第48話 キリマンジユ2
28階層は荒野が広がっていた。所々に林がある。
デュラハンの部隊が巡回しており見つかると襲われる。ちょうど剣の振り方がまともになってきた位でこのデュラハン達と戦うことになった。
戦い方は今までと同じ。死にそうにならなければ、馬に踏まれようと蹴られようと、師匠は介入しない。何度も死線を越えそうになる。
一度などは腹を大槍で突き刺され、遠くに投げられた。
空中にいるうちに治癒魔法がかけられる。
後で着地の姿勢が悪いと怒られた。隙だらけだそうである。
妹達は自分に治癒魔法をかけながら戦っている。
いよいよ最期だと思う思った瞬間には師匠か子犬のクロエ師匠が助けてくれるが、ギリギリすぎて助けて貰った感じがしない。
だが、後に振り返って考えるとこのデュラハン戦で私達は大きく進歩したと思う。
30階層の階層主はいわゆるGである。名前がデスコックローチだから当たり前だが、女性の天敵、男も大嫌い。
こいつが脂でてかてかしている上に硬くて全く切れない。
関節を垂直に引き切らないとダメだと言われるが、当然相手は動くしそんなに簡単にはいかない。
師匠達がファイアアローでGのの注意をそらしてくれたのでなんとか倒せた。
ドロップ品の炎の弓は使わないから後でくれると言う。弓を使うエルフ垂涎の品である。
Gと戦い、ミスリルの剣がダメになってしまった。素人が力任せに振り回していたせいだ。
師匠が師匠と同じハポンの剣をくれた。青白い刃文の浮き出た刀身はミスリルの剣より細くて薄い。
今の腕ならなんとか使えるだろうと言われる。
数日、刀に合わせた刀法や型を教わり今の型を修正してもらい、階層主が復活した頃その前に連れてゆかれた。
ジップ師匠はスタスタとその前に出てゆき、刀を抜いたのも見えないうちにGが真っ二つになって消えてゆく。戻ってきて見せて貰った刀は我々が貰ったものと変わりはない。
この位の事ができないといけないと言う。
絶対無理。
この時のドロップ品も炎の弓であったが、これも後でくれるそうである。
そのあとも、ワームや蟻と戦って40階層の三つカビドラゴンと戦ったが、案外簡単に倒せたのであった。
ドロップ品は光の弓でこれも使わないからと言って、先の炎の弓2張と共に渡されたのであった。
地上に戻り家に帰る。母の状態は変わらず。
師匠達の連れていた妖精達がコナナ草の生えている所を知っていると言うので採りに行くことにした。
良いものが確実に手に入ると思われたからだ。
弓も持ったが、使う事なく刀と、魔法だけで山に登りコナナ草を手に入れる事ができた。
下山して母に煎じて飲ませる。数日で効果が顕われ10日で快復した。
途中、クロエ師匠が人間になった。只の小犬ではないと思っていたが、私も妹もびっくりしたのは言うまでもない。魔法にかかっていて、時々しか人に戻れないそうだ。
弟子たるもの、師匠の事情に立ち入るべきでは無いと考えるので、何も聞かなかった。
師匠達が出発すると言うので、ハポンに剣の修行に行きたいので楊生に紹介状を書いてもらえないかとお願いすると快く書いてもらえた。
一度ハンメルに戻り、そこから海岸まで出て、トロム経由でカーロまで向かう道を師匠達に同行する事になった。
道中、剣を教えてもらいながら旅をしたが、夜は師匠達がたどった旅の話を聞かせてもらった。
路銀が足りなくなったら、闇討ち同心や闇討ち人という仕事をして稼ぐと良いと言われる。
悪徳領主や盗賊団など悪い奴を文字通り闇に葬り、彼等の貯め込んだ財宝を仕事料としてもらう仕事だそうだ。
それって悪党の上前をピンハネしているだけでは?と思ったが黙っておく。命が惜しいし。
作法として天誅と言う文字を書いた紙を貼ってこなければならないらしい。
相手の身分が高い時や、ややこしい相手の場合は、後のことを考え神隠しにしてしまうと良いと言う。
血を流さずに皆殺しにして死体を消してしまえば怪異の仕業として処理されるから安心だそうである。
もちろんこの場合は天誅の紙を残してはいけない事は言うまでもない。
その時、さっきまで食事をしていたとか、酒を飲んでいたように見せる細工をするとより効果的なんだそうだ。
やり方を教えてくれて、暗器もいくつかくれた。
ハポンに行ったら講談でよく勉強するとよいそうだ。
目が笑ってないけど冗談だよね。冗談だと誰かに言って欲しい。
トロムの町に着いた。海竜が出たとかで町に活気がない。出漁できないらしい。
さっきから師匠達が何か相談している。
耳を澄ますと、海竜を狩って食べる相談をしている。海竜と言えばあの海竜である。船を沈め、鯨も鯱も相手にならないで食べられてしまう。
あっけにとられているうちに、話は既に料理法の相談になっている。我が師匠達なれどこいつら正気か?
