第44話 妖精大陸2

 私達の旅は続く。オースレンを出て北に向かって10日程歩いたらオタル村というところに着いた。

 街道沿いの村は小さな村ばかりで、宿屋も無く、警戒心が強いため人間を嫌ったりしてなくても、流石に泊めたりはしてくれない。お泊まり小屋が大活躍である。

 オタル村でも、野営をしたいから村の隅っこを使わせてくれと頼むと、構わないが最近良くオークの集団が良く襲ってくるから気をつけろと言われる。

 

 オークの集団なんて、豚が魔石を背負ってやってくるようなものなので全然気にならない。

 来たら一緒に戦うから世話になると言って村の空き地に小屋を出したらびっくりされた。

 日付が変わる頃、気配で目が覚める。ジップを見ると彼も目を覚ましている。

 準備をして外に出る。50頭くらいの集団か?

一団になって向かってくるので、私とジップはファイアアローを連射する。

 半分くらいが一瞬で焼かれて戦闘不能になる。逃げるオークをエルフが弓矢で射殺す。

 エルフの弓の方がファイアアローより射程が長いので逃げられない。10分足らずで決着がついた。

 後片付けはしておくから休んでくれと言われたので素直に従う事にした。

 

 次の日の朝、小屋を収納していると村長がやってきた。

 昨日の礼を言われ、魔石を全部渡すから肉などの素材を全部もらえないかと言われる。

 特にオークの肉が必要ではないので了承する。バッグの中にもっと上質のオークジェネラルやキングの熟成肉が沢山あるし。

 残りは野営の場所代だと言って魔石を半分だけ貰って出発する。

 村長が魔法陣のような精緻な模様が彫られた手のひら位の木の円盤に、革紐をつけたペンダントのような物をくれる。

 エルフの仲間だと認められた証明で、これをつけていれば、妖精大陸で粗略に扱われる事は無いと言われた。

 異邦人の私達にはありがたい。礼を言って素直にいただく。

 

 ふと気付くとジップの頭の上に女の子の妖精が2人乗っている。

 私と目が合うとファウとチャウだと名乗る。

ハンメルまで一緒に行きたいから連れてゆけと言う。

 昨日の私達を見て用心棒にすることにしたと言う。

 今まで何度も、ふわふわ飛んでいる妖精を見かけたが、これ程近くで見るのは初めてだ。

 本当に人間の精巧なミニチュアのようだ。

トンボに似た羽があるけど。

 身長は20cm位。ファウはブラウンの瞳で赤毛、チャウは青い瞳で金髪。

 光沢のあるドレスを着ている。


 「ハンメルには、キャラメルって言うお菓子があるの」


 『あるの』


 「とっても美味しいのよ」


 『美味しいの。あなた達に買ってもらうの』


 「買ってもらうの」


 『妖精はお菓子で生きてるの』


 「生きてるの。買ってくれれば褒めてあげるわ」


 『褒めてあげるわ』


 勝手な事を言っている。喋っているのを聞くと頭が軽そうだが、実は妖精は決して頭は悪くないらしい。

 少々身勝手で、必要な時しか頭を使わないと言う種族らしい。

 気に入った相手がいると、行動を共にする。

気が向くと加護をくれるらしいが、ちょっと運が良くなる程度の微妙な効果しかないそうだ。

 そのくせ、妖精の好意を断ると呪われるとか。碌なもんじゃない。

 初級魔法を使えるが、攻撃魔法を使うのはあまり好まないらしい。

 以上がオースレンでエルフから聞いた話だ。


 その夜街道脇の開けた場所に小屋を設営した私達は夕食にカリ料理を食べていた。 

 ファウとチャウの前にはチョコレートを一粒ずつ置いてある。

 沢山あるし、ハンメルでまた買うつもりなので構わない。

 妖精はお菓子で生きてるとか言ってたくせに、私達の食べているカリ料理を涎を垂らしながら見ている。

 人の時の私と同じで、多分何も食べなくても、周りから魔素を集めて生命を維持できるからお菓子で生きていると言うのは思い込みか嘘だろう。

 だが、生きていられるから食べなくて良いと言うわけではない。

 食べて味わう事は快感なのだ。太古の昔から生物が命を繋ぐために行ってきた行為だからだろう。

 子をなせぬ種族同士が結婚してもコミュニケーションとして性行為を行う。

 もちろん同一種族の同性愛のカップルでも同じだ。

 子を成す行為だが、子が成せないからしなくて良いと言うわけでは無いのだ。

 更に言えば、水中で問題無く生きられる魔王やドラゴンも肺を待ち、擬似行為かもしれないが陸上では呼吸をしている。


 ジップが食べるか?と聞くと首をガクガクと振って頷く。

 小さめの皿に盛ってやると、どこからか出してきた小さなマイスプーンで食べ始める。


 「ファウとチャウはカリが気に入ったわ」


 『気に入ったわ』


 「もっと色々な料理を私達に献上しても良いわ」


 『献上しても良いわ』


 次の日の昼は朝作っておいたサンドイッチを食べて、夜は途中の小川で小魚とエビが獲れたので天ぷら。

 食べ過ぎたファウとチャウは動けなくなって、そのままベッドに運ばれたのであった。

 彼女達と旅をしていて、とても便利な事があった。

 彼女達はテレパシーが使えるのだ。犬の時の私とジップはことばが通じなくても、ほとんどアイコンタクトで意思の疎通が可能である。

 だけど、流石に細かい打ち合わせなどはボードを使わざるを得ない。

 でも彼女達がいれば、私の言葉をジップや他のものに伝えてもらえるのだ。

 それほど不便だった訳ではないが、楽なのは間違いない。


 フォウとチャウの望むままに、様々な料理を食べながら一月程でハンメルに着いた。

 滞在期間が読めないので宿にした。もちろん風呂付きの宿である。

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