第35話 リヨン大ダンジョン2
ドロップ品に本が出た。これで何かが解決策するとは思えないが、あやふやな情報でも大歓迎だ。
アモンは興味が無いという事で私がもらった。
人の私を見ていきなりプロポーズしたり、風呂に入って下着を変えるようになったアモンだが、ジップと同じで人の姿の私を雄の目で見ない。
やはり歴代最強の勇者と呼ばれるだけあって、とぼけた所はあっても精神は高潔なのだろう。
ダンジョン探索は順調に進む。やはり野営小屋を持ち込んだのは大正解。心身共に疲れが全然違う。今まで誰も思いつかなかったのが不思議なくらいだ。
バッグ持ちの冒険者だって食糧や薬、テントは持ち込むけど家は持ち込まない。
ダンジョンは魔物を素材として持ち帰れないのだから、バッグの容量いっぱい物を持ち込んでも構わないのだ。
安心してトイレが使えるだけでも疲労はかなり少なくなる。
パルムの商会に残したお泊まり小屋、高価だけど深層を狙う冒険者の間で、ヒット商品になるかもしれない。
今回の攻略は長丁場になっている事もあり、時には私も人の姿で戦う。魔法はこの姿の時の方が強力だし、免許皆伝にはならなかったが、楊生真陰流の目録である。
目録と言うのは、一通り収めたから楊生真陰流を名乗る事を許される、少し自慢しても良いレベルだそうだ。
私が習っていたのは犬としての忍びの術や暗殺術だったから、目録でも取れただけ凄いことだと言いたい。
魔法を通した小太刀で華麗に魔物を斬り倒す私の姿を見るが良い。わはは
魔物に受けたかはわからないが、少なくとも、私の華麗な剣技はアモンとジップには大受けだった。
90階層の階層主は三つ首のドラゴン。この時も私は人の姿だった。ケルベロスと違って首が長いので死角が無い。それぞれの首からブレスを吐く。
だが、同時にブレスを吐くのは首2本までだとアモンが気づき、そこに隙を見つける。
連携した剣の動きで、3人でほぼ同時に3本の首を切り落とし、更に心臓があると思われる胸をアモンが刺し貫く。
我ながら格好いい。いつか私を主人公にした講談をハポンで広めたい。
ドロップ品は魔法使い垂涎の一品イフリートの杖。これも私の物になった。
100階層に転移石をみつけて、階層主のリッチマスターと戦う。次から次へとアンデットを出してくる。
普通ならとても苦労しそうだが、我々には勇者アモンがいる。極大光魔法一発で沈めた。
ここでドロップされたのはオリハルコンの硬度を凌ぐと言われるアダマンタイトの剣。国宝級のレアアイテムだ。これはアモンの物に。
公式には100階層が過去に踏破された最深部だ。
ここから先に進んだ者もいるのかもしれないが、戻ってきて到達を報告したのは100階層まで。
107階層は信じられないことに全て海。100階層に引き返して地上に戻り、大量の布とロープを買い込み、私がヒトに戻るのを待って106階層で土魔法を使って船を造る。
舵も帆柱も強化した土だが強度は充分。これをバッグに入れて107階層で浮かべる。
海面から飛び出し尖った鼻先で刺し殺そうとしてくるフライングフィッシュとか、大きなタコとか、海竜っぽいやつとかを倒しながら、風魔法で帆に風を送り、海を縦横無尽に探索する。
108階層に降りる階段のある小島を見つけて108階層へ。
110階層の階層主は巨大なスライム。攻撃も魔法も効かない。炎も氷も届く前に魔法を打ち消されてしまう。
敵の攻撃は強酸を飛ばしてくるだけなので、それさえ避けられれば、それほど怖くはないがうつ手がない。
ジップのアイデアで部屋の床や壁に極炎魔法を放つ。部屋の温度が高温になり、スライムの水分が蒸発する。自分に向けられた魔法は打ち消せるが、物理的な熱には障壁は張れないようだ。
カラカラに干からびたところを槍の石突で叩き割って撃破。
ドロップされたのは宝箱いっぱいの宝石。
これは後で山分け。
更に進み120階層で転移石を確認登録。階層主の暗黒竜と戦う。本来とても強い魔物だが、これも勇者がいれば怖くない。光魔法と勇者の剣で撃破した。
ドロップ品はまた本。どこかの旅行記で私がまたもらった。踏破記録を20階層も更新したけれどまだ最下層には至らない。