現在マダガス島に向かう船の中にいる。クロエ師匠が前に作ったと言う泥舟、いや土の船だ。
もちろん私も乗っている。島の近くまで到着すると、空にウォータで作った巨大な水球を海面に落とす。
高度があるためかなり大きな音と衝撃がある。
繰り返していると、来た。巨大な何かの気配だ。
海面が盛り上がり、中から首の長い海竜が出現する。
我々の船の数倍、いやそれ以上あるだろう。
海竜は耳障りな咆哮をあげる。
空気がビリビリと振動する中、腰元の刀の鞘を左手で押さえたジップ師匠が右手を柄に添えたかと思われた瞬間、海竜の首が落ちる。
「楊生闘気斬。冥土の土産に持ってゆくが良い」
呟くジップ師匠。なんだかとっても無駄に格好良い。
使う時に魔法や技の名前を叫んだりするのは最下策だけど、大技を使った後に残心と共に呟くのは楊生流の作法だそうである。
達人は剣の修行と同じくらいの時間を格好良いポーズや言葉の練習に費やすとか。
改めて、師匠の偉大さを再確認した私であった。
後に楊生流に入門した私が獣兵衛大師匠や劣導大師匠から楊生流にはそんな作法は無いと言われて愕然とするのは先の話である。
海竜を収納して町に戻った私達は、食肉市場に持っていって解体を依頼した。
大きすぎて解体できる場所がそこくらいしか無かったのである。
魔石や牙、皮などの素材は受け取ってしまいこむ。
ここではちゃんとした加工ができないからだ。
肉も8割がた保存したが、市場に頼まれて残りは売ったのであった。
作業中に噂を聞きつけ町長が礼を言いにやってきた。自分達の為に狩りをしただけだから気にするなと言って、肉を土産に持たせる。
その晩は海竜祭りだった。宿の食堂を貸りきり、ジップ師匠が次々と料理を作る。
淡白系ながらも旨みが凝縮している海竜の肉は今まで食べた肉の中で最も美味いと言っても過言でないほど美味かった。
作りすぎたため、宿の主人とその家族や他の泊まり客にも振る舞い、とても感謝された。
数日滞在して、漁を再開した漁師達から新鮮な魚やカニ、エビ、貝を沢山買い込んでトロムを出発した。
海岸を北上したため、連日の海の幸祭りであった。修行の旅だったはずが、グルメ観光旅行と化している。
朝と宿に入る前の時間に稽古をつけてもらっているが、それがどんなに厳しくてもほかの時間がパラダイスなので厳しいと感じない。
腕は上がってきているから良いと師匠は言う。確かに剣技の向上は実感してはいるのだが……
トロムからカーロの旅路は特にイベントも無く無事かカーロに到着した。
ここで師匠たちともお別れである。マジックバッグを一つもらい、ジップ師匠からハポンの楊生家に手紙と土産を託された。海竜の肉やチョコレートやキャラメルなど珍しい菓子などが入っているから、それを渡すようにと頼まれる。
他に旅の途中に作っていたお泊まり小屋や携帯食料なども入っているそうだ。
そして、もう一つマジックバッグを貰い、これは私の楊生家への謝礼に使えと言われた。金銭より喜ばれるだろうと。誠にありがたい事である。
それと数日前、人に戻っていたクロエ師匠からも楊生の劣導大師匠に託されたものがある。何本かの小瓶だ。
なんですか?と聞いたら、無味無臭の強力な毒薬とか、飲ませるとなんでも言いなりになる薬とか、一月間くらいの記憶がなくなってしまう薬等々。
取説も一緒に渡されて、絶対気持ちよくなったりしないから、くれぐれも自分に試すなと言われた。
絶対試しません。
師匠たちに会えて良かった。船の上から私は手を振り別れを惜しむのであった。
その後、無事ハポンに到着したショウは楊生に弟子入りできた。
その長命故に長い修行に耐え、のちに剣聖と呼ばれるようになり、故郷に戻って楊生真陰流を妖精大陸に広めた。
エルフは弓という常識は彼の出現以降変わる事になった。
現在、妖精大陸でハポン料理や講談が親しまれているのも彼の影響だと言われている。
彼が最初の師のように正義の味方をしていたのかは伝わっていない。
偉人伝・エルフの剣聖ショウより。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます