第2話 始まりの惑星

宇宙船スターレイは、惑星の空を突き抜けながら落下していた。

ヒュオオオオオ……!

希薄な大気を切り裂く音が、船内に不気味に響く。


高度計の数字が、死へのカウントダウンのように高速で桁を減らしていく。

モニターの数値は赤く点滅し、地表まで残り三千メートル。


この惑星の大気は地球よりも薄い。

大気圏突入の摩擦熱は弱めで済んだが、同時にパラシュート代わりの空気抵抗がほとんどない。

スターレイは減速しないまま、赤茶けた星へと一直線に落ちていく。


重力は地球の七割――それでも、落下の威力は十分すぎる。


「うぉぉぉおおおお!!」


コクピットでスロットルを握りしめながら、ノヴァは叫ぶ。


地表まで百メートル。


ノヴァは歯を食いしばり、逆噴射システムをたたき起こす。


「頼むぞ、スターレイ……ッ!」


ボンッ、ボンッ、ボンッ――。

衝撃が船体を貫き、スターレイは荒野を何度もバウンドしながら砂塵を巻き上げた。  金属が軋み、火花が散る。


――ズザザザァーーッ。


長い軌跡を残して、ようやく停止した。


外は赤茶けた荒野の世界。

地平線まで続く平坦な大地。

薄い大気が空を灰色に曇らせ、遠くでは陽炎が揺れていた。


しばらくして、船体側部のドアがカシャンと開く。

蒸気が漏れ出し、その中からスーツ姿のノヴァが姿を現した。


「ふぅ……危機一髪だな。」


彼が身につけているのは、地球外活動用のスーツ。

ホワイトとゴールドのメタリック外装に、青いラインが走る――

ノヴァ本人がデザインしたオリジナルモデルだ。


生命維持、環境制御、軽度の推進、通信支援。

さまざまな機能を備えているが、何より彼がこだわったのはそのデザインだった。


「決まった。クールだぜ。」


自動展開するはずのタラップは、損傷のせいで沈黙したまま。

足の裏でコンコンと強めに床を蹴ってみる。

しかし、ピクリともしない。


「やれやれ。」


ノヴァはため息まじりに軽く身を屈めると、ふわりと飛び降りた。

弱い重力のせいで、地面への着地は羽のように軽い。


彼は宇宙船の外周をぐるりと歩き、損傷個所を確認する。


「イブ、損害チェックを頼む。」


腕のマルチデバイスが淡く光る。


『了解。解析を開始します……』


数秒後、女性の声が響く。

冷静さと知性を感じがしつつ、人間味をもち、どこか艶を含んだ声色だった。


『主な損傷は推進機構に集中。航行再開には修理が必要です。

 生命維持・通信系統、各種ギアには大きな異常なし。』


「よかった。これなら、まだ生き延びられそうだ。」


『……よくありません。宇宙一美しい私のボディに傷がつきました。』


「……。」




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