第39話 パルム2

 私とジップはパルムに戻ってきた。ここはダンジョンがあって冒険者が多かったり、温泉があったりでなんとなく居心地が良い。

 

 商会に顔を出すと、お泊まり小屋が売れたという。しかも更に予約が2つも入っている。

 一つはパーティ大きいので大きめの小屋にしたいという事でクロエ鞄店謹製リュックで、もう一つはドロップ品のバッグで作る事にする。

 小屋ができたら魔法をかけるからという事で話を進める。

 バッグがとんでもなく高価な上に、小屋のトイレや排水にも空間魔法を応用した特殊技術が使われている。王侯や大貴族でもなければ手が出ない値段だが、最上級の冒険者はそれを気にせずに済むほど稼ぐ。

 その価値を知れば手を出すだろう者もいるだろうという考えは間違っていなかった。


 バッグに小屋を入れて持ち歩くというのは、誰でも真似できる。

 バッグを持っていれば自分で作っても良いのだろうが、トイレのシステムは私にしか作れない。

 あれが無いと魅力半減である。

 そんな超高級お泊まり小屋だが、それを作って卸している私達にとって元手はたいしたかかっていない。

 値段を上げている主原因のバッグはドロップ品と私が作った物だからだ。


 商会の主人が在庫がいくつか欲しいと言う。

持って逃げてもギルドに手配されればどこにも売れない。それに売ることにより彼も膨大な儲けを手にしている。渡しておいても問題無いと考えて注文を受けた分に加え更に3つ作る事にする。

 パーティは4〜6人の構成が多いと考え、寝棚的な収納寝台6台に、ミニコンロ、風呂、トイレ、洗面台がついた小屋と、4人用の寝棚の付いた小部屋と食堂、風呂やトイレの構成になった物など、多少内容を変えた。


 商会主にパルムを拠点にしようと思っているのだが良い物件は無いかと相談すると、商業ギルドに行くことを勧められる。

 この町の不動産は商業ギルドが窓口になっているそうだ。

 早速ギルドに向かい、商会主の書いてくれた紹介状を見せて物件を紹介してもらう。

 立派な温泉の公衆浴場があるせいか、風呂付きはほとんど無い。風呂付きを条件に何軒か紹介してもらう。

 そのうちの一軒が気に入った。町の中心から外れているし、少々古いし、私とジップが住むには広すぎる、家と言うより屋敷と言うべきものだが、なんと温泉を引いた浴場が付いているのだ。

