第42話 妖精大陸

 ジップと私は5日に一度のペースでパルムのダンジョンに潜ってバッグを集めている。

 私が人に戻った時はリュックタイプのバッグを作ったり、トイレのユニットを作ったり。

 そしてその間に温泉に行ったりとダラダラした生活を続けていた。

 20個目のバッグの時は何も起こらなかったが25日目のドロップの時再び赤ボタンの台がせり上がってきた。

 このまま帰れば、そのうち引っ込むのではないかと考え体の向きを変えて帰ろうとした時、

ジップが次はどこかねぇと言いながらボタンを押した。

 

 まだ子供だけど、前とは違うだろう。成長してないのかと思ったが既に遅い。魔法陣が浮かび上がり光に包まれた。

 

 消えた私達は、また何かの祭壇の上に現れた。周りでエルフが弓を構えているのはお約束。

 結局、少年と小犬だったのが幸いして、いきなり射殺される事もなく、祭壇から下ろされて取り調べを受けたのであった。

 パルムのダンジョンのクリアボーナスとして飛ばされてここに来た事。

 望んで来たわけではなく、そもそもここがどこであるかも知らない事。

 言葉の通じるエルフにそんな事を言うと、ここは妖精大陸と言われる場所の南寄りにある

オースレンという町で、私達はその豊穣の祭りにおいて祈りをあげている祭壇の上に現れたらしい。

 

 とりあえず信じてもらえたようで釈放された。

 妖精大陸。私達のいた中央大陸の西側の南にある大きな大陸である。

 中央大陸より魔素が濃い大陸であり、住人はかなり違っている。

 中央大陸の住人はほぼ人族であるが、妖精大陸の住人はほとんどエルフ族と妖精族。

 妖精族は生殖行為をして増えない事から、生物とは全く別のものであり、族と言うべきでは無いという意見もある。

 男型と女型、子供タイプなどもいるが、ヒト族やエルフ族の影響を受けてその形態をとっているだけで、精神生命体とも違う、特殊エネルギー体とでも言うべきものではないかと言う説がある。

 

 ただ、人語を話し、簡単な魔法を使ったりするのを見るとそんな単純なものでは無いとも思うのだ。

 他にドワーフ族というのがいるが、これはエルフ族の亜種と言われている。

 美形で細身のエルフ族に対して、低身長、筋肉質で、ごつい身体つきと見た目は全く違うのであるが、どちらも魔力量が多くて非常に長命。滅多にないが混血も可能らしい。

 妖精大陸の共通言語はエルフ語であるが、私達の言葉も大体使える。


 話は戻る。家もあるし、仕事もやりかけなのでとりあえず家のあるパルムに戻らなければならない。

 前にハポンに飛ばされた時は、その後の旅が私達に役立つものであったが、今回も得るものがあるかどうかはわからない。私達次第だろう。

 何かを考えて飛ばす場所を選んでいるとも思えない。

 月に飛ばされたりしなかっただけマシだろうと考えて自分を慰める。


 エルフ族は警戒心が強く、人族との付き合いは少ない。金の絡む交易となるとさらに少なく、ほとんどは古い付き合いのポルトー人が相手だ。

 もちろん人を見て逃げたり襲ったりはしない。

 あとエルフが菜食であるというのは世間に広く伝わっている話であるが、これは誤解。

 弓で狩をするのが得意なエルフが菜食であるわけがない。護身だけなら弓より剣や槍の方が向いている。

 長命なのと、知的好奇心が強い為、半分以上のエルフはエルフ語意外に大陸公用語を話せる。


 せっかくきたので、オースレンを観光する。多少焦った所で大して変わらない。

 何か美味しいものでもあって食べ損ねたら大損害だ。

 まず宿を見つける。エルフは入浴の習慣があるらしく、浴場を持っていたり、浴室付きの部屋のある宿が多くて助かった。

 宿が決まったら、そろそろ夕飯時。町に出て食堂を探す。

 経験上良い匂いのする店はハズレない。探索は私の仕事だ。私は鼻が効く。一軒の食堂に決めて中に入る。

 メニューを見る。肉は鳥料理とウサギ料理が多い。

 魚料理は川魚のものが少々。

 川海老と魚と貝に細かく切った野菜をオリーブオイルで炒め、トマトを加えて、水と調味料を入れてできたスープで米を煮込んだパエリアという料理を頼んでみた。なかなか美味い。浅い鍋の底についた焦げた部分が絶品。

