第23話 物資ロケット
「準備オーケーだ、ジロー。ロケットを出してくれ」
物資を補給地点に飛ばすには、推進システムを保持したままで、ミサイルが着弾しても爆発しないよう弾頭部を取り除き、その上で食料などを搭載する必要がある。
「はいデス!」
腕のガジェットを操作するジロー。
プシュウゥゥ……と生々しい排気音を発しながら、ジローの宇宙船の両側部が筋肉のように隆起し、ミサイルの格納部が左右に突き出る形で露出した。
ジローは宇宙船に近づいていき、ミサイルを一本引き抜く。
全長二メートル弱。太さは人間の胴体ほどもある、鋭利な黒い槍のような形状だ。
常人であれば一人で持ち上げるのも困難な重量だが、ジローはフランスパンでも扱うかのように軽々と小脇に抱えてみせる。
「慎重に頼むぞ! 信管を抜くまではただの爆弾なんだからな!」
ノヴァは、おっちょこちょいなジローが爆発物を扱うことに不安を覚えずにはいられなかった。
「大丈夫デスよ。任せるデス」
そんな心配をよそに、鼻歌交じりでミサイルを運ぶジロー。
さすがに戦争を主な活動とする文明で生きてきただけあって、兵器の扱いに関してはエキスパートということだろうか、とノヴァは自分を納得させる。
「ミサイルは何発くらい撃てる?」
「十発デス。この船は戦闘用というよりは、偵察でよく用いられる機体なんデス。」
「どおりでコンパクトな訳だ。……それで、発射口はどこだ?」
こんなコンパクトな機体にミサイルが十発も収納されていることも驚きだが、外装には継ぎ目がなく、射出する部分が見当たらない。
「カタパルトが内蔵されているデス。記念にご覧に入れるデス! とくと見るデス!」
ジローが得意げにデバイスを操作した。 宇宙船の後方上部の装甲が液状に波打ち、パックリと開いて発射装置が露出した。
ガションッ。
自動装填装置が作動し、一発のミサイルがセットされる音が響く。
そして次の瞬間――
ズドンッ!!
何の前触れもなく、ミサイルが噴射炎を上げて射出された。
「へ?」
と、ノヴァ。
「やばっ」
ジローの口から不穏な言葉が漏れる。
ミサイルはほんの一瞬で最高速度に到達し、衝撃波だけを残して、遥か彼方へと消えていった。
「…………。」
「…………あと九発デェス。」
*
その後、ノヴァによる必死の改修作業が行われた。
弾頭の無力化、カーゴスペースの確保、そしてジローへの説教。
数時間の格闘の末、物資積載ミサイルへと変貌したロケットたちは、今度こそ正しい手順で補給予定ポイントに向けて発射された。
シュゴォォォ……!
三本のミサイルが、それぞれ異なる放物線を描いて荒野の空へ散っていく。 これで今回の作戦の準備は完了した。
二人はコクピットに戻り、イブが投影するホログラムマップを囲んだ。
『今回の作戦概要を確認します。 目的は、各目標地点に存在すると予測されるレアメタル資源の回収です。』
地図上に六つの光点が浮かび上がる。
『現在地から半径一〇〇〇kmの半円状に、目標地点が分布しています。 最初のポイントは、ここから北東に一〇〇〇km。そこから反時計回りに回るような形で、順次採掘ポイントを巡ります。』
「随分と長旅だな」
ノヴァが腕を組む。
各目的地の中間に位置する三地点に、先ほどの物資ミサイルが着弾しているはずだ。そこで食料と水を補充しながら進むことになる。
『総移動距離および作業時間を考慮すると――合計で四十八日間の旅程となります。』
「約二ヶ月か……」
ノヴァは隣を見た。
ジローが、遠足前の子どものように目を輝かせている。
「ワクワクするデス! 早く行くデス!」
「おいおい!俺の方がわくわくしてるっての!」
ノヴァが《ナンバーナイン・カスタム》のキーを回す。 冒険の準備は整った。いよいよ出発の時だ。
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