だが、私達の挑戦もここで時間切れ。4ヶ月の予定が6ヶ月になってしまっている。アモンはまた旅立たねばならない。
地上に戻り、売る予定のドロップ品と、魔石を売って分ける。
宝石や金貨、階層主の大きな魔石は売らずにそのまま分けることにした。
ギルドに101層から120層の情報を報告。再チャレンジの約束をしてアモンと別れることになった。
野営小屋の入ったリュックは、約束通りアモンにあげた。これからも旅をするのだから、使い道はあるだろう。
アモン達は西のポルトー王国へ、私達は一度パルムに戻り、ドロップ品の本を調べながら暫く湯治生活である。
楽しかったダンジョンチャレンジも終わってしまった。
仕方ない。俺には義務がある。西のポルトー王国で呼ばれている気がする。勇者の勘という奴だ。
それにギルドによるとポルトー手前のスパインの国境付近で変異種らしいリッチーの王が出て、アンデッドを指揮して暴れているので、こまっているらしい。
軍はアンデッド系とは相性が悪い。それに軍を動かすには大金が必要だが、勇者ならせいぜい礼の宴会と、宝物庫から珍しい物を出してきて渡すくらいで済む。
昔、頭の良いやつが経費節約のために公認勇者というものを考えたに違いない。
ジップの話では大陸の東側では魔物が少ないだけでなく、魔王も滅多に出ない。そして勇者というのもいないらしい。
飯も美味いらしいし、闇同心とか、隠れん坊将軍とかいう仕事について悪い奴を懲らしめるととても金になるらしい。いっそのこと東に逃げようか。
俺は今まで味がわからない訳では無いが、美味い物を食べるために努力したり、美味いものを探すような事はしなかった。
食事も勇者の義務を全うするための手段だったからだ。
娼館通いは魔女共が嫌な顔をするから始めたのだが、あれはあれで孤独な俺の心のささくれを癒してくれるし、俺だって健康な若い男だし、相方について文句を言ったことは無いし、値切ったことも無いから勇者であるための必要経費みたいな物だ。
それに、娼館に行き始めてから、俺は国からの金は受け取ってない。
女を買うのに人々の納めた税を使うのはなんとなく抵抗があるからだ。
もちろん俺がそんな事をしていても、魔女共がしっかりもらっているので、意味のないこだわりなのはわかっている。
だがこの半年間は俺の人生観を変えた。クロエ様に会えたからではない。
いや、それはそれで人生に影響を与えたのは間違い無いが、食べる事も含めて冒険を楽しいと思えるようになったのだ。
ジップとクロエ様は冒険者をしていてとても楽しそうだ。バディだと言っていたが、俺もあんな関係になれる相手が欲しい。
いつかそんな相手が見つかるのだろうか?
ジップと言えば、とにかく強くなっていた。以前会った時と違って魔力を剣に乗せて戦えるようになっていた。
威力が半端無い。更に時々使っていたムラマサという名を持ったあれは、魔剣を超えて神剣とでも言うべき物だろう。
ムラマサを持ったジップと1対1で戦ったとき、俺は確実に勝てる自信は無い。
それにジップの剣術。カタナという東の国ハポンの剣を使った、対人戦に優れた剣術である。
俺が学んで使っている剣術は、勇者の能力を活かした勇者剣術とも言える技はあるものの、
基本、西側諸国の騎士たちが使っている騎士の剣だ。鎧ありきで考えられた剣術である。
身幅のある厚い両刃剣で相手と正面から打ち合う、一刀両断、力業主体の剣術である。
俺も様々な工夫を加えて、独自の技をいくつか加えたが、ジップの剣術の様に、打ちあわないで、敵の攻撃をかわして、速度の最ものる剣先で敵の頸筋を切り飛ばすような物とは根本的に違う。
剣の刃も傷つかないし、血脂で切れ味が落ちたりもしにくい対人用の剣術だ。
だが、あの域まで至れば相手が人だろうと魔物だろうと関係ない。
あれを取り入れられれば、俺の剣はもう一つ上にいける気がする。
友よまた会おう。それまで良き冒険を。
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