第58話 勇者アモン

 アモンはポルトーが蝗に蹂躙されている時、隣のスパインにいた。

 話を聞いてポルトーに様子を見に行ったが、そこは地獄だった。

 そして更なる地獄がすぐそこまで来ているのを確信すると馬を飛ばしパルムに向かった。

 クロエ様の知恵を借りたかったのである。


 クロエの元を訪れたアモンは我々に大金を預けて出発。各国の政府の説得を始める。

 歴代最強の勇者と言われている彼の面会の希望を断れる者はいない。

 ほとんどの政府が多かれ少なかれ彼の働きの恩恵を受けているのである。

 彼を仮の盟主とした共同援助同盟が成立し各国の国庫の小麦が放出され、義援金が集められた。


 そして各国政府からの金がパルムのワトソンの元に届けられ船団が組織されアサムへ向かう。

 アサムでは3年前から米の豊作が続き、今年の作柄も悪くない。

 要するに大量の米が余っていた。米はパンと違って精米した後で煮るだけで食えるのだ。製粉したり、発酵したりをしない分だけ手軽である。非常時には食べやすい穀物であった。

 味は多少落ちるが、玄米で食べれば栄養価も高い。

 食べ慣れてないかもしれないが、飢え死にしそうな奴が文句を言うとも思えない。

 

 ただ、各国の供述した小麦が尽きる前に米をアサムから持ってこなければならない。

 アモンが来た直後に私とジップは運送業務を始めようと集めていた元冒険者数人を連れて持てるだけのマジックバッグを待ちアサムに先行した。

 ダマスコで腕の良い船乗りと足の速い船を雇いアサムに向かう。

 賄賂をばら撒き、アサムで西側諸国連合の代表者を名乗り皇帝陛下に面会。協力をお願いしたのであった。

 私が人に戻っている時で良かった。さすがに子供のジップでは舐められる。


 美人は最強。皆私の前にひれ伏すが良い。あっさりと願いは聞き届けられた。

 豊作で余っているのもあったのかも知れないが、陛下からも米と小麦を下賜してもらえた。

 マジックバッグを陛下に1つとアモンが持っていたオリハルコンの宝剣と盾を献上したが、私達の運べる量はあくまで繋ぎだ。

 運べる量がバッグ一つ分減っても構わない。スムーズに買える事が大事だ。

 本隊はワトソンがこれから引き連れて来る。

大量の米の取引だ。

  その時取引を円滑に行うためにも皇帝陛下の許可と後ろ盾は絶対必要なのだ。


 陛下の与えてくれた許可証を持って穀物商人達と面会する。

 今回私達の持ってゆく量は大した事はないが、今後の物に関しては量が多いのでこれから集めるという。1年間に4回に分けて買いに来るなら問題無いだろうと。

 豊作だったし、便宜を図れと言う陛下のお言葉もあるので相場より安く売ってくれると言うので助かった。


 私達はバッグに入るだけの米と小麦を詰め込み、一緒に来た商館主の弟と護衛2人を残して先に帰国した。

 パルムに寄る事なく、スパインへの最短距離をゆく。

 スパインではアモンが流民を集めて難民キャンプを作っているはずだ。

 各国の援助小麦が尽きる前に到着しなければならない。


 スパインに着いてアモンの言っていた場所に着くと、見渡す限りテントが張られていた。

 各国王家の紋章や貴族の紋章が描かれており軍用の物が供出されたらしい。

 そこではアモンと懐かしのトスカーナ侯爵がキャンプの運営に寝る間も惜しんで働いていた。 

 こう言う時こそ男の価値がわかるのだと私は思っている。


 私達の持ってきた米の半分を持ってアモンはポルトーの王家に行くという。3ヶ月後にはワトソンが米を持って帰って来る。

 無駄に使わなければ、各国から持続して義援金や小麦も届けられているので半分持って行っても保つはずだ。

 スパイン人やポルトー人は米食もするので混乱が少なかったのは幸運であった。

 ポルトー国内にも難民にこそなっていないが食料が足りない人達が沢山いる。王家に届けて民に配布したいと言うのだ。

 アモンに任せて私達は付近の森や山に行き、食えそうな魔物を狩ってキャンプに届ける。

 一月もすると、呆然としていた難民の中からも狩に出る者がいて、人々の顔に笑いが出始める。その一月後、私達の仕事は終わったと判断してパルムに帰ったのであった。


 数ヶ月したらアモンが預けていたマジックバックを持ってやって来た。

 こちらも預かっていた金を返す。

 馬鹿に残っているなと言うアモンに、勇者が出すんじゃ正義の味方も出さない訳にはいかないだろうと答える。

 アモンは何も言わずに受け取る。


 各国の相互援助の機構はこのまま残されるそうである。

 ポルトーでは混乱の中かなりの民が犠牲になったが、最初からこんな事が起きても大丈夫だとわかっていれば犠牲にならずにすんだろうという反省もあり残される事になったのだそうだ。

 各国が持ち回りで幹事を務め、毎年少額ではあるが金も積み立てるらしい。


 ついては今回の件の功労者を表彰するらしいが受けるかと聞かれる。

 お前は?と問うとその気は無いと。娼館の勇者とか、オットセイ勇者とか言われている男に表彰も何もないだろうと。

 オットセイが何かはよくわからないが、私達も目立ちたくない。

 正義の味方は正体を知られてはいけないのだ。

 興味ないと答えると、だろうなと言って後はなにも言わなかった。

 数日泊まって温泉を楽しんだあと、またなと言って帰って行った。

 

 蝗で壊滅状態のポルトーに勇者アモンがやって来た。

 アイスドラゴンを討伐した時に見て以来である。

 父王に面会して、大量の米を渡して民のために使えという。

 何ヶ月かしたら各国の援助による次の米がアサムから届くからなんとか持ち堪えろと言っている。

 流民となった民はスパインに難民キャンプが設立されて保護されており、アサムから米が定期的に運ばれ始めれば徐々に帰国するはずだと。

 次に米と麦が到着したら、気持ちは分かるが、落ち込んでないで来年のために種を蒔けと言う。

 王が率先して動かねば民も動かぬから、しっかりしろと励まして勇者は帰って行った。

 蝗の襲来した直後は地獄かと思えたこの国にこの男のお陰で希望の光がさし始めた。

 女好きとか、絶倫勇者だとか言う者もいるが、彼の後ろ姿は間違いなく、人々の希望を背負った勇者だった。

 

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