 新鮮な乳が手に入るのか、泡立てた甘いクリームを乗せたフワフワしたケーキは絶品だった。

 店で聞くと近くの店で売っている物だそうだ。大量買い決定。

 デザートのお代わりを頼んでお腹がいっぱいになった私達はこの位で勘弁してやる事にして宿に帰る。

 入浴して眠りについたのであった。

 

 翌朝、元気よく目を覚ました私達は宿を飛び出す。

 エルフも現在は人間と同じような平地にレンガや木材で家を作って暮らしている。

 だが、昔を忘れないように町の東側にある森に昔のエルフの家が再現されていると聞いたのだ。

 2人で、てくてく歩いてゆく。行き交う人が皆整った顔で、耳が長くて尖っている事を除けば中央大陸の町とあまり変わらない。

 美味しそうな屋台があると試したり、見慣れない物を扱っている店があると冷やかしたりしながら進んだが、昼前にはエルフの家に着いた。

 大きな木の上に家が建てられ、5〜6軒を一纏めに吊橋のようなもので行き来できるようになっている。

 建てられていた看板の説明によると、これは森エルフの家で、平原に住むエルフ達は大きなテントの中で生活していたらしい。

 木の上のエルフの家は狭い空間をとても有効に利用してあり、参考にすれば、私達のお泊り小屋に更なる改良ができそうだ。


 帰り道、私は不思議な甘い香りを嗅いだ。犬でなかったら見落としていただろう。看板にはフール菓子店と書いてある。 

 昨日食堂で教えてもらった菓子店とは違うが、これは寄らずばなるまい。

 中に入ると、黒や茶色、白の色とりどり小石のような菓子がたくさん並んでいる。チョコレートという菓子らしい。

 ジップが一つ買って2人で分けて食べようとしていると犬には毒になるからダメだと店主が言う。

 ショックのあまり、一瞬地面が割れのみ込まれる幻覚を見たが、大丈夫。犬にはダメだと言われたハポンのネギも、シンのトウガラシも全く問題無かった。

 犬の姿をしているが、犬である自信がない私なのだ。

 ジップを見ると、クロエは魔犬だから大丈夫だと説明している。

 でも勧めないと言う店員を無視して口に放り込む。

 

 買いだ。店にあるチョコレートは全部買う。

明日売る分も明後日売る分も、なんなら店ごと買いだ。

 今日の分はともかく、明日からの分全部は楽しみにしている客がいるから無理と宥められ、

他の店も紹介してもらった。

 この店も多めに作ってくれるそうである。

 チョコレートを使ったケーキや飲み物も紹介してもらった。

 

 私達は、結局10日余りも滞在してチョコレートとそれを使った菓子やケーキを買い漁ったのであった。

 ダマスコにあったドロドロしたコーヒーと言う飲み物が、こちらでは布で濾して普通の液体として飲まれていた。ジップはこれにミルクを入れたものがとても気に入ったらしく、コーヒーの淹れ方を熱心に習っていた。


 オースレンを出た私達は北へ向かう。目指すは妖精大陸屈指の大きな町ハンメル。

 図書館や書店もあるらしい。

 オースレンで私達を取り調べたエルフに紹介してもらった学者の話では、ここ妖精大陸では

チャクラとかソーマの話は全く無いらしい。

 人とエルフでは子は成せないし、見た目は似ているが身体は全然違うのかも知れない。

 だが、チャクラの話は無くても、魔法陣の謎の文字の情報があればラッキーである。

 素通りするという選択肢は無い。

 

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