第37話 闇の森2

 自信を持った我が活動範囲を拡げたのが悪かったのだろうか。

 最近我を討伐に来る冒険者が現れ始めた。こんな辺鄙なところまで来る冒険者は、大して強くなく、皆我の配下に加わることになった。

 だが、犬を連れた子供の冒険者が現れ、事情が変わった。

 襲わせた吸血鬼が片っ端から消滅させられて、今では半分くらいになってしまったのだ。

 集団で襲わせても、頭が悪いため連携ができないため各個撃破されてしまうのだ。


 私とジップは吸血鬼の城に向かう。

近づくにつれて吸血鬼が襲って来るが昼間は来ないので非常に楽である。

 大昔から悪さをしているらしいが、見逃されたのか相手にされなかったのか、後回しにされたのか。

 大した脅威と認識されなかったから、いまだに始末されていないのだろう。

 小物でないと良いのだが。少し嫌な予感がする。


 犬の私は鼻が良い。今日は森の中でアレを見つけた。そう、王者ニンニクである。

 昔の王様が、あまりの美味さに臣下に食べることを禁止したために王者ニンニクと呼ばれているとかいないとか。

 食べるとあまりの美味さの代わりに、しばらく息が臭くなる呪いにかかるのだが、幸い今は私とジップだけ。

 臭くても誰の迷惑にもならない。昼間だから吸血鬼も来ないのでゆっくり食べられる。

 私達はニンニクを収穫して、新鮮なうちに料理を始める。

 王道焼きニンニクに、シンで習ったニンニク入り焼きチャオズ。柔らかな芽を肉と炒めても良い。たっぷり入れて醤油で味つけした焼き飯も捨てがたい。

 私達は王者ニンニク料理を堪能したのであった。


 子供の冒険者は城までもうすぐのところまで迫っている。これ以上配下を出しても同じことだろう。

 実は我は変身魔法が使える。えっ吸血鬼だから当たり前だろうって?

 吸血鬼が変身できるのは吸血コウモリになれるだけだ。

 魔法を極めた我は蚊やノミ、ヒルなどにもなれるのだ。

 とにかく血を吸ってしまえば我の勝ち。吸われたやつは配下になる。

 我は蚊になって冒険者に向かう事にする。

 犬連れということだから、我の血の匂いで警戒されると面倒だ。金木犀の花汁を全身に塗って血の匂いを消す。


 暫く森の中を飛ぶと目的の子供と犬が歩いている。

 愚か者め、貴様らはもう直ぐ我の配下になって永遠に仕えるのだ。

 我は子供に近づき首筋に噛み付く。甘い血の匂いが……全くせず口の中が焼ける。内臓が溶ける。なんだこいつの血は。

 まるで強酸でも飲んだようだ。


 ダメだ、我の生命力がどんどん減ってゆく。ちゃんとした血を飲んで身体を再生させなければ。

 とりあえず、隣の犬の首筋にとりついて血をすうが……


 ジップがパチンと手を叩く。どうしたの?

と見上げる私。


 「蚊がいただけだよ」


 そういえば、ヘロヘロした蚊が飛んでいたような気がする。

 やがて城が見えてくる。あれが伯爵を名乗る吸血鬼の城に違いない。

 鍵もかかっていないので、中に入る。全く無人である。昼なら棺桶の中にいるのかもしれないが、もう外は暗くなっている。

 城の中を家探しする。宝物庫を見つけたが大して入っていない。

 嫌な予感が的中した。自称伯爵は噂だけの小物だったのだ。

 1日待ったが誰も帰ってこない。仕方ないので

闇討ち人はやめて闇討ち同心になる。悪い事をした罰として財宝は罰金として没収。闇討ち同心はハポンの警察なのだ。

 壁に天誅の張り紙をして帰ることにした。

もちろん火を放ったりはしない。森が燃えたら環境破壊になってしまう。

 また、お金が貯まった頃集金、いや罰金を取りにこよう。

 

 帰りにサルサの村にまた寄る。大した財宝は無かったが、無駄足という程でもなかったので、今度は焼き鳥を作って振る舞った。

 鰻にとても感動してくれたのが嬉しかったのだ。

 そのうちにまた様子を見に来ることを約束して村の人達と別れる。

 パルムに戻って商会に顔を出して次の獲物、いや悪い奴らを探さなければいけない。


 私達は順調に旅を続けたが、ある町で、ふたつ向こうのカンナという町の近くに現れたサラマンダーの討伐依頼の話を聞いた。

 上級パーティでないと受けられない依頼だが、付近に上級冒険者がいないので受けてもらえないかと言う。

 ちょうど、後何日かで満月だし、すごい寄り道と言うわけでは無いので受けることにした。


 ダンジョンで手に入れたイフリートの杖の威力を試したかったのだ。

 私がやたらな相手に使うと、全力を出す前に

消し炭になってしまう。

 火蜥蜴と言われるサラマンダーなら大丈夫だろう。

 火が効かなければ、ジップが首を落とす。


 カンナの町に到着する。サラマンダーは近くの火山の中腹に住み着いており、時々下に降りてきて家畜を襲ったりするそうである。

 満月の日にジップとサラマンダーの棲家に向かう。

 人の方が歩幅がだいぶあるので一歩あたりの移動距離は大きいはずだが、歩くと何故か犬の時より疲れる。特に坂道はダメだ。

 イフリートの杖を文字通り杖にしながらやっと巣に着く。

 

 火山の中腹の、前に狭い広場のある横穴にサラマンダーは巣を作っている。

 私達が穴の前に立つと、巣から出てきて威嚇する。

 事前の計画通り、私がイフリートの杖を持って極炎魔法ヘルファイアを使う。

 この杖を使うと必要な魔力が少なくなるのに、威力が増すのである。

 サラマンダーも火を吐きこれに対抗する。

 徐々に威力を上げてゆく。感覚的に半分くらい位の威力にしたとき、ジップがこれ以上だと焦げそうだねと言うので、お願いと言ってジップにサラマンダーの首を落としてもらう。

 消し炭にしてしまうと、依頼達成の証明が面倒だし、皮も肉も魔石も残らない。サラマンダーの素材はかなり高級品なのだ。燃やすにはもったいない。


 火山なので当然温泉がある。しかも今日は満月。街に戻って依頼達成の手続きをして、温泉へ。

 結局10日も滞在してしまったのであった。

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