第002話 死か腕か


「えー……何、そのリアクション」


 ものすごくマズいことが起きているみたいじゃん。


「ツカサ、なんでそれをはめているんですか!?」


 母さんが怒鳴ってくる。


「話せば長くなるんだが……」

「簡潔に!」

「爺ちゃんが魔法使いになりたかったら着けろってさ。よくわかんないけど、着けたら取れなくなった。母さん、この呪いを解いてよ」


 母さんは名門の魔法使いだから結構すごいらしい。

 比べる人がいないから詳しくは知らないけど。


「見せなさい!」


 母さんは俺の腕を掴むと、腕輪に手を掲げる。

 すると、母さんの手のひらから温かい光が出てきた。


「くっ!」


 温かい光は腕輪を照らし続けるが、一向に何も起きず、母さんの顔が歪んでいく。


「母さん、魔力が尽きるぞ。たいした魔力を持ってないじゃん」


 母さんはそこまで魔力が高くなく、魔力自体は俺の方が多い。


「あなたが多すぎるだけです! くっ! この腕輪、ツカサの魔力を吸収してる!?」


 母さんは以降もずっと温かい光を腕輪に当て続けているが、何も起きない。


「ぐっ……!」


 母さんの顔が次第に青ざめ始めた。


「母さん、やめなさい!」

「ジゼルさん、これ以上は!」


 父さんと校長先生が母さんの腕を掴んで止めた。


「くっ……そんな……」


 母さんは俺の腕を離し、ガクッと項垂れてしまった。

 どうやら解呪は無理だったようだ。


「ねえねえ、この腕輪、何なの?」


 リアクション的に非常にマズいのはわかる。


「説明しても?」


 校長先生が両親を見ると、両親はゆっくりと頷く。


「そんな深刻なんですか……」

「一から説明しましょう。まず、今より数日前、先程言った異世界……通称アストラルですが、そこにある宝物庫から腕輪が盗まれました」


 この腕輪のことかな?


「それで?」

「調査の結果、犯人はキヨシ様……あなたのお爺さんということがわかりました」


 まあ、爺ちゃんにもらったんだからそんな気はする。


「なんで爺ちゃんが盗みなんかを?」


 爺ちゃんの方がアホじゃん。


「動機は不明です。そもそもキヨシ様はアストラル運営に関わる重鎮です。なんでこんなことをしたのか……」


 爺ちゃん、お偉いさんだったのか……

 だからいつもお年玉で3万円もくれたんだな。


「ふーん……その盗んだ腕輪がこれかー……宝物庫ってことはレアアイテムです?」

「ええ。レアです。それもかなりのね……」

「返したいんですけど……」


 邪魔だからいらねーし。


「それができそうにないのは先ほどのジゼルさんが証明してくれました。ジゼルさんほどの魔法使いでも無理なら誰でも無理でしょう」


 無理なんか……


「あ、あの、では、どうすれば?」

「一つは腕を切り落とすというのがあります」


 はい?


「断固拒否したいんですけど……」


 絶対に嫌だわ!


「もちろんそうでしょうね……ですが、その腕輪はちょっとマズいんです」

「高いんですか?」


 父さんと母さんが出してくれないかな?

 いや、爺ちゃんが出せ。


「とても値段は付けられませんよ。そういうことではなく、その腕輪は身に着けた者の命を奪うんです」


 え?


「俺、死んじゃうんです?」


 そう聞くと、校長先生が目を伏せた。


「なんで死ぬんです?」

「……それは渇望の腕輪と呼ばれております。身に着けた者の魔力を少しずつ食らい、最後には生命力まで奪ってしまうんです」


 ひえっ!


「先生、腕を切り落としてください!」

「え? 良いのですか?」

「当たり前だろ! あんたは死ぬのと片腕がなくなるだとどっちがいい!?」


 バカか!?


「まあ、そうなんですけど……実は他にも方法がないこともないのです」


 え!? あるの!?


「はよ言え! 何ですか!?」

「それをご両親と相談していたんですよ。要は解呪の魔法を使えばいい」


 解呪……


「母さんで無理だったじゃないですか。母さんで無理なら他の魔法使いでも無理なんでしょ?」


 さっきそう言ってた。


「ええ……ですが、それは外部から解除する場合なんですよ」


 外部?


「どういうこと?」

「呪いを解呪する場合は呪われた者を別の者が解呪するより、自身で解呪する方が効率的なんです」


 な、なるほど?


「えーっと、つまり俺が解呪すればいいってことですか?」

「そうなります」


 解呪……


「あのー……俺、火魔法もロクに使えないんですけど……」


 というか、肉体強化以外使えないね。


「ええ。ですからそれをこれから鍛えます。幸い、私の目から見てもツカサ君は大きな魔力を持っているように見えます」


 魔力が大きいだけなんだよなー……

 どんな巨大なハンマーを持っていようと、それを振れなかったら意味ないんだよ。


「いけます?」

「それはあなた次第です。最悪は腕を切るしか……」


 うーん……


「左腕に着けて良かったな……利き腕じゃない」

「諦めるの早くないですか?」


 うっさい。

 自信がないんだよ。


「母さんに習えばいいんですか?」

「それも一つの手ですね」

「一つのと言いますと?」


 他にあるのかな?


「ツカサ君、ウチに来ませんか?」


 ウチ?


「魔法学園とやらですか?」

「はい。そこで魔法を学び、解呪の魔法を習得するのです。あなたはこれまでロクに魔法の修行をしてこなったのでしょう? そんな者がいきなり高度な解呪は使えません。でしたら魔力の操作などの基礎を一からを学び、少しずつ鍛錬していくのが良い」


 少しずつ……


「そんな悠長な時間はないような……」

「いえ、これは不幸中の幸いですが、ツカサ君は魔力が大きい。すぐに魔力が尽き、死ぬということはないでしょう」


 でしょう……


「確証はないんです?」

「すみません。昔のアイテムのため、資料が少ないんです。ですが、これがもっとも近道なことは確かです」


 そ、そうなんだ……


「最悪は腕を切り落とす、か……」

「少し考えてみてください。また答えを聞きに来ますので……」


 校長先生はそう言うと、立ち上がった。


「え?」


 驚いて校長先生を見る。


「どうしました?」

「いや、考えるも何も答えは出ているような……」


 一択だろ。

 何を悩む必要がある。


「まあ、そうなんですけど……色々と悩んだり、親御さんと相談しないといけません。魔法学園に通うということはこちらで通っている高校も退学しないといけませんしね」


 退学……


「先生……僕、高校に落ちたので4月からニートしてます……」


 そう言うと、両親が目線を落とし、沈んだ。


「え? あ、だから……」


 校長先生は何かを察したようだ。


「すみません……」

「い、いえ、そういうこともありますよ。とにかく、ご両親と相談してみてください。答えが出たら教えてください」

「わかりました……」

「では、私はこれで……マコトさん、ジゼルさん、こちらの方でも資料を漁って探ってみます」


 校長先生が父さんと母さんに向かって頭を下げる。


「すみません」

「よろしくお願いします」


 父さんと母さんも頭を下げ返すと、校長先生は出ていってしまい、この場には俺達3人だけが残された。

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