第50話 グリーンドラゴン

 ショウと別れた私達はパルムの町に帰ってきた。

 結局、ファウとチャウはついてきた。


 「美味しい物が食べたいわ」


 『美味しいものが食べたいの』


 「魔素が薄くても大丈夫よ」


 『魔素が薄くても問題ないの』


 「ジップの頭の上にいれば、魔力が漏れてて魔素が濃いから大丈夫なの」


 『大丈夫なの』


 ワトソン商会に顔を出すと、商館主が涙を流さんばかりに歓迎してくれた。


 リヨンに店を出す準備をしている時に、私達が突然消えてしまったために焦っていたらしい。

 神隠しにあったのではないからと思ったそうだ。

 バッグを集めていたら、ダンジョンのクリアボーナスとして突然妖精大陸に飛ばされた。

 数ヶ月かかってやっと帰ってきた事などを話し、コーヒーを淹れて、土産にチョコレート、チョコバナナ、キャラメル、海竜の肉などを渡す。

商会主は ジップの頭のターバンから顔を出す妖精達を見てコーヒーを吹き出しそうになる。

 チョコレートとキャラメルに感動して、なんとかこれを手に入れられないかと聞かれた。

 バナナ以外はカーロで妖精大陸の特産品をたくさん買った時に世話になった商人に頼めばなんとかなるかもと話す。

 大陸中に行商隊を派遣していると言ってたからなんとかなるだろう。

 そして、カカオ豆やコーヒー豆をこちらで育てるのは難しいが、バナナなら苗を何本か取り寄せればパルムの温泉の熱で育てられるかもしれない事も話す。

 トイレのユニットとバッグを渡して帰宅する。


 暫くは温泉でまったり。ファウとチャウも温泉が気に入ったようだ。

 しばらくは赤ボタンは出ないはずだから、気が向くとダンジョンにバッグを獲りに行ったりトイレのユニットを作ったり、旅の便利用品を考えたりとのんびりした生活を送っていた。

 そんな中、温泉で旅の商人からまたまた有益な情報を得た。

 なんでもスパイン王国とポルトー王国の国共付近でグリーンドラゴンの目撃情報があったらしい。


 グリーンドラゴン。それはドラゴンの最強種の一つであり、その皮は全ての魔法を跳ね返し、強度もオリハルコン並と言われている。

 口から吐かれるブレスは全ての物をボロボロに酸化させ、耐えられるのはオリハルコンなどごく一部の金属のみ。

 火、水、雷の魔法を使いこなす上に、気が短く乱暴で、大暴れすると国が滅ぶ、魔王に匹敵するドラゴンなのだ。

 だがその肉は至高の美味であり、全ての美食家の垂涎の的。

 同じ大きさの金と同じ価値を持つと言われるそれを食べた者は、寿命が10年伸びると言われている。


 倒して手に入れれば一国を手に入れられるとも言われる究極の食材。

 こいつの前では先日手に入れた海竜も霞んでしまう。

 1匹手に入れば私とジップの2人なら、毎日食べたって300年以上食べられる。

 おいそれと倒せる奴がいるとは思えないが、世界は広い。

 私達は準備もそこそこに旅立ったのであった。

 今回は依頼を受けながらでなくて、目的地まで一直線である。

 人に渡したくないのもあるが、暴れだすと万を超える死者が出る。

 討伐依頼を受けたわけではないが、冒険者としても急がねばならない案件だ。


 15日程度の旅の後、国境近くの町バランに着く。グリーンドラゴンが飛んでいるのを見られたのはこの付近らしい。

 町は避難を始める人もいたりして、閑散としている。

 こんな時、わざわざやってくる人間は稀だ。

宿屋に行くと、食堂にどっかで見たようなイケメンがいる。

 安い革鎧を付けて、腰には刀のような拵えにした剣を佩いている。

 近寄るとニカッと笑う。粗野だが下品さが全く無い。


 アモンが言う5:5。 


 ジップが答える。3等分。


 アモンが再び4:6。


 ジップが頷き交渉成立。取り分は減るが仕方ない。相手はアモンだ。お互いに自分達だけで倒せる相手だ。張り合う事もできるが、共闘した方がリスクは減る。


 お互いに別れてからの話をする。妖精大陸まだ行ってきたと話したらびっくりしていた。

 アモンも妖精を見るのは初めてだそうだ。ファウとチャウが菓子をくれと言うのでチョコレートと、キャラメルを食べさせる。

 アモンも味見して、これは女や子供が喜ぶなぁと言う。

 馴染みの娼婦の土産にするから少し分けてくれないかと頼むので渡すが、確か君のパーティは皆女性じゃないのかな?

