第40話 ポルトー王国

 私の名前はシレーヌ・ポルトス。大陸の西にあるポルトー王国の第一王女だ。

 今年13歳になる私は上には、1人の兄と、下に妹が2人いる。

 かつてはもう1人兄がいたが、熱病で亡くなっている。

 ポルトー王国は気候は温暖。国の三方は海であり、良港を多数もつ1000年の歴史を誇る豊かな貿易国家である。

 ポルトー商人は古くから西のアサムから南の妖精大陸まで足を伸ばし交易を行ってきた。


 そんな国に生まれた私は、権力が欲しかった。小さい頃からこの国の王になりたかった。

 いや、この国の王では満足できない。世界の帝王になりたかったのだ。

 物心ついた頃から私の心の中で芽生えた権力に対する渇望は成長につれてどんどん大きくなっていったのだ。


 父王アンドリューは人は見かけは良いが、凡庸な人間であった。

 ただ、それを自覚しているのか周りに有能な人間を集めたので、父の治世は安定したものであった。

 大陸の西側は小さな王国や大公国が沢山あるが、人間同士の大きな戦争は500年以上起こってないし、難しい外交問題なども無いため、王が決断をくだすような場面も必要無かった。


 私が11歳の時亡くなった長兄チャールズは父に似た顔立ちの良いの優しい人間で、

国民にも人気があったが、それだけであった。

 次兄ロバートは15歳くらいから女と賭け事しか興味の無い人間になり、町に出て酒場で博打を打ったり、侍女の尻を追いかけ回していた。

そして17の時には娼館王子とかプリンスギャンブラーの異名を持つロクデナシになった。

 そして、そんな兄達より頭も良く、王の資質において彼等など足元にも及ばない私は女であるという理由だけで、王位継承権はあるのに、政治や権力から遠い所におかれた。

 そして淑女の嗜みであるダンスや音楽、礼儀作法を学ぶ以外何もさせてはもらえなかった。


 このままでは私は近くの小国か、公爵か侯爵家と政略結婚させられる未来しか待っていなかった。

 幸いな事に私には魔法の才能と豊富な魔力があった。

 7歳の頃、私に甘い父王にねだって魔法の研究室を作ってもらいそこで魔法の研究と実践に没頭した。

 1000年も続く王国の王宮書庫には存在すら忘れられている禁書などもある。

 表面上は魔法好きのふわふわした王女を演じながら、胸の中には禍々しく渦巻く暗い思いを抱えていた。


 9歳の時、何かの拍子に妖精を召喚できるようになった。黒目黒髪で黒いドレスを着た私にしか見えない妖精タンムーズ。タムと呼んで欲しいと言う。

 私と彼女はすぐに仲良くなり、彼女は色々な事を教えてくれて、私の魔法は格段に進歩した。

 

 私が11歳の時、25歳になった長兄を殺した。そう、兄が亡くなったのは自然死ではない。

 魔法で殺したのでは流石にばれる。相手は王位継承者第一位の王子なのだ。変な死に方をすれば必ず調べられる。

 私が使ったのは熱病。妖精大陸と交易を行っている我が国ではたまに熱病にかかる者がいる。

 ほとんどは熱が出て5日も苦しめば治るのであるが、稀に死ぬ者もいる。

 タムに妖精大陸の奥地から特別タチの悪い熱病菌を採って来させて長兄と側近の1人に感染させた。

 長兄はよく町に出かけて貧しい者達の話を聞いていたので、そこでうつされたのだろうという事で誰も怪しまなかった。

 長兄と側近は10日以上高熱で苦しんだ後、全身が真っ黒に変色して死んだ。


 次兄は無能なので、何年かしたら私に王位を継がせる話が出るかと思っていたら、次兄が化けた。

 兄と歳が近いので、変に周りが騒ぎ立て兄弟で王位を争うような事になると、国が乱れると考え15の頃から遊び人を演じていたらしい。

 女好きは本性で演技ではないと言っていたが、才能を隠さなくなった次兄は、政治に対する手腕、深い考察力、カリスマ性は将来必ず名君と呼ばれるだろうと思われる逸材であった。

 それは長兄を失って失意のうちにあった父王を再び立ち上がらせた。

 平民からは変な意味で長兄以上に親しまれていたので、有能なら国民も歓迎した。


 流石に次兄も熱病という訳にいかないので、性病にでもと思ったが、性病ではうつしてから

死ぬまでに20年もかかる。


 そんな時、タムが耳よりな情報を仕入れてきた。北の山にアイスドラゴンが巣を作り卵を産んでいると。

 次兄は王の資質には恵まれているが、魔法の能力は低く、剣術も得意ではない。

 アイスドラゴンを山から降ろして暴れさせ、

それを次兄が倒せず、私が討伐すれば次兄の評価が下がるはずだ。

 タムに卵を攫わせドラゴンを山から降ろしたが、たまたま付近にいた勇者アモンに討伐されてしまった。

 城に招待され、王より感謝され礼品を渡されていたが、全く余計な事をする。

 男臭くて野生的な、勇者と言うより、英雄という感じで、私好みではあったが私の野望の役に立たない男は要らない。

 