 問題は賃貸ではなく、買い取りのみという事なのだが、拠点にするために住むのだから、買い取りでも問題ないと思い直す。

 ジップが金を払いサインして私達はマイホームを手に入れたのであった。


 次の満月の日に私の魔法全開で綺麗にして、補強。各種魔法陣を設置する。

 家具屋に行き、いくつか家具を買い、寝具や調理器具、食器を揃えたりと中も整える。

 一月に1日しかまともに使えない家だが、やはりこだわりたい。


 家が片付いた頃、お泊まり小屋が出来たと連絡が来た。

 次の満月の日に出かけて行き、トイレのユニットを付けて魔法陣を設置する。

 商会主から、リヨンの町に支店を出したいので、もういくつか作れないかと相談を受ける。

 それとバッグだけでも卸してもらえないかと。

 あそこなら上級パーティもいるし、冒険者の数も多い。

 パルムは温泉があるのと、とマジックバッグのドロップを狙って上級パーティも訪れるが、リヨンとは数が違うと。

 マジックバッグの手配とトイレのユニットさえ作ってくれれば、小屋は今までの設計図もあるし、魔法陣や強化魔法などは結界石を作る魔術師もいるので手間をかけないという。


 確かに転移石の少ない大ダンジョンにこそ必要な装備だろう。

 自分達で売るのは面倒だし、そんな事を始めると冒険をする時間が取れなくなってしまうけど、魔道具を作ったり、バッグを集めるだけなら大した手間じゃ無い。

 私達は承諾したのであった。それに、もう一つ一緒にやりたい事業があるという。

 話を聞くととても面白そうだ。これも承諾して、いくつか助言をしたのだった。


 とりあえず、トイレユニットとリュック型のバッグを作り、ポーチ型はダンジョンで集める事にした。

 小さなものを作れないわけでは無いが、大きなものより、より選ばれた材料、時間、手間が必要になる。

 しかも作れるのは人に戻っている時だけだ。貴重な1日をそれだけで消費したくない。

 それに今の私達の腕とクニサダチュージの護符があればダンジョンに行って集めてくる方がはるかに楽なのだ。


 私の名はジョージ・ワトソン。パルムで小さな商会をやっていた。何代か前の先祖まで貴族だったとかで名字待ちだが、私の父も祖父も曽祖父も平民で商会主であった。

 その日、私は知り合いの鍛治屋の所に小型の鍋と片側に刃の付いた携帯ショベルを受け取りに行った。

 最近うちの扱う商品は冒険者用の消耗品に近い刃物やショベル、魔石を使った携帯コンロ、干し肉などの保存食やポーションなどがメインになっている。とは言っても私以外の従業員は妻と、私の弟の2人だけという小さな商会である。


 その日、鍛冶屋に行った私は面白い物がいくつか置いてあるのを見つけた。

 焚き火台としても使えるストーブ兼用のコンロとか、折りたためるバケツやカップ、ベルトに物を装着しやすくする装具、ワンタッチで開く小型テントなど冒険者なら絶対興味を持つような物ばかりだ。

 鍛冶屋に自分で作ったのかと聞くと、作ったのは自分だが、考えたのは子供の冒険者だと言う。

 子供の冒険者は町の中の雑用と薬草採取くらいしかしてないはずで、こんな物を必要としないはずだが、魔法のあるこの世界はある意味なんでもありである。

 高レベルの魔法使いが何かの理由で子供の姿で活動している事だってあり得るのだ。


 受け取りにくる日の約束をしているとかで、私はその時に冒険者を紹介してもらうように頼んだ。

 その日鍛冶屋で待っていると、やってきたのは子供と見たことも無いほど美しい女性だった。

 女性の年齢から言っても、親子には見えない。子供がクロエ師匠と呼んでいる。

師匠と弟子か?なんとなくしっくりこない気もするが、そんな事は大きなお世話だろう。

 

 ワトソン商会の商会主だと自己紹介する。

女性はクロエ、子供はジップ。

 2人で正義の味方を仕事にしながら冒険をしているそうだ。

 大人だし、この歳まで生きると色々な事があるのは知っているから、正義の味方が仕事なのかについては聞かなかった事にして、ロイヤリティを払うから鍛冶屋の品々をうちで販売させて貰いたいとお願いする。

 了承してもらい、契約書を交わす。そして、これらは今までに無かった画期的な商品で、素晴らしい工夫だと褒めると、気分を良くしたのか、歩きながら食べられる美味しい携行食料や、今までの旅で作って工夫を重ねたというマジックバッグに収納するトイレや風呂の付いた小屋や、結界石の一割位の重さの結界プレートとでも言うべき、結界を張る道具などを出して見せてくれた。 

 

 それを見た時、人生に何度もないという幸運の女神の微笑みを感じた。

 これは売れる。こんな物を持っている冒険者はいない。

 冒険者は500年前と同じ装備で今日も干し肉を齧りながらダンジョンに潜っている。

 だが、最上級の冒険者はこれがあれば大部隊を組織しなくても深層に挑めるのだ。そしてこれを買う金も彼等は持っている。


 これも、バッグとセットで売りたいのだが、トイレを作る事は可能だろうか?バッグを手に入れる伝手は無いだろうか?と聞くとどちらも作ったり、入手する事は可能であると言う。

 私は話をつめてこれも契約書を作ったのであった。

 一月ほどたった時、小屋とバッグのセットは高額なので受注生産にしたのだが、見本が必要だろうと1つ作って持ってきてくれた。

 

 次に来た時はクロエ様はおらず、小犬を連れたジップ様(子供にしか見えないが、実年齢はわからないし、卓越した冒険者にはたとえ子供であっても敬意を払わねばならないと私は考える)だけであった。

 何回か会ううちに小犬は変身したクロエ様らしいという事がわかった。

 そこで私は気付いたのだった。マジックバッグを簡単に手に入れられて、小屋のトイレのような魔道具を作れる超絶美人のクロエ様って、黒の森の大魔女クロエでは無いかと。

 

 なんでこんな所で正義の味方をしているのか、なんで普段小犬の姿をしているのか謎は尽きない。

 だが、昔話の鳥のように正体がバレたら姿を消したり、いなくなってしまうかもしれない。

 私はあれこれ聞かない事にした。好奇心は猫を殺すのだ。

 それにあの方達と行いたいもう一つの計画。これにはジップ様とクロエ様の力が必要不可欠なのだ。その為にも好奇心ごときでお二人との良好な関係を壊すわけにはいかない。

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