第10話 父と子
惑星に不時着した最初の夜。
ノヴァは眠りの中で、忘れられない光景を夢に見ていた。
――父と過ごした幼い日の記憶。
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食卓を囲う7歳のノヴァと、その父オーデン。
「父ちゃん!ニュース見たよ!」
目を輝かせながら父親に話しかけるノヴァ。
オーデンは、太陽系文明の中でも有数の宇宙探検家であり、これまで様々な星への有人探査を成功させ、宇宙開拓に大きく貢献してきた人物であった。最近でも未踏の星の探査で成果を持ち帰りニュースをにぎわせていた。
ノヴァは子供ながらにそんな父親に強い憧れを抱くととともに、とても尊敬していた。
「あんなもん朝飯前さ」
豪快に笑い飛ばすオーデン。
家を空けることの多い彼との時間を、ノヴァは心から楽しみにしていた。
「父ちゃん!父ちゃん!
俺、大きくなったら、父ちゃんが見つけたのより、もっと遠くの、もっとおおきな星を見つけてやるんだからね!」
と興奮気味にまくしたてるノヴァ
「そいつはたのしみだ!それなら今の倍は飯を食わねぇとだな!」
わっはっはと豪快に笑うオーデン。
「いくらだって食べられるよ!」
がつがつと皿の料理をかき込むノヴァ
「おぉ!?言い食いっぷりだな!それでこそ俺の息子だ」
<時が流れて>
11歳となったノヴァを連れオーデンは、地球と火星の間に浮かぶ宇宙ステーションに来ていた。この宇宙ステーションにはワームホールの生成によるワープ宇宙航行の発着場である宇宙港が併設されていた。
ノヴァは、これまで実物のワームホールを見たことがなかったので、自分の誕生日という理由にかこつけて、オーデンに連れてきてもらったのであった。
宇宙港は宇宙船が飛び立つ発着場と、通称【ホールゲート】と呼ばれる(もしくは単にゲートとも呼ばれる)ワープ航行の入口となる円形のワームホール発生施設の2つの施設が、ある程度の距離を保って配置されている。
二人が発着場に到着すると、ホールゲートでなんらかのアクシデントが発生したらしく、人々が慌ただしく動き回っていた。
近くにいた救急隊員らしき一人を呼び止めるオーデン
「なにがあった?うちの部隊のやつらが出発予定だったはずだが?」
「ワームホールの生成準備中に機器の暴走がおきた模様です。」
隊員が答える。
「ゲートの稼働についてはうちのエンジニアが指揮していたはずだ。あの中にまだ人はいるのか」
すると、後ろから「ボス!」と筋肉質で大柄な男が声をかけてきた。
振り返ると、オーデンの隊の副官であるジョセフがこちらに歩み寄ってきていた。
「ボス。どうやら中心部で作業をしていたニコたちが取り残されているようです。」
「ニコが?」
ニコもオーデンの部隊の一員であり、チーフエンジニアを努めている。
「ええ。ただ、いつワームホール生成エンジンが暴発するかわかりません。
そうなったら、この発着場もただじゃすみません。一刻も早く避難が必要です。」
すでに多くの人が避難用の高速宇宙船を使って避難をしており、発着場に残っている避難に使える高速宇宙船の数もは残りわずかであった。
オーデンは首を横に振り
「ここで俺たち逃げちまったらニコたちが助かる見込みがなくなる。俺なら中の構造は隅々まで把握している。俺が救助に行く。」
「しかし、ゲートの中がいまどれだけ危険な状況かわかりません。いくらあなたでも・・・」
「仲間を見捨てるわけにはいかねぇ」
このような状況において、オーデンが意見を曲げることがないことをジョセフはよくわかっていた。
「・・・・・わかりました。ですが、事故の発生時刻からみても猶予は30分程度です。それ以上は・・・・。」
「わかってる。・・・・息子を頼めるか?」
「私が責任をもって安全な場所に連れていきます。」
「恩に着る」
「父ちゃん・・・」
と不安そうに父のズボンを引っ張るノヴァ
「大丈夫だ、ノヴァ。父ちゃんを誰だと思ってる?」
とわが子の肩に手を置いて優しい声で語りかけるオーデン。
涙目でうなずくノヴァ
スーツを装着して、発着場に残っていた小型船でワームゲートへと飛び立つオーデン
~オーデンが出発し、30分弱が経過した。~
「これ以上は危険だ。」
その時、発着場にオーデンが乗っていった宇宙船が現れる。
「父ちゃん!」
と宇宙船に駆け寄るも、降りてきたのはニコたちホールゲートに取り残された3人だけだった。
「ボスのおかげで、どうにか私たちだけは脱出できたんだけど、代わりに・・・」
その時、ドカーン!ひときわ大きな爆発がワームホール発生装置でおきる。
「もう時間がない!やむを得ん!避難するぞ!」
「いやだ!父ちゃんがまだ帰ってきていないよ!」
と動こうとしないノヴァを無理やり抱えて高速宇宙船に乗り込むジョセフ
高速宇宙船が安全な距離まで離れる寸前でワームホール生成装置が大爆発を起こす。すこしして、施設の中心部分から、周りの宇宙空間よりひときわ暗い球体が発生した。やがて、その球体は徐々に大きくなり、施設全体を飲み込んでいった。
「父ちゃあああん!父ちゃあああん!」
窓越しに必死で声を張り上げるノヴァ
黒い球体はどんどん小さくなっていき、球体が消滅したあとには、なにもない宇宙空間のみが広がっていた。
「うわあぁあああ!とおぉちゃぁぁん!」
と声にならない声でノヴァが叫ぶが、その声が届く先はすでになかった。
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「大丈夫ですか?ひどくうなされてましたよ。」
と心配そうに尋ねるイブ
「・・・なんでもないよ」
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