 クロエ様とジップに別れを告げた俺はパーティの魔女たちと共にポルトー王国へ向かう。

 予定があった訳でも呼ばれた訳でもないが、勇者の勘というか、何かが俺を呼ぶのである。

 今回も半年もダンジョンに潜っていたが、

西の方から誰かに呼ばれた気がしてポルトー王国に向かっている。

 途中、ギルドから頼まれたリッチーを一蹴してポルトーへ向かう。

 クロエ様とジップに野営用の小屋を貰ったが、こいつらと狭い小屋の中に一緒にいるのが嫌なので極力使いたくない。

 街道の宿を泊まりながらの移動となった。宿に日程を決められてしまうので移動の効率は悪かったが、一緒に食事をするのも嫌なのでそれ

はそれで良かったと思っている。

 まぁ、向こうも同じ事を思っているはずだからお互い様だ。宿代は俺が出してるし。


 ポルトー王国領に入り北の山に沿って移動していた時、山からアイスドラゴンが降りてきて暴れているという話を聞いた。

 口からアイスブレスを吐いて何でもかんでも凍らせるという厄介な奴だ。

 肉は美味くて、皮は耐火性の強い鎧や盾を作れるためその死骸は珍重される。

 知性と呼べる程の頭は無く、犬か猫の方が頭が良いと思う。

 古竜は人語を話し、賢者の如き知恵を持つと言われているが、俺は古竜はアイスドラゴンやファイアドラゴンの進化体や変異体ではなく、姿が似ているだけで、全く別の物だと思う。

 

 依頼を受けた訳ではないので、自分のために俺が勝手に狩ったなら、斃したドラゴンは俺が自由にして構わないはずだ。

 幸いジップがくれた小屋の入っているリュックにはドラゴンの1匹位まだ入る。

 ドラゴンを一匹倒せば10年以上豪遊して暮らせると言われている。

 金はあって困るもんじゃない。魔女達はとめたが俺はドラゴンが暴れているという場所に向かった。

 

 ドラゴンは村を半分くらい壊して辺りを凍らせていた。ファイアドラゴンよりマシである。

凍ったものは溶けるが、燃えたものは灰になってしまう。

 想像していたより大物だ。間違いなく金貨3000枚にはなる。魔石が大きければもっと高くなる。

 ジップと付き合うようになって、俺の価値観は少し変わった。冒険者に近くなった気がする。

 振り返ると魔女達がいない。勇者の自覚は既に無いらしい。

 戦わなくてもせめて、見ている位はできないものか?

 勇者の剣はバッグにしまって、代わりにアダマンタイトの剣を出す。

 試したいことがあるのだ。

 

 勇者の剣は両刃の大剣。これは片刃の少し反りのついた、ジップの使う刀にやや近い形をしている。

 刀を鞘に入れたまま鍔元を左手に待ち腰につけ、右手を柄に置き腰を落として、覇気を全く出さずにドラゴンに近づく。

 一瞬俺の行動の意味がわからなかったのか、止まったドラゴンが改めてブレスを吐くために首を後ろに傾ける。

 俺の剣が鞘走り、一瞬の煌めきと共にドラゴンの首が落ちる。

 

 抜刀術。ジップに教えてもらったハポンの術だ。居合とも言うらしいが、意味のわかる抜刀術の方がわかりやすくて良い。

 鞘や柄と鍔をもう少し工夫した方が具合が良さそうだ。

 俺の習った剣は、分厚く重い両刃の大剣を力と剣の重さを利用して切り断つ剣だ。

 頑丈な鎧を着て戦うことによりその戦闘力は倍加する。

 もちろん良い剣を使えば切れ味も良く、綺麗に切れる事は言うまでもない。

 ジップが違うハポンの剣術は、反りのはいった剣を使って、そのスピードとタイミングで切り放つ剣術なのだ。

 わかりやすく言えば、重いハンマーで力任せにレンガを叩き割るのと、軽いハンマーで手首のスナップを効かせてタイミングて割る違いだ。

 後者の方が剣速も早く、打ち合わない分剣も傷まない。

 

 ドラゴンをバッグにしまい、村人達の所へ行く。村長だという老人が代表して礼を言う。

 バッグから金貨が100枚くらい入った革袋を出して村の復興に使うように言って渡す。

 ドラゴンの死骸については俺は何も言わないし、向こうも何も言わない。

 仮に俺が渡しても全部王家か領主の物になってしまい雀の涙の見舞金がくるだけだ。

 勇者が復興に使えと言って渡した金は取り上げる事はできない。

 そもそもドラゴンはポルトー王国が飼っていた訳でもなく、村も国も何の権利もない。

 それに国だって騎士団を派遣してあれを討伐しようとすれば数十人が死ぬことになる。

 誰かが勝手に討伐してくれるならその方が経済的だ。


 それでも王宮から使者がきて、王から直接感謝され、勇者の旅を応援したいとそれなりの額の金を貰った。魔女達はドラゴンの死骸については流石に何も言わなかったが、これは少し寄こすべきだと騒いだので半分渡した。

 

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