第14話 ジロー
「この方の宇宙船に言語データがあれば、翻訳が可能になるかもしれません。まずはそちらに向かったらいかがでしょうか」
というイブの提案に従い、宇宙船へ向かう二人。
救出地点から徒歩で移動すること15分。
その間ずっと、髑髏ヘルメットはノヴァに向かって何かをまくし立てていた。
当然ノヴァは何を言われているのかわからないため適当な相槌も打てなかった。
だが言葉のトーンから、必死にコミュニケーションを取ろうとしていることだけは伝わってきて、歯がゆさを覚えていた。
すると、髑髏ヘルメットが、何かを指さしつつ、ひときわ大きい声を発した。
指し示す先を見てみると、明らかに人工物的な丸みを帯びた金属製の物体が見えてきた。
「~~~~~~~~~~~」
どうやら、その物体が目標物であるということを伝えたいらしい。
近づいてみると、その宇宙船は卵型の極めてコンパクトな構造だった。
コクピットと思しきスペースは一人しか乗れず、とても長距離航行向きとは思えない。
(これで旅をするのは、だいぶ窮屈だろうな……)
そう思った瞬間、イブから通信が入る。
「宇宙船との通信により、言語情報の交換に成功しました。」
「ありがとう。さっそく翻訳機にアップロードしてくれ。」
平静を装っているが、太陽系文明でない人間とコミュニケーションを取るのはこれが初めてであるノヴァは興奮を抑えきれないでいた。
少しして
「アップロードが完了しました。以後、相互自動翻訳によるコミュニケーションが可能です」
ノヴァはこのため、 このような出会いのために故郷を旅立ったんだと思った。
「オッ、オーケー。ドクロくん、こちらの言っていることはわかるか?」
言いしれぬ緊張を感じながら、翻訳装置の機能を確かめる。
「わかるデス!これでちゃんとお礼が伝えられるデス」
と先ほどまで話していた声色はそのままに、太陽系の言語として翻訳されて音声が届いてくる。
「・・・なんかちょっと言葉が変だけど・・・。イブ、正確に翻訳できてるか?」
イブの人工知能としての性能は非常に高いため、それがまじめにやっているのかジョークでやっているのか図りかねるときが多々あった。
「間違いなく100%混じりっけなしの正確な翻訳です」
これは怪しいなと思うノヴァだが、イブがそう主張する以上、どうすることもできない。
「・・・ならいいけど。俺はノヴァだ」
気を取り直して、改めて自己紹介から入ることとする。
「私は【ジロー】デス」
「”ジロー”って?イブ、この名前は・・・?」
その名前は明らかに太陽系文明になじんだ名前であるため、異文明で用いられるはずはないとノヴァは思った。
「原語のままでは発音が難しいので、なじみのある響きに変換しました。もともと二番目に生まれたものという意味を含んでいる名前のようでしたのでその点を考慮し、決定しました」
「勝手に人の名前を決めていいのか……まぁ、雰囲気には合ってるけどさ。」
「問題ありません。こちらの言葉は相手側では正確な名前に戻して聞こえています。」とイブ。
ノヴァは肩をすくめる。
「ジロー。俺たちは太陽系文明から来たんだ」
「タイヨウ……デスか。変な名前の星デス。聞いたことないデス。」
「失礼な奴だな。命の恩人に」
とは言いつつ、ノヴァは胸の奥で抑えがたい嬉しさがこみ上げていた。
――太陽系外の“人間”と会話する日が来るなんて。
「よくいわれるデス。
ところで、何か食べ物をお持ちではないデスか、助かったばかりなのに、腹が減って死にそうデス」
「図々しくもあるんだな」
この異星系人は図々しかった。もしかしたら、道中もずっと腹が減ったことを訴えかけてたのだろうかとあの時の気持ちを返してほしくなったノヴァであった。
「よくいわれるデェス」
ノヴァの軽い嫌味をまったく意に介する様子のないジロー。
(こういった類に邪悪な奴はいないだろう)と
「俺の宇宙船に食べ物がある。一緒に来るか?」
とノヴァは提案した。
「ぜひお願いしたいデス」
即答であった。
「マスター。どこの馬の骨ともわからない人を招くのは危険です」
「まぁそういうなって、見たところ害はなさそうだ。」
「デぇス」
ジローが気の抜けた相槌が、ノヴァはなんだか楽しかった。
そして二人は、荒野へ向かって歩き出した。
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