第13話 ファーストコンタクト
「ちくしょう……!
俺は骨を拾いに来ただけだってのか!?」
ノヴァは膝から崩れ落ち、砂の上で肩を落とした。
全身を走った緊張の余韻がいっきに抜け、ライトスーツの警告灯だけが虚しく点滅している。
「……待てよ? だったら、どうして生体反応なんか――」
その瞬間。
すっ……と。
砂に埋もれていた“人型スーツ”が、まるで糸で吊られたかのように静かに立ち上がった。
「お・・・・おばけぇぇぇぇ!!」
ノヴァは尻もちをつき、情けない叫びを上げながら後ずさる。
立ち上がったスーツの頭部――
骸骨の顔が映し出されたヘルメット――から、
「――――――――――――!」
言語とも電子音ともつかぬ、不明の発声が響いた。
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁぁ!!」
そこへ、イブの冷静な通信が割り込む。
「落ち着いてくださいマスター。骸骨はただのホログラフィ投影です。」
「……へ?」
呼吸を整えながら、ノヴァはあらためて相手を観察する。
骸骨は、ヘルメット表面のホログラフィ映像。
その奥は――完全に見えない。
「へへ・・・、わかってたけどね・・・、わざとだよ、わざと」
「・・・・・」
あきれているのか、イブからは応答がない。
ノヴァは、改めて相手を観察する
スーツ全体は黒と灰を基調とし、赤いアクセントラインが生物の血管のように走り、
幾何学的な模様が脈動している。
――太陽系では見ないデザインだ。
「――――――」
声は意味不明。
翻訳機も無反応。
「イブ、翻訳は?」
「サンプル不足のため不可能です。ただし、声色・抑揚分析では――
“感謝”を述べている可能性が高いです。」
「感謝……ね。……イブ、どう思う?」
「どう……とは?」
「こいつは“ファーストコンタクト”ってやつか?
人類未踏の地で、未知の知的生命体に出会ったわけだ。」
ノヴァがちらりと相手を見ると、髑髏ヘルメットは小首を傾げるような仕草を返してきた。
「私のデータベースにおける“ファーストコンタクト”とは、
“人類と異種知的生命体の初遭遇”と定義されています。」
「つまり?」
「ジャミング(情報解析妨害)が強いですが――
現況の分析結果としては・・・この方は“人類”である確率が最も高いです。」
「人類……?」
イブは続ける。
「この恒星系への進出は太陽系文明では行われていません。
ということは――どこかで分岐した“別の星系から来た人類”
そう推定できます。」
太陽系には、かつてそれぞれの深い事情を抱えるものたちが、様々な理由で進出または脱出を試みるものをがいた。
だが戻った者は一人もいない。
通信さえ残らず、歴史から消えていった。
“太陽系を出た人類は生き残れない”
それが常識だった。
「なるほどね……。だが、どっちにしても」
ノヴァは少し考え、そしてふっと笑った。
右手を差し出す。
「……俺にとっては、立派なファーストコンタクトだ。」
太陽系文明で最もシンプルな“友好のしぐさ”。
相手はピクリと身を硬くした。
ノヴァの手と、自分の手らしき部位を見比べる。
そして――
おそるおそる、その手を握り返してきた。
骸骨ヘルメットは無表情だが、握手には確かな“温もり”があった。
「驚かせるんじゃないよ……ほんとに。」
ノヴァは苦笑しながら、限界を超えて震える手で握り返す。
その瞬間。
相手もまた、ノヴァの手を――
ぐっと強く握り返してきた。
生きている。
ここに“何か”がいる。
ノヴァの胸に、遅れて興奮と恐怖と感動が入り混じった熱が走っていた。
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