第45話 ハンメル

 妖精達の圧力が強く、ハンメルで最初に行ったのはお菓子の店。キャラメル探索である。

 チョコレートも良かったが、これも捨てがたい。微妙な苦さ、香ばしさ、甘さの織りなす三重奏がたまらない。

 これも大量買い決定。

 

 何軒か菓子店をまわるうちに、一軒の店でチョコバナナという物を売っていた。

 この辺りで採れるバナナという甘い果物にチョコレートをコーティングしたものである。

 祭りの時などに屋台で作られて、子供達が喜んで食べるらしい。

 不味いわけはないと思って食べたが、そんな考えはチョコバナナに対して不敬であると断言する。

 いわゆる一つの究極のコラボレーションと言うべきではないか?毎日50本で30日で1500本。

 店が開いている日は毎日来るからと言って、代金を先払いした。

 他にも作っている店が何軒があるらしいので、これは絶対探さねばならない。

 ハンメルでどうしても外せない重要案件である。


 まずは書店めぐり。どこへ行っても人を獣に変える魔法や魔法陣に書かれていた謎の文字に関する本は無いと言われる。

 もちろんエルフを獣に変える魔法に関する本も無い。

 ジップにそんな物を探さなくても、あと何年かすれば女を見ると獣になるから心配ないとか言う不埒者もいた。

 エルフは特別高尚な種族ではない。


 ひととおり書店と菓子店をまわったら次は図書館。ジップはエルフ語を使えないので教えながら本を探す。

 長い間の交流でそうなったのか、元が一緒だったのか、エルフ語と大陸公用語は似ている所もあって学習しやすい。

 元々語学学習の才能もあるのか、ファウとチャウの手助けもあって、ジップは一月もするとある程度の読み書きと会話ができるようになっていた。


 何度か人の姿に戻っだ私を見てファウとチャウがいう。


 「クロエは人でいたいの?」


 『人でいたいの?』


 「それなら魔法なんか見つけてないで、自分で破って出てくれば良いのよ」


 『出てくれば良いのよ』


 具体的にどうやって出てくれば良いの?と聞くと、蛹が蝶になる感じで出れば良いと言う。


 「かかっているのは陽の魔法だから、陰の心で破るの」


 『破るの。嬉しい心じゃダメだよ。怒りや悲しみの陰の心だよ』


 「心だよ」


 何かを感じているらしいが、具体的な事を知っている訳ではないらしい。

 彼女達の言う事が正しいなら、解除魔法で解除するのではなく、情によって9番目のチャクラを回すというのが正解なのだろうか?

