第24話 旅路の途中
二人が出発してから二日ほどが経過した頃。 彼らの周囲には、変わらぬ荒涼とした地表が広がり続けていた。 地平線の彼方まで何もない荒れ地。風は冷たく、乾いた砂埃が舞う音だけが響いている。
しかし、地上の過酷な風景とは対照的に、上空には息を呑むような光景が広がっていた。 天空に広がる夜空は、鮮やかなルビー色の輝きを放っていたのだ。
この星の大気は地球のそれとは成分が異なり、赤外線を多く含む恒星からの光が特定のガスと相互作用することで、このような美しい発光現象を作り出していた。 そして、一定の間隔で空を覆うオーロラは、さながら幻想的なカーテンのように揺らめいている。
(これこそ、宇宙を旅する醍醐味だ)
ノヴァはハンドルを握りながら、心の中で独りごちた。 故郷では、太陽系こそが安住の地であり、危険な外宇宙に行くのは愚か者の自殺行為だと考える人たちが大半だ。 だが、彼らは知らない。 異なる恒星が放つそれぞれの輝きが、どれほど想像を絶する景色を作りだすのかを。
奇跡的な確率によって”この広い宇宙”に生を受けたというのに、ゆりかごの中で一生を終える生き方はあまりにも、”もったいない”とノヴァは思うのだ。
「この空を見れただけでも、ここに来た甲斐があったな」
「ワタシは、戦いから逃げられればそれでよかったんデス。……それでも、ノヴァさんに会えたことはすごく嬉しいデス。」
ジローは静かに答えた。その言葉には、いつもの天然さとは違う、強い親しみが込められているように感じられた。
*
二人の旅路は続いていく。
宇宙船から一定の距離を離れた時点で、何らかの磁気干渉によりイブとの通信が途絶えていた。
「う~ん。地図のデータはローバーに保存してあるからルート確認に支障はないけど、イブの小言がないと何かと調子が狂うな」
ノヴァは不満そうにつぶやく。
「イブさんがいないと寂しいデス!」
ジローの言葉にノヴァは少し驚いた。
「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「それに……二人きりでノヴァさんと会話が続くかも心配デェス」
「急に気まずくなること言うなよ」
二人は笑いながら、アクセルを踏み込んだ。
*
最初の補給ロケットの着弾場所まであと数日、という地点まで進んでいた時のことだ。 ふと、ジローがノヴァの装備を見て尋ねた。
「ノヴァさんのスーツは、私の故郷のものとは全然違うデ――」
「分かるか? これは俺が開発した特別なスーツなんだ!」
自分のカスタマイズしたガジェットに触れられると嬉しくてたまらないノヴァは、ジローの言葉に食い気味に反応する。
「まだ私が話している途中デ――」
「そうか、そうか! そんなにこのスーツの素晴らしさを聞きたいか!」
「言ってないデス」
「デザインの素晴らしさは見ての通りだが、さらに、このスーツの素敵なところは着心地が宇宙一快適ということだ」
「宇宙一デスか?」
「そう。このスーツを着るということは、まるで休日の朝、二度寝をする時の布団の中のような……そんな至福の底なし沼のような感覚なんだ。」
「よく分からないデスが、そんな状態で動けるんデスか?」
「そのくらい快適な着け心地で、ずっと着ていたくなるってことさ」
「私も着られるデスか?」
「悪いが俺専用(オーダーメイド)だ」
「ケチデぇス。……それで、どんな兵装が備わっているデスか?」
「兵装って……武器か? そんなナンセンスなものは付いてないぞ。武器なんて付けたらエレガントさが失われるだろ?」
「ウェポンが付いていないスーツなんて、私のところでは考えられないデス! どうやって危険から身を守るんデスか?」
ノヴァはハンドルから片手を離し、自分の頭部を指さしたのちに、拳を作って胸を叩くジェスチャーを見せた。
「頭脳(クールなヘッド)と、情熱(熱いハート)で乗り切るのさ」
決まった。 あまりにクールな所作に、この純粋な異星人も感動しているに違いない。 ノヴァは期待を込めて、ジローの反応を横目で見た。
「デェス」
その髑髏からは、いつも以上に感情が消え失せていた。
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