第19話 相棒(バディ)

スターレイの食堂エリア。

ジローはテーブルに座り、ノヴァはカウンターで何かしら作業を行いながら、今後の作戦について話し合っていた。


「これからどうするデスか?」


 ジローが呑気な様子で尋ねてくる。


 ノヴァは、手元のドリッパーにお湯を注いでいる最中だった。

 コポコポ……と、琥珀色の液体がサーバーに落ちていく。


 いまや、様々な飲食物は3Dフードプリンターを使えば、自動かつ数秒で生成できるのであり、手間をかけて料理をする必要性はない。


 だが、ノヴァは自らの手でコーヒーを淹れることにこだわっていた。

 豆を挽き、湯を沸かし、香りを立たせる。それは非効率な様式美かもしれないが、その手間にこそ「ゆとり」という価値が生まれると信じているからだ。


 芳醇な香りが食堂に満ちていく。

 ノヴァはカップを手に取り、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「まずは、この星の調査だ。うちの船もエンジンがいかれちまってる。地球に帰るにしても、調査を続けるにしても、まずは修理が必要だからな」


 そう答えつつ、コーヒーを一口啜る。

 苦味と酸味のバランスが完璧だ。


「私も手伝うデス!」


 ジローが勢いよく立ち上がった。


「修理するための部品はあるデスか?」


「スペアパーツは用意してないんだ。だが、心配するな。俺たちには“アルケミスト”がある」


「アルケミスト……デスか?」


 ノヴァはカップを置き、ニヤリと笑って腕の端末を操作した。

 テーブルの上にホログラムが投影される。

 描かれているのは、精製機・鋳造炉・ナノ加工機が一体化した、無骨で複雑な機械の塊だ。


「簡単に言うと、非常に汎用性の高い出張溶鉱炉だ。

 現地で手に入る鉱石やスクラップを放り込めば、化合物レベルで分解・再精錬して、必要な材料をその場で“作れる”ってわけだ。」


『正確には、マテリアル・ファブリケーター(物質生成装置)です。』


 イブがすかさず補足を入れる。

 ジローは感心したように唸った。


「すごいデス! これがあれば、何でも作れるってことデスか?」


「そんな魔法みたいなもんじゃないよ。」


 ノヴァは苦笑した。


「質量保存の法則だ。無から有は生み出せない。当然、『原材料』が必要になる。つまり、俺たちは素材を探す必要があるんだ。」


「鉱石を掘りに行くデスか?」


「そう。チタン、アルミニウム、カーボン、シリコン、リチウム……。  この星のどこかに眠っている資源を探索して、かき集めるんだ」



「面白そうデス! ミッションの開始デスね。私たちは“バディ”デス!」


 ジローが両手を叩き、子供のようにはしゃいだ。


「バディだって?」


『バディですって!?』


 イブが過剰に反応する。


「そうデス! 故郷のトロルでは、いろんなミッションに二人組で参加したんデス!」


 そう言ったあと、ジローはふと動きを止めた。


「……ただ、私と組んだ人たちは、皆、私を残して倒れてしまったデスが……」


 なんとなく声のトーンを落としてジローは言った。


 すかさずノヴァが返す。


「……不吉なこと言うなよ」


 ジローはノヴァの発言の意味を少し考えてから、


「安心するデス! それでもミッションはすべてコンプリートしたデス!」


 そう言って親指を立てる。


「フォローになってねぇよ!・・だが、安心しろ。俺はしぶといぞ」


 笑いながら言うノヴァ。

 その時だった。


『いいですか!! ジローさん、マスターのナンバー1のバディは私ですからね!!』


 イブの念を押すような声がスピーカーから室内に響き渡った。

 同時に、足元ではガンガンとハチがジローのすねに体当たりを繰り返していた。


「わはは、ジローお前はナンバー3だってよ」


「デェス」


 なんだか嬉しそうなジローだった。

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