殺してやるぞ」
「そうねー。なんか魔物除けが効かなかったっていう話も聞いているし、お願いするわ」
「じゃあ、来週の日曜な」
土曜は勉強会だから必然的に日曜日になる。
「わかった。あ、これからどうする? 案内はほぼ終わったけど?」
「なんか面白いところとかないの?」
「魔法屋」
即答、か。
「何それ? 魔道具を売ってるデパートみたいなところは行ったけど」
あそこは楽しかった。
「そこは普通の店ね。魔法屋はもっと専門的。よく錬金術に使う材料や器材を買いに行くのよ」
へー……
全然、楽しくなさそうに聞こえるんですけど……
「カエルとかヤモリの干物を売ってそう」
「あはは……売ってるわね」
絶対に楽しくなさそう。
「楽しいの?」
「インスピレーションが沸くの。それに色々あって楽しいわよ」
シャルはニコニコしながら上機嫌で薦めてきている。
行った方が良さそうだ。
「じゃあ、行ってみるか。何事も体験だし」
「とても素晴らしい心がけね。あっちだから」
シャルがキャラメルマキアートを飲み終え、立ち上がったので俺も急いで飲み終えて、立ち上がる。
そして、店を出ると、ちょっと暗い裏通りに進んでいった。
そこは色々な怪しいものが売っている市場みたいなところであり、シャルと共に店を見て回る。
シャルは上機嫌で楽しそうに説明してくれるが、正直、何が何かわからなかった。
でも、楽しそうなシャルが可愛かったから良しとした。
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