 結局何もわからないという状態は変わらない。


 図書館通いの合間にあちらこちらを探索する。そんな中で、ハンメルにはダンジョンがあるという話を聞いた。

 厳密にはハンメルから3日程東に行った所にあるのでハンメルのダンジョンとは言い難いのだが昔からハンメルのダンジョンと呼ばれているらしい。

 中央大陸西部より、格段に魔素の濃い妖精大陸にはこのハンメルのダンジョンを含めてダンジョンは3つしか見つかってない。

 ダンジョンは魔素溜まりみたいなところに自然発生するという説があるが、この説では魔素の濃い妖精大陸より中央大陸西側にダンジョンが多い理由を説明できない。


 ハンメルのダンジョンは最深部が40階層の小規模ダンジョン。

 それでもこの大陸では1番大きなダンジョンとなる。

ここは好奇心旺盛なエルフによってはるか昔に踏破されている。

 妖精大陸は魔素が濃いため、魔物の魔石が中央大陸のものより大きいため、わざわざ素材の取れないダンジョンに潜る者は少ない。

 今のハンメルのダンジョンはちょっとリスクのある娯楽施設的なものといった立ち位置となっている。

 国や部族も介入しない完全にフリーのダンジョンなのだ。

 まぁ、そもそもこの大陸には国家と言うものが無いのであるが。


 エルフ達は基本個人主義でこの大陸には部族はあるが、国家が無い。

 部族を中心とした町はあるが、他を吸収統一して国を作ろうという気がないのである。

 また、他の大陸から来てここを占領統治しようという国もない。

 エルフ族のほとんどはこの大陸にいるため、ここに攻め込んでくる者がいるとしたら、それは異種族である。

 それと戦うのは種族を守る事であり、その場合は大陸中のエルフが敵になる。

 住民の全てが剽悍なレジスタンスとなるのだ。

 そんな彼らから異種族の征服者が安定して税を取るのは至難の業だ。

 従って、かつてこの大陸に兵を出した国がいくつかあったが、皆失敗してここに至っている。


 話が脱線したので戻す。


 で、国家の無いこの大陸には、悪徳領主がいないし、部族単位で社会が構成されているため、盗賊団などもいないので、正義の味方の出番は無い。

 表の顔ので冒険者をしている者としては、ダンジョンに潜るべきだと考えた次第である。

 まぁ、せっかく来たから楽しんで帰ろうと言う事だ。


 ダンジョンに着く。確かに役人も管理人もいない。

 ハンメルダンジョンという案内看板があって、よく見て矢を射る事。中では譲り合いとか書いてあるだけである。

 ダンジョンの入り口付近にはつきものの、買い取り店や武器屋も無い。薬や食料を売る雑貨店が一軒あるだけだ。

 ここでダンジョンの使用料として鑑札を買えば誰でも入って構わないというシステムになっている。


 1人1日銀貨2枚というそこそこの値付けになっている。

 10日分を払ってダンジョンに入る。ここの転移石は10階層、20階層、30階層、40階層の4箇所。

 内部はあまり頻回に変わらないらしく40階層までの地図も売られている。

 今更ゴブリンを倒しても面白みはないのと、

浅い階層は人も多いので、地図を見ながら20階層までサクサク進む。

 10階層の階層主リザードマンと20階層の階層主オーガは一撃で撃破。

 ドロップ品は金貨とミスリルの剣だった。


 15階層位までは人も多かったが、20階層を過ぎるとほとんどいなくなった。

 ここから先はリスクを考えると外で狩りをした方が効率が良くなる。

 いるのは戦闘目的や、経験を積むためとかになる。

 パルムのマジックバッグのような、特別なドロップ品が出るところ以外は、ドロップ品目当ての冒険者はあまりいない。


 ところで、ハンメルまで連れて行ってキャラメルを買ってくれと言っていたファウとチャウはまだ一緒にいる。

 妖精は美味しい料理で生きているとか言っていたので、私達の食事のおこぼれ目当てなのは間違いない。

 邪魔になる訳でもないので好きにさせている。


 25階層は大森林で、ウォーウルフやライカン、ジャイアントグリズリーなどが徘徊している。

 出てくる魔物を斬り倒しながら進むと前方で戦闘の気配がする。

 邪魔をしては悪かろうと迂回しようとしたが、女の悲鳴があがる。

 ダンジョン内は自己責任だが、悲鳴を聞いて無視するのは後味が悪い。

 声の方に進む。少し森が開けた広場で3人のエルフがウォーウルフと戦っている。

 正確には戦っているのは男のエルフ1人で、女のエルフの1人は傷を負って倒れており、もう1人も短刀を構えているが、腕を酷く負傷していてほぼ戦闘不能だ。


 私とジップがアイスランスを連射する。ファイアアローの方が一度に沢山撃てるのだが、森の中で多数の火を放つのはリスキーだ。

 ダンジョン内の魔物は倒すと消えるが、そこにある木や草はちゃんと燃えて灰になる。

 エルフを襲っていた群れは、目標を変えてこちらに向かってくる。

 近づくまでに更に何体か倒してジップが群れに突入。そのまま乱戦となる。

 程なくウォーウルフは魔石を残して消える。

 エルフ達の所に行き、ハイヒールで傷を治療する。


 エルフ達は兄妹でショウ、マーベル、シーラと名乗り、助けてもらった礼を言う。

 正直20階層より下に潜れる実力は無く、ここまで来れたのは運が良かったのか悪かったのか。

 20階層まで送るから、そこより上層で活動するように言うと、どうしても深層まで行く実力をつけなければならないと言う。

 このままだと、実力がつく前に確実に死ぬと言ったが決心は変わらない。

 病気の母親のために、キリマンジュの山にある薬草を取りに行くためには、ここの最下層まだ行ける力が必要らしい。

 妖精大陸には冒険者という職業も無く、ギルドも存在しないため、人に頼むような事もできないし、町で売っている薬草はとても買える値段ではないそうだ。


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