第28話 ノヴァの記憶

 ノヴァの父、オーデンが巻き込まれた宇宙港の事故から半年が経とうとしていた。


 ノヴァの母も彼が幼い頃に病で帰らぬ人となっており、この事故により両親をふたりとも失ってしまったのだった。事故により、父までも失ってしまった心の傷は深く、いまだ立ち直れずにいた。


 それでも、ノヴァは天涯孤独となったわけではなかった。

 彼の祖父母は健在であり、もともとオーデンは家を留守にすることが多かったため、母の死後は父が地球にいる間を除いて、祖父のグレッグと祖母のマチルダとともに暮らしていた。グレッグレッグとマチルダは優しい人で、この上ない愛情をもってノヴァを育てた。

 マチルダは豪放磊落な性格で「オーデンは誇りをもって生きたんだ。あんたも胸を張りな」と彼女らしい言葉でノヴァを励ました。

 二人とも事故のあとは彼の胸中を慮り、努めて暖かく接していたのだが、その心の穴を埋めることはなかなかできなかった。


 事故が起こった後は、気晴らしのためにと、たまにグレッグに散歩へ連れられる以外、ほとんどの時間を部屋の中にこもって過ごしていた。


 そんなある日。

 ノヴァはそれまでと同じように真っ暗な部屋のなかでうずくまって泣いていた。「おれがワープゲートを見たいなんて言わなければ・・・・」

 後悔と自責の念が重くのしかかってくる。

「うう・・・、父ちゃん・・・、さみしいよ・・・」

 泣き続けても涙が枯れることはなく、寂しさや虚しさが薄まることもなかった。


 すると、突然、部屋においてあるテレビの明かりが勝手につくのと同時に、テレビに繋がっていたビデオゲームの電源ランプが明るく点灯した。

 このビデオゲームは、自らがいない間もノヴァが退屈しないようにと、大昔にあったレトロなビデオゲーム機を模して父が作ってくれたものだった。

「え?これって・・・・?」 突然のことに驚くノヴァ。

 さらに不思議なことにテレビは明るくなっているのに、自動で投影されるはずの起動されたゲーム画面が写っていない。

 しばらく画面を見つめていると。

 画面の左上に短い縦線が点滅していることが分かった。

 すこし観察してみて、どうやら文字を表示するときのカーソルだということが分かった。

 すると、そこに文字が一文字ずつ表示されていくのだった。

 (こ ん に ち は)

「こ・・・ん・・・・に・・・ち・・・は・・・?」

 (私 は イ ブ )

「わ・・・た・・・し・・・は・・イ・・ブ・・。なんだろうこれ、こんなゲームあったかな?」

 (ゲ ー ム で は あ り ま せ ん) 

「!?会話ができるの?」

 (当 然 で す)

 「・・・・君はなに?」

 (わ た し は イ ブ 。あ な た の 父 オ ー デ ン に よ っ て 作 ら れ た、汎 用 型 人 工 知 能 で す。) 「父さんが?」 (は い 。)

 「父ちゃんがいなくなっちゃって、涙が止まんないんだよ。」

 (私 は あ な た の 涙 を 拭 い て あ げ る こ と は で き ま せ ん。で も 、 あ な た の 悲 し さ が 薄 れ る ま で 、 一 緒 に い た い と 思 い ま す 。)

 「え?」

 (あ な た の そ ば に い る 。そ れ が 私 の 使 命 の よ う で す ) 


 父は息子に残していたのだった。彼を支えてくれる存在を。


 これがノヴァとイブの出会いだった。


◇◇◇◇


 やがて、自分の意識が現実に引き戻されるのをノヴァは感じた。


 意識が表層に浮かび上がっていくなかで耳に聞こえてきたのは、これまで全く聞いたことのない声だった。


「おや?どうやら目を覚ましそうだね」

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