第51話 勇者と闇討ち同心と熱病

 ドルチェからスパインに入って、ナッシュの町に着いた時、ある筋からスパインとポルトーの国境にグリーンドラゴンが出たと言う話を小耳にはさんだ。

 王家から討伐依頼でも出されたら大損だ。剣の一本位はくれるだろうが、ドラゴンは取り上げられる。

 俺は直ぐに姿をくらませたのであった。魔女共はドラゴンとなんて戦いたくないだろうから、勝手に仕事を受ける心配は無い。

 仮に受けても俺に正式に伝わる前にドラゴンが狩られてしまえばどうにもならないだろう。


 ジップ達の影響で、俺は最近料理に凝っている。

 料理と言ってもジップのように味王とか、味帝とかを目指しているわけではない。

 俺の料理は基本ステーキとシチューの2つのみ。

 味のバリエーションはあるが、他には手を出さない。ワイルドな男の料理なのだ。

 的を絞ったのが良かったのか、その2つについては達人の域に達しつつあると自負している。

 マイステーキ鉄板やシチュー鍋、料理用のコンロも特注で作らせた。魔鋼製の逸品である。

 国境の町バランに着いて情報収集。


 装備も良いものではなく、その辺で売っている物だし、俺の事を勇者だと気付く者はいない。

 宿の食堂で昼飯を食っていると懐かしい奴らがやってきた。

 大陸でたった1人の小犬を連れた少年冒険者である。

 美味い話を聞いてやってきたのだろう。さすが味王。クロエ様も犬だけに鼻が効く。

 向こうも俺に気づいて近づいてくる。競争しても仕方ない。

 俺は4:6で話を纏めた。ジップはパルムのダンジョンのボーナスだか悪戯で妖精大陸に飛ばされていたらしい。

 拾ってきたのか、懐かれたのか、妖精を2匹?頭に載せている。

 初めて見るが、羽を除けば精巧な人間のミニチュアみたいだ。

 しかもそれが話をする。魔法のある世界である。何があっても不思議ではないが、不思議と言えば不思議だ。

 その彼女達がおやつの菓子が欲しいと言うのでジップが妖精大陸のチョコレートとか言う菓子を出して与えていた。

 一つ味見をさせて貰ったが、なかなか美味い。

 無理を言って少し分けて貰った。これがあれば娼館でモテモテだ。


 夜にジップ達が仕留めたという海竜の肉を食べさせてもらう。なんとも美味い。

 ジップの調理技術も素晴らしいが、肉そのものの素材の格が違う。

 これより美味いというグリーンドラゴンの肉とはどれ程の物なのだろう。

 至高のステーキ職人を目指す俺としては、絶対確保しておきたい食材だ。


 次の日の朝皆で出発。今回の俺の装備は勇者の剣や鎧は使わず、ありふれた革鎧とリヨンのダンジョンのドロップ品のアダマンタイトの剣を刀風にした物だ。

 対ドラゴンであれば勇者の装備が適しているのかもしれないが、誰かに見られないとも限らないし、勇者を辞めた後のことも考えて、最近は公務以外はほとんどこの格好だ。

 剣も刀の使い方が気に入っている。勇者の剣を使ったパワータイプの戦い方しかできないと、剣を返却してしまうとまともな闘い方ができないし、引退しても力はそのままだから、使える剣がほとんどない状態となってしまう。

 オリハルコンの剣でも半年と持たないだろう。


 今のアダマンタイトの剣はオリハルコンを凌ぐ強度を持ち、ジップに教えて貰って茎に神代文字を彫る事により魔力の通りも非常に良くなっている。

 剣に負担をかけない使い方を会得すれば勇者の剣を返却しても充分に俺の相方を務められるだろう。


 グリーンドラゴンは空で待ち受けていたが、ジップが翼を斬り落として飛べないようにしたため、割と簡単に狩ることができた。

 リヨンで半年も一緒にダンジョン攻略をしていたため、阿吽の呼吸で戦える。

 もし魔王と戦うのなら、今のパーティよりこの2人と組んだ方が数倍戦闘力が高いと思う。

 しかし、ジップは成長期で体が育って大きくなっているせいか、ダンジョンの時より更に強くなっている。

 俺も頑張らなければならないと改めて思う。


 ドラゴンの解体は流石に大きすぎてジップと俺ではできない。

 グリーンドラゴンは捨てるところが無いと言われるほどの高級素材なので綺麗に解体しないと勿体無い。

 相談の結果、バランでなくもっと大きなバルセルの町のギルドに解体を頼む事にした。

魔石と牙、爪、皮以外は売却する事になった。 

 それ以外も希少素材だが、俺とジップは使い道を全く知らない。

 クロエ様は使い道を知っているようだが、特に要らないと言っている。


 王家から金貨1000枚の討伐依頼が出ていたので、ちょっと得した気分である。

 俺はナッシュに帰らねばならないし、ジップ達は温泉に入りにゆくという。

 人間姿のクロエ様を拝見できなかったのは心残りだが、仕方ない。

 今後も美味しい話は共闘しようということになり、ギルドを介した連絡方法を決めて別れる事になった。


 アモンと別れて温泉に向かう。途中で何を勘違いしたのか、何人かの男達が襲ってきた。

 闘気を抑えているのでただの子供と小犬に見えたのだろう。

 相手になる訳もなく、捕まえて知っている事も知らない事も全て白状させる。

 なんでもパルムの新興教団の為に金を集めているらしい。

 一応この辺りで広く信仰されているデルス神を祀る教会の下部組織になっているらしい。 人々を騙して金を集まるエセ宗教もどうかと思うが、強盗をして金を集める宗教はもっと悪いだろう。

