第18話 食料対策
「それにしても、毎食こんなに食われたら、船の食料がすぐになくなっちまうぞ」
ノヴァは空になったパッケージの山を前に、頭を抱えていた。
「食べ物はそんなに無いデスか?」
ジローがきょとんとして尋ねる。
この天然サイボーグには、事の重大さが伝わっていないようだ。
『本来はマスター一人の生活を暫く賄いつつ、現地での栽培で食料を確保していく計画でした。 しかし、仮に一度の食事で数倍の食料が消費された場合、そう遠くない未来に絶望的な状況が予想されます。』
イブが冷酷なシミュレーション結果を告げる。
「イヤデス! 食べられないなんて耐えられないデス!」
「お前が食う量を減らせばいいだけだろ。」
「イヤデス! 食べられないなんて耐えられないデス!」
「……。」
駄々っ子のように首を振るジローを見て、ノヴァは諦めたように息を吐いた。
「仕方ない。ひとまず俺の愛しい“畑ちゃん”の様子でも見に行くか。」
「畑デスか?」
「ああ。ついでに見せてやるよ、俺たちの素晴らしきギアを。」
「ギア?」
そうして、ノヴァたちは船外へ出た。
そこには、不時着して間もなく設置した半透明のドームが佇んでいた。
「こいつはギアナンバー12、通称『ドーム』だ」
「ドームですか?これはなんのためにあるデス?」
「そうさ。そんなに知りたいならば教えてやろう、ナンバー12の素晴らしさを。」
ノヴァはニヤリと笑うと、手元のデバイスに展開前のドームであるキューブ型の物体のホログラムを映し出した。
「まず、これが展開前のキューブだ。非常に美しい立方体に、見惚れてしまうような意匠を施されているだろう? このキューブは非常にスムーズな動きで展開し、ドームの底面を形成していく。その後、ドームの中に収納された各骨組みが展開することでドームの骨格を形成していく。キューブの面とこの骨組みは軽くて丈夫な形状記憶合金でできていて、それがキューブの重さを軽減することで、この持ち運びやすさを実現している。 そして、キューブでの収納率を最大化するために、中の折りたたみ方は何万通りもシミュレーションし、最適解を導き出したわけだ。収納率の記録はそう簡単には抜かれることはないね。その苦労がこの作品に文字通り詰まっているわけだ。」
ノヴァの早口な解説が続く。
「ドームの骨格が形成されたあとは、ドームを覆う幕となる素材が展開する。この素材にも途方もない努力が注がれているんだ。クモの糸というのが非常に強靭な素材であるというのは聞いたことがあるだろう。そんなクモの糸をベースにドームの機能を最大化するのにふさわしい生地となるよう、気が遠くなるような組成の組み合わせを試した。 骨格と同様に、血と汗と涙、そして俺の才能が刻み込まれているってわけだ。 さらにはだな……」
その後もに十五分以上も話を続けるノヴァ。
ジローは途中から意識が遠くなるのを感じ始めていた。
『……こうなると、マスターは止まりません。』
「そうして、この素晴らしきドームは恒星の光を電気エネルギーに変換して、空気、湿度、温度を望み通りに保つことができる。つまりは、太陽系に限らずあらゆる恒星系で機能をする優れものってわけだ!」
ようやく説明が一区切りついたところで、ジローが手を挙げた。
「一つ質問いいデスか?」
「なんだ? 構造についての質問か?それとも、材料か?」
「なぜ入れ物にマークを付けたデスか?どれほど役に立つ素晴らしい機能性を持っているんデス?」
ホログラムのキューブにプリントされ意匠を指しながらジローが尋ねる。
「決まっているだろう? それがクールだからだ。」
ノヴァは真顔で即答した。
イブが補足をする形で会話に割って入った。
『欠点としては、環境の形成速度には限界があります。 例えば人間の呼吸速度に対応するほどに二酸化炭素を酸素に変換できるわけではありません。あくまで、植物を生育する環境を維持できるというのがこのドームの機能になります。』
「住むのには適さないってことデスか?」
「まぁ、そこは改良の余地ってとこだな。それになんの欠点もない完璧なガジェットなんて、面白みがないだろ?」
ノヴァは肩をすくめると、ドームのエアロックを解除した。
「入っていいデスか?」
「ああ、歓迎するぜ」
中に入ると、空間のパラメータをジローのスーツが分析したものが画面上に表示された、外の乾燥した荒野とは別世界であった。
「これが……バジルですか?」
中央のプランターに、小さな緑の芽が顔を出していた。
ジローが目を輝かせ、その小さな芽を無造作に掴もうとする。
「待て馬鹿! まだ赤ちゃんだ!」
すかさずノヴァが腕を掴んで止める。
「すみませんデス。自分の星では食べ物の製造工場は見たことがなかったんデス・・・。」
なんとなく境遇を察したノヴァは、話を変えることにした。
「えぇっと・・・・故郷じゃ何を食べてたんだ?」
「虫とキノコと藻デス。」
「……そうか。」
あまりに極端な食生活に、ノヴァは言葉を失った。
この大食らいは俺よりハードボイルドかもしれない。
ふと見ると、バジル以外の作物も植え付けられていた。
サボテンのような多肉植物と、穀物らしき芽だ。
「これは? おいイブ、俺はバジルしか植えてないぞ?」
『マスターがジローさんの救出に行っている間に、私とハチで植えておきました。 あの時はマスターのロマン気分に水を差したら申し訳ないと思い何も言いませんでしたが、特にカロリー面からバジルのみでは不十分ですので。』
「ハチと二人でか!?」
『ええ。何度もハチが全部更地にしようとしましたが、・・・・どうにかこの通りです。』
あのポンコツなロボットが、せっせと種まきをする姿が脳裏に浮かぶ。
ノヴァは少し感動を覚えた。
「よし。ジロー、やっと恩を返してもらうときが来たな。ドームを増設して畑を広げるぞ!」
「了解デス! 首がなければでる虫もなし デスね!」
全く意味は分からないが、ノヴァは触れないことにした。
その後、ノヴァとジローは協力してドームを三基増設した。
水不足に強いサボテンと、栄養価の高いキヌアを中心に植え付ける。
ある程度広い空間に土を引き詰める作業は過酷な労働だったが、ジローのパワーのおかげで作業はかなりのハイペースで進んだ。
「ふぅ、畑を作るのも一仕事だな。」
作業を終え、ノヴァが汗を拭った、その時。
――ギュララルゥリッ……!!
聞いたこともないような、地の底、まるで地獄の世界から湧き上がったようなおぞましい音がドーム内に響いた。
「なんだ!? 原生生物の鳴き声か!?」
ノヴァは即座に周囲を警戒する。
振動センサーには反応がなかったはずだ。地中からの奇襲か?
「ジロー、お前にも聞こえ――」
ジローに話しかけようとして、ノヴァは凍りついた。
ジローが、地面に仰向けに倒れていたのだ。
「ジロー!?」
すでに襲われてしまったのか……?
ノヴァの背中に冷たい汗が伝う。
静寂。まるで時間が止まったかのように凍り付く空気。
すると、もう一度。
ギュララルゥリ、ギュルルルルッ!!
その音は、倒れたジローの腹部から発せられていた。
ジローが虚ろな目でノヴァを見上げ、力なく呟く。
「……腹減ったデェス……」
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