第29話 新たなる出会い

 ~遡ること12時間前~


 力尽き、砂に埋もれつつあるジローに近づく2つの影があった。


 一つは二本足の人間のようなフォルムをしているが、もう一つは六本の脚をもつ4トントラックほどの大きさだった。

 二本足の影がもう一方の影に話かける。

「みたまえ、エリザベート。あそこになにか埋もれているようだ」


 そばまで近づき、うつぶせのジローを仰向けにする。


「おい君、大丈夫か?」


 ジローはかろうじて意識を取り戻し、かすれた声で答える。


「もう・・一人・・・いるデ・・・ス。ノ・・・ヴァ・・さ・・んを、たす・・け・・て・・・」


 再び意識を失うジロー。


「エルザベート。背中に乗せてやってくれるかい。点滴も頼む」


 ”エリザベート”と呼ばれたそれは、前足らしき2本足を器用に使い、ジローを拾い上げ背中に乗せる。


 二本足の人物はジローが移動してきた付近を観察する。


「ふむ、かろうじて痕跡が残っているな。これならば辿れそうだね」


 ~現在~


 徐々に意識を取り戻すノヴァ


 非常に強いだるさが体には残っていた。

 目を閉じたまま、ぼーっとする頭で最後の記憶を探る。

 たしか自分は、空腹と渇きでローバーの中で意識を失っていたはず。あれから、どれほど時間がたったのだろうか。

 非常に重い瞼に力を込め、なんとか目を開けるノヴァ。


 そこには見知らぬ空間が広がっていた。

 室内は白をベースにした壁や天井のところどころで微かな緑色のバイオルミネセンスが柔らかく光を放っていた。

 清潔感を感じさせ、まるで手術室か実験室のような雰囲気が漂っている。

 どこかの宇宙船の中だろうかとノヴァは考えた。


「目を覚ましたかね。危ないところだったよ」


 そこに立っていたのは、黒を基調として、紫と青のグラデーション模様が入ったロングコートを身にまとった人物だった。

 身長は185cm~190cmほどの長身であった。

 頭部はヘルメットをかぶっており、素顔は分からない。

 ヘルメットは丸みを帯びた形状で、前面はスムーズなシールド、側部には何かしらの装置のようなディスクが取り付けられており、高機能な構造を思わせた。

 そして、自分はベッドに横たわっており、点滴を受けていた。


「あんたは?」 とその人物に尋ねるノヴァ。


「私はシュタイン。この星の調査をしていたところでたまたま君たちを見つけてね」 彼の言葉には穏やかな響きがあり、ノヴァは少しだけ安心した。


 このような星でジローとはまた、別の人物に出会ったことにも驚いたが、さらにこの人物と普通に会話ができている事実にノヴァは戸惑った。

「あんた、太陽系の言葉をしゃべれるのか?」

 本来であれば、飛び上がるほどの状況だが、頭もうまく働かないうえ、体にちからも入らないため、疑問を投げかけるのが精一杯だった。


「なぁに、太陽系言語は始祖言語の一つだからね、一般常識のようなものさ。ただ、君の相棒は違うようだがね」


「・・・!ジローは!?ジローはどうなった!?」ノヴァの心拍数が急に上がる。


「ああ。そのことに関して、非常に遺憾なんだが・・・・」

と口ごもるシュタイン。その様子に、ノヴァは胸の奥が冷たくなるのを感じた。

「まさか・・・・?」


 その時、ただの壁と思われた部分に一瞬で螺旋状の切れ目が入ったかと思うと、それぞれの切れ目に沿って壁が開き、半円形の出入り口ができた。


 すると、そこから大きな声を出しながらジローが入ってきたのだった。

「ここの食べ物はみんな変な味がするデェス!!」

 その口には見たこともない食材をくわえていた。


「困ったことに、今にもこの船の食料を食べつくしそな勢いだ。君からも何とかいってくれないか?」

 やれやれという風に、両の掌を上に向け、肩をすくめるシュタイン。

 明らかにからかわれたのであり、まじめに心配したノヴァは内心イラっとした。


「デェス?」

 そこでやっと、ノヴァが起きていることに気づいたジロー。


「ノヴァさん!起きたデスか!?」ノヴァに駆け寄り、その両手を握る。


「本当にっ、よかったデェェェス!」

 興奮のためか、その両手には強い力が入っており、今のノヴァには少ししんどかったが、ジローの思いが伝わってくるような感じもして悪い気はしなかった。


「この人が私たちをここに運んでくれて、助けてくれたんデス!」

少し落ち着いたジローは、改めて救助された状況をノヴァに話した。


「そうだったのか。本当に助かったよ」とノヴァは感謝の気持ちを伝える


「お礼ならエリザベートにいいたまえ、最初に君たちの痕跡を見つけたのは彼女なんだ」


「エリザベート?この船のクルーがまだいるのか?」

 さらなる事実に状況を整理しようとする頭が追い付かなかった。


「ああ、あとで紹介しよう。それに、ジロー君があの地点まで移動しなかったら、発見することは難しかったろうね」


「はは。感謝してもしきれないな・・・っつ」

ベッドから起き上がろうとしたが、うまく体に力が入らない。


「無理はいけない。極度の栄養失調のようだ。しばらく安静にしているといい」

 別途のそばにあるモニターには、ノヴァの状態が表示されているらしく、それを確認しながら、シュタインはノヴァを諭した。


「ありが・・と・・う・・」

 ジローの無事も確認し安心したところで、気が抜けた拍子に、再び意識を失うノヴァ。

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