 その夜は前祝いに海竜の肉を焼き、皆で食べた。


 町の北西にある大きな森にある山にいる可能性が高いとアモンは言う。

 ドラゴンは山の中腹以上にあるある洞窟を棲家にする事が多い。飛び立ちやすいし警戒しやすいからであろう。

 山の方が平地より魔物が多く食料を得やすいというのもある。体の大きなドラゴンは大量の獲物を必要とする。


 ドラゴンはいるだけで、周囲に魔力が漏れてくる。

 魔力の気配のする方を目指して我々は進んでゆく。

 ドラゴンの存在のせいか、思いの外襲ってくる魔物は少なく進みやすかった。

 一応倒した魔物で売れそうなものは収納しておく。売れないものは魔石のみ取り出す。

 アモンはアダマンタイトの片刃剣を刀風の作りにしたものを使っている。

 さすが勇者だけあって、見よう見まねで覚えた楊生の剣を目録の私と同レベルで器用に使う。

 

 ドラゴンの棲家の洞窟の前は整地されたように平らになっている。

 ここから離着陸するのだろう。私達が森から出てその場に着いた時、ドラゴンは既に上空にあって、私達を見ていた。

 通常の民家よりはるかに大きい、ちょっとしたやかたくらいある。完全な成体である。

 アモンと分けてもさぞかし大量の肉が手に入るだろう。

 魔力や闘気を漏らさないようにしてきたつもりだが、流石に最強種だけあって誤魔化されないらしい。

 咆哮して威嚇した後、ブレスを吐いてくる。

地面や岩がブレスでボロボロになる。当たったら流石に溶かされる。

 ただ、ブレスは純粋な物理攻撃であり、その速度は達人の剣速に遠く及ばない。

 私達はそれにとらわれることは無く、難なく避ける事ができる。

 翼を使ってウインドカッターのような攻撃力もしてくるが、我々レベルだと、翼の動きを見ていればこれも避けるのは簡単だ。

 

 だが避けているばかりでは倒せない。相手が疲れるまで待つというのも現実的ではない。私達が先に疲れる可能性もあるのだ。

 アモンと私に、ジップが引きつけてと声をかける。私達が魔法攻撃でドラゴンの目を狙う。

 身体に魔法は効かなくても、目だけを精密に狙われると流石にうっとおしいのか避けようとする。

 ドラゴンは多少の傷は自然に自己修復するらしいが、やはり痛いのは好きでないらしい。

 僅かにドラゴンの注意が私とアモンだけに向いた隙にジップが闘気斬でドラゴンの右の翼を斬り落とす。


 流石に片翼では飛べないらしく、ドラゴンは地上に落ちてくる。

 飛べないドラゴンはただのトカゲだと言ったのは誰だったか。

 価値が落ちるので、体幹の皮を傷つけないように気をつけながら、首や脚の付け根などを狙い攻撃を加える。

 アモンが左の翼を斬り落とし、いよいよトカゲになる。

 脚の腱を切って動けなくした後首を落とした。

 

 ドラゴンの巣に入る。奥には宝石やオリハルコンなどの鉱石が沢山貯め込んであった。

 ドラゴンが金貨や宝石を集めると言うのは嘘である。巨大のドラゴンにそんな物をチマチマ集める手段は無い。

 古竜とかなら言葉が喋れるらしいから、人間やエルフを使って集める事もできるかも知れないが、その辺でドラゴンが買い物をしている姿なんて見た事は無い。 

 人間に変身してとかもありだが、そもそも古竜なんて物がいるのかどうかもわからない。

 少なくとも私の知る限り、存在を確認されている古竜はいない。

 竜が金貨の上に寝ていると言うのは、ダンジョンの階層主やマスターの竜が稀にそんな状態で出てくるためで、そこから来ている話だろう。

 ただし彼等を倒すと金貨も消えてしまう。ドロップ品にはならないのだ。

 ただ、ダンジョンの外の竜が、その巣に鉱石などを蓄えている事は多く、多分栄養の一つとして食べるのだろうと私は考えている。

 

 グリーンドラゴンともなると、血の一滴でも高級素材だ。身体も大きすぎてバランの町では

解体処理できるかどうかわからない。

 アモンも諸事情により、勇者だと気づかれたくないと言う事で、私達がこの辺りで一番大きな町であるバルセルのギルドに行き討伐を報告。

 紹介してもらった解体場で解体を依頼する。

グリーンドラゴンはその全てが高級素材になるのだが、アモンとも相談。魔石、肉などの食べられる部位と牙、爪、皮のほとんど以外は売却する。

 少量で良いから肉もと懇願されたので、わずかであるが売却した。残りは自分達で食べると言ったらひかれた。

 

 国から討伐依頼も出ており、これは金貨1000枚程になった。

 軍でも出動すれば相手がグリーンドラゴンでは、人的被害は無視しても10倍以上の金がかかる事を覚悟しなければならないだろう。

 だからこれはウイン・ウインである。

 バランに戻ってアモンと獲物を分ける。私達は肉を多めで。

 宿の食堂を借り、ジップの料理でグリーンドラゴンを試食。

 こんな肉を食べてしまったら、他の肉なんて食べられなくなりそう。

 煮てよし、焼いてよし、蒸してよし。普段おしゃべりなファウとチャウも無言で食べている。

 宿の主人が涎を垂らしていたので、お裾分け。涙を流して食べていたが、グリーンドラゴンだと知ったら卒倒するだろう。


 次の日アモンと別れる。彼はナッシュの町にパーティのメンバーを残して黙って出てきたので、戻らねばならないと言う。

 私達は、この付近には青い湯の温泉があるとかで、そこに入ってから帰るつもりなのでここでお別れ。

 また美味しい話しがあったら、声を掛け合おうと言う事で、ギルドを使った連絡方法の手順を決めた。

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