 金を持っていないなら、領主に通報するが、金を持っている悪い奴に天誅を加えるのは私達の仕事だ。


 とは言え、教会の下部組織になっているとなると、上手くやらないと教会を敵に回して後が面倒だ。  

 いっそのこと教会ごと消してしまうかとも思ったが、アルジャンの教会のように孤児たちを保護するような活動を真面目にやっている者達もいる。

 2人で相談した結果、神隠し大作戦が良いだろうという事で相談がまとまった。

 襲撃されたのなら敵を討とうとするだろうが、何が起こったのかすらわからなければ何もできない。


 数日、組織のアジトを見張り人の出入りを調べ構成員を特定する。

 人数は10数人。頭目と思われる人間は逃さない。

 闇に紛れて侵入。まず頭目を始末する。残りも手早く始末してバッグに放り込む。

 全員を始末した後、依頼金を徴収する。あまり宣伝していないせいか、闇討ち人に仕事を依頼してくる人はいない。

 そのため闇討ち対象から依頼金を徴収しなければならないのだが、私が思うにこの方が効率が良い気がする。

 ハポンの講談の闇討ち人など、小判ならともかく一分金とかで依頼を受けていた。

 表の稼業があるから暮らせるものの、皆どちらかと言うと貧乏だった気がする。

 

 2日ばかり見張って尋ねてくる奴も全員始末して終了。金銭的にはグリーンドラゴン並の儲けになった。

 まぁ、ドラゴンは肉と皮、牙などを売らなかったせいもあるのだが。


 ちょっと寄り道してしまったが、軍資金も稼いだので温泉に向かう。

 その温泉は確かに綺麗な青い温泉だった。

まるでサファイアを溶かしたようだ。

 傷に良く効くとかで、遠くから湯治に来る者も多いらしく、付近の宿も充実している。

 私達は温泉で浮世の垢と血の匂いを洗い流したのであった。


 あまりの居心地の良さに二月余りもまったりしていた私達だが、それだけいると多少の知り合いもできる。

 その1人から、冒険者なら熱病の薬を持ってないかと聞かれる。

 なんでも国境の向こうの領主の弟が熱病にかかり、何をしても治らないらしい。

 治せる者には高額の謝礼をすると言っているらしい。

 治せるかはわからないが、高額の謝礼が出るなら人助けの為に動かなければなるまい。

 なんなら、魔法で一時的に熱を下げて金だけ貰って逃げると言うのもありだ。


 国境の向こうの領主はトスカーナ侯爵と言う大兵肥満で愛想の良い大男であった。

 熱病にかかっている弟は小柄で、病気のせいかも知れないがガリガリに痩せていて、皮膚が黒ずんでいる。


 「マロリー熱ね」


 『マロリー熱だわ』


 「キリマンジユの山のコナナ草がよく効くわ」


 『コナナ草でないと効かないわ』


 「コナナ草が無いと死んじゃうわ」


 周りを飛び回りかながらファウとチャウが言う。


 コナナ草ならバッグの中に馬に食わせる位持っている。出そうとするとファウが言う。


 「私なら明日までに持って帰れるわ」


 『ファウなら持ってこれるわ。でも金貨500枚が必要よ』


 「手に入れるには金貨500枚が必要だわ」


 一般に妖精は嘘をつかないと言われている。

妖精のほとんどいない中央大陸でもその話は知られている。

 確かにファウはジップが持っているので明日までに持って帰れるし、自分の手間賃として金貨500枚が必要だと思っているならその通りなのだろう。

 嘘は全く言ってない。

 トスカーナ侯爵はファウの手を握らんばかりに感謝し、ぜひ持ってきてくれと懇願する。

 じゃあ明日ねと言ってファウが出てゆくので皆後に続く。


 次の日コナナ草を持ったファウを先頭に侯爵邸を訪れる。

 投薬を開始して10日くらいで快復したのを確認して侯爵から謝礼をもらう。金貨500枚にしては馬鹿に重い。1000枚入っているらしい。

 さすがにこのお人好しの侯爵をこれ以上騙すのは良心が咎める。

 私が想定していた高額の謝礼は運び賃も含めて金貨20枚程だった。

 体に良いぞと言ってグリーンドラゴンの肉を数キロ渡す。売るか食べるか献上するかは知らないが、大損にはならないだろう。

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