第065話 長瀬でいいか……
熊をクラウスに引き渡すと、学園に戻った。
そして、寮に戻ると、2人と別れ、家の自室に戻る。
すると、何故か俺のベッドの上で漫画を読んでいるトウコがいた。
「おかえりー」
「ただいま。何してんの? お兄ちゃんと一緒に寝たいのか? 拒否するぞ」
一緒に寝るのは小学校まで。
「んなわけないじゃん。そんなことより、今日、湖にいたでしょ」
どうやらトウコの方も気付いていたようだ。
「許可が下りたからフランクとセドリックに案内してもらったんだよ。最初はあそこらしい」
「なるほど。私もイルメラにそう言われてあそこに連れていってもらったね。綺麗だし、一回は見ておくべきだって」
女子が好きそうなところだしな。
こいつもいつかはあそこに男と行くんだろうか?
「日曜の夕方には行くなって聞いた?」
「聞いた。絶対に行かない」
だよなー。
「トウコさ、昨日の今日で行くなよ。被ってんじゃん」
「それそれ。それを言うために待ってたの。被るのは良くないと思う。ばったりと遭遇したくない。高確率で『じゃあ、一緒に行こうか』ってなる」
まったくもってその通り。
それを変に俺とトウコが拒否するのは明らかにおかしいし、不自然だ。
「行く時は言え。被らないようにしよう」
「それがいいね。私達、今度の土日のどっちかで行こうってなってるけど、お兄ちゃんは?」
「土曜はいつものだし、日曜は町を案内してもらう約束をしているから土日はどっちも行かない」
忙しいのだ。
「女と勉強会、女とデートね。良いご身分だわ」
「羨ましいか? 美人なんだぞ」
しかも、優しい。
「知ってる。会長じゃん。キャラメルマキアートはまだー?」
「味が複雑で大変なんだと」
「あー、確かに。だったらもっと簡単なのでもいいや」
やっぱりトウコも軽い気持ちで言っただけだな。
「無理ならいいって言ったんだけど、逆に火が点いてたわ。あなた達の挑戦を受けます、だってさ」
「すごいムキになってる……会長って錬金術がそんなに好きなんだねー」
そうなんだろうな。
「まあ、そういうわけだから土日だったらどっちでもいいぞ。今日は湖を見ただけか?」
「そうだね。お兄ちゃん達は?」
「森に入って、狼と熊を倒したな」
「また熊? お兄ちゃん、熊が好きだねー」
別に好きじゃない。
多分、向こうが俺のことを好きなんだ。
「熊って売れるらしいぞ。母さんと父さんには内緒だけど、かなりの金が入りそう」
「マジ? いくらよ?」
「概算の見積もりで30万」
「すげー! 私も狩ろ!」
ユイカと奪い合いが起きそうだな。
さらにはイルメラもいる。
「あ、それで思い出した。熊を渡した人がフランクの知り合いだったんだけど、元教師だってさ。その時に聞いたんだが、お前、母さんと父さんが学園の卒業生って知ってた?」
「え? 学園ってウチの? 聞いてない」
トウコも聞いてないのか。
「なんかそうらしいぞ」
「へー……よく考えたら国も違うのに馴れ初めとかまったく聞いてないね。これっぽちも興味ないけど」
ないな。
「よし、兄妹で嫌な気持ちを共有しようではないか。そのおっさんがウチの両親のことをバカップルって言ってた」
「うわー……聞きたくなかったわー……きちー……ん? お父さんとお母さんが34歳だから……」
「やめろ」
逆算すんな。
「よし、記憶のゴミ箱に捨てよう」
俺もそうする。
「あ、もう一つ聞きたいことがあったわ。アンディ先輩とジョアン先輩って知ってるか?」
「知らない。誰?」
知らんのか……
「Dクラスの2年。今日、森で熊に襲われてた」
「へー……でも、先輩に知り合いなんていないしなー」
「寮で話さないのか?」
ジョアン先輩とは一緒なはずだ。
「逆にいつ話すの? 私、同じクラスのイルメラ達と話すことはあるけど、基本的にすぐ家に帰るし……」
「交流しないの? まあ、俺もフランクとセドリックだけだけど、お前、友達は多かったろ」
小学校も中学校も多かった。
「交流はあまりしないなー。なんかあの学校って、家とか派閥とか面倒じゃん。まあ、最近は最大の敵と気まずいけどね。隣の部屋だもん」
シャルか……
「どんな感じ? この前、お前らがすれ違ったのを見て、笑えたけど」
お互い、絶対に目を合わさずに明後日の方向を見ながらすれ違うんだもん。
「クソ気まずい。こっちだったら普通だし、むしろ会長って良い人だなーって思うんだけど、あっちに行くとラ・フォルジュのスイッチが入るから敵だって思う。でも、お兄ちゃんが落第してニート……って思うと、何も言えず、睨むこともできない……うん、お兄ちゃんのせい」
そりゃごめんな。
不出来な兄なもんで……
「ずっと前から気になってたんだけど、なんでラ・フォルジュを名乗ってんの? ラ・フォルジュで世話になるとしても長瀬のままでいいじゃん」
兄妹ってバレちゃうけど。
「ラ・フォルジュの魔法使いになるって言ったらおばあちゃんに名乗るように言われた」
「マジ?」
「うん。トウコ・ラ・フォルジュって微妙……って言ったら5万円くれた。よく考えたらかっこいい気がしてきたね」
金かい……
「俺も名乗ったらくれるかな?」
ツカサ・ラ・フォルジュはダサいと思うけど、5万くれるなら……
「無理じゃない? チョコレートかワインみたいな名前ってバカにしてたじゃん。おばあちゃん、怒ってたよ。あと、お兄ちゃんは絶対に名乗らない方が良いと思う」
「なんで? ダサいから?」
「なんでもだね。絶対にやめた方が良い」
いや、なんでだよ……
よくわからないなーと思いつつもやっぱりダサいから名乗るのはやめることにした。
そして、夕食の時間になったのだが、俺とトウコは両親の顔を見ることができなかった。
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