第41話 ポルトーの勇者

 俺はトマス。フランシス帝国のポルトーと呼ばれる地方に生まれた。

 子供の頃から力も魔力も強く10歳になる頃には俺の周りには俺より強い人間はいなくなっていた。

 15歳になった時、故郷の街を幼馴染のチャックとナタリーと共に飛び出し冒険者として世界を回った。

 俺程ではないが、チャックも弓の才能に恵まれていたのか強くなり、ナタリーも魔法使いとして優秀だった。最初の魔王を倒した俺たちは勇者と呼ばれるようになった。


 何体かの魔王を倒し俺達は名誉と財産を得て故郷に帰ったが、ちょうどその頃フランシス帝国は帝位を巡って内乱状態となり、帝国は乱れた。

 更に魔物のスタンピートがいくつか起こり戦乱の中帝国は滅びたのであった。

 その頃、結婚していたチャックとナタリーは混乱していた国を安定させるべく力を尽くし、ポルトーを中心としたポルトー王国を作ったのであった。


 俺は時には彼等を手伝ったりもしたが、政治には興味が湧かず、魔法の研究に没頭していた。

 人の何倍もの魔力は様々な奇跡とも言うべき魔法を使う事を可能とするため、新しい魔法を作ったり、魔法の改良をしたりととても楽しかったのだ。

 80歳を超えるようになると俺はもっと時間を欲している自分に気づいた。

 チャックとナタリーは既に亡く、王国は彼らの孫が王になっている。


 今までの長い研究の日々からわかったことがある。

 肉体と、アストラルボディの融合によりできている我々は普通は肉体優位で、肉体が何らかの理由で死ぬとアストラルボディも消滅する。

 だがアストラルボディを優位にできれば、肉体をアストラルボディが支配して無限に近い命を得ることができるのである。

 強靭な勇者の肉体はそれをアストラルボディが支配する事を拒否するが、俺は無尽蔵の魔力を使って無理矢理実行し続けた。


 そして遂にそれを成し遂げた時、我は地上において神に匹敵する者、いや、神となっていた。

 この世の誰よりも強く、全ての命の殺生与奪を支配する不死の我は、神以外の何者でもないだろう。

 我の元には、魔人や知能を持った魔物が集まり魔王軍団ができたのであった。

 我は近くの人間の町に行き、我に服従するように伝えた。

 愚かな事に下等な人間共は拒否したので腹を立てた我は全てを焼き滅した。

 そして次の町に行きそこも焼き尽くした時、勇者を名乗る奴が現れ我に挑んできた。

 勇者。どこか懐かしいその言葉。その程度の強さで勇者を名乗るのは烏滸がましい。

俺が消してやろう。俺が勇者だった時はもっともっと強かったぞ。

 

 それからも、勇者を名乗る者達や騎士団がやってきて我に挑んだが、皆我の相手にならなかった。

 そして、我は相手を倒す程自分の力が強くなるのを知った。

 そして奴らがやってきた。クラリスという女の勇者の一行だ。

 奴らは正面から我と戦おうとせず自分達の命を使って我を封印した。

 虫けらにしては頭が良い。まさかそんな事を企んでいるとは思わなかった我は油断して封印されてしまったのだった。

 だが、神となった我を封印したくらいで勝ったと思わないでもらいたい。我には時間が永遠にあるのだ。

 

 封印される直前、我は勇者たちが気付かぬ僅かな隙に分身体をいくつか放った。

 分身体と言っても、我の意識の残滓みたいなものでゴブリンすら倒せない。

 気付かれないように放つのはそれが限界だったのだ。

 封印された俺と細い糸のようなわずかな意識で繋がったそれは、1000年の間に魔物に喰われたり、魔王にとりついて支配しょうとして負けて消滅したりして最後の2つになっていた。


 そして、その2体がチャックとナタリーの子孫の赤子を見つけた。とんでもない魔力を持っている。そしてそれは成長に伴って更に増大するだろう。

 強い勇者に匹敵するが勇者ではない。光魔法の適正が無い。強いて言えば魔王の素質だ。

 1つの我の分身体はその赤子の中に黒導虫に変じて潜り込んだ。潜在意識に作用して野望の火を燃やして周りを燃やし尽くすのだ。

 そしてもう一体は、いずれ闇魔法に目覚めたそいつに近づきその野望の実現を手伝うのだ。

 その結果犠牲になった数万数十万の魂を供物にして我の封印を解くのだ。

 


 私の名前はタンムーズ。大魔王トマス様に仕える者。トマス様に生み出して貰った魔素生命体とでもいうべき者だ。

 私ともう一体のウヴァルは最後の2体になった時から一緒に行動していた。

 私達はあまりにも弱く、魔物や魔王に取り憑いて支配しようと試みた者達は皆消滅した。

 王や軍人に取り憑いて、大殺戮を行い大量の魂を得ようとした者達もいたが、急に人格や行動の変わった王や軍人は周りがその権力から引きずり降ろしてしまい、結果幽閉され死んだり、処刑された彼らと共に消滅した。


 私達は作戦を変えることにした。出来上がっている魔王や王に取り憑き支配するのでなく、

大量の魂を供物にできるような人間を育てるのだ。

 もちろん、多少魔力が強くても辺鄙な農村の農夫の子ではそのような立場に立てる可能性は無いとは言えないが少ないであろう。

 それにそのような場所に稀に生まれる突出した才能持ちはほぼ勇者であり、勇者相手では取り憑いた瞬間に消滅してしまうだろうし、下手をすれば近づいただけで浄化されてしまう。


 王族か大貴族に生まれた子供で、破格の魔力持ち。

 そんな条件の子供がポルトー王国の王室に生まれた。

 王族である以上、勇者や賢者と接触する可能性は高い。

 ただ取り憑いたのでは何かの拍子に気づかれないとも限らない。

 私達が失敗すればトマス様の封印を解くのは偶然に頼るという不確実な物になってしまう。

 その為ウヴァルは黒導虫となって赤子に入り込み野望の火を燃やす。

 これなら取り憑くのと違って闇のオーラが漏れ出すような事も無く、バレる可能性は限りなく低い。

 そして、私は周りから助言を装ってそれを煽る。

 それに取り憑くのと違って自由に動けるので

微力とはいえ色々と手助けもできるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る