第22話 性分(さが)
倉庫にて水と食料、酸素ボンベの仕分け作業を行った二人。
「よし、これでミッションに必要な分の食料は確保できた。 あとは、水と空気……おい! つまみ食いをするな!」
後ろで作業していたはずのジローを振り返ると、その周りには食べ物を包んでいた包装紙がいくつも散乱しており、すでに多くの食料が消費されたことが見て取れる。
「デェス?」
ジローのすっとぼけ具合に、ノヴァは彼女をもう一度流砂の穴に戻したくなった。
「……はぁ。まあいい。」
そんなこんなで、五十日分の食料を四つ(携行分+ミサイル輸送分三つ)に分けることが完了した。
「ローバーはなるべく軽い方がいいからな。俺たちが最初に積む量は少なめにしておこう」
ローバーの移動速度と燃費は、重量が軽いほど良くなる。このため、ノヴァは当初に乗せる物資の量を少なめにし、ピックアップポイントに振り分ける量を多めにする計画を立てた。
「あとは、この物資をどうやってジローの船まで運ぶかだな」
ミサイルを発射するには、ジローの船まで行く必要がある。 片道数時間の道のりを、ローバーで数回往復して運ぶというのは、それだけで時間のロスが大きすぎる。 何か良いアイデアがないだろうかと思案するノヴァ。
「ここまでならば呼べるデスよ」
「呼べるって……何を?」
「私の船デス!」
「でも、ジローの船も壊れてるんじゃないのか?」
「空を飛ぶことはできなくても、地面にそって移動することはできるデス。たぶん、ここまで来るエネルギー程度は残っているデス!」
ジローは腕についているコンソールガジェットを操作した。 ピピピ、と電子音が響く。
*
~しばらく後~
船の外に物資を運び出して、待つ二人。
『マスター、高速で物体が接近しています。』
「高速って、なにかの攻撃か!?」
イブからの不意打ちのような警告に動転するノヴァ。
「あ! 見えてきたデス!」
そんな中で、ジローが呑気に正面を指さしていた。 その方角を確認するノヴァ。
「どこだ?」
「あれデス! あの動いているやつデス。どうやら傷はついていないみたいですね。」
地平線の向こうでなんとなく、黒い点がものすごい速さで接近してくるのが確認できた。だが、その詳細までは確認できない。
ノヴァのスーツバイザーも望遠能力を備えているので、遠方のものを捉えやすくなっているが、ジローの視力はそれを凌駕しているようだった。
もう少しすると、ノヴァもそれが砂埃を巻き上げて進んでいるジローの船であることを視認できるようになった。 いや、「進んでいる」という生易しい速度ではない。
「おい、陸上移動ってものすごい勢いで突っ込んできてないか!?」
「ミサイルとしても優秀なんデス!」
言うが早いか。 みるみるうちに接近してきたジローの船は、衝撃波を撒き散らしながらスターレイの横をかすめるようにしてすり抜け――
ズドオォォォォォン!!
数百メートル先で大きな音を立てて地面に突き刺さり、ようやく停止した。
「……なんちゅー物騒な船だ。ミサイルみたいに使うなら先に言えよ」
「失礼したデス」
「……とはいえ、ちょっと拝見してもいいかね?」
別の文明によって製造されたジローの船は、ノヴァにとって、未知の技術と設計思想に溢れていた。初めてジローの船に遭遇した時はドタバタしており、よく確認することができなかったのが気がかりだったのだ。
ノヴァは吸い寄せられるように歩み寄ると、地面に突き刺さったジローの船にぴったりとへばりついた。
「表面が非常になめらかだ……繋ぎ目が見当たらない。 卵型のフォルムも地球では見ない形状だな……そうか! これで大気圏への突入時の抵抗を最低限に抑えているのか。 装甲としての機能も担っていて……これはこれで、一つの機能美を追求しているのか……」
ブツブツと何かを言っているノヴァ。 その目は、恋人を見るよりも熱っぽい。
「ノヴァさん、どうしたんデスか?」
変なものでも見るように、怪訝そうにノヴァの様子を窺うジロー。
『マスターは、こういう時は非常に気色が悪いんですよ。』
イブから呆れたような通信が入る。
だが、スイッチが入ったノヴァは止まらない。
「ジロー、船の表面を少し削ってもいいか? いや、削らなくてもいい。舐めて、味を確かめてみたいんだ」
「味を確かめてどうするんデスか! ダメです! 変態デス!」
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