第30話 インドラ

 コルカからインドラまでは通常2ヶ月弱の旅だ。

私は犬の時は黒犬なので変わらないが、ジップは日焼けして真っ黒になっている。

 途中暗殺教団として有名な某教団に天誅を加えたりしたため、1月ほど余分にかかったが、

取り上げた制裁金は多大で、私達の資産は倍増どころか3倍になった。

 罪の無い人を暗殺するというけしからん手段で儲けていたらしいが、今回の経験で彼らにも暗殺される側の気持ちがよくわかってもらえたと思う。

 来世ではその経験を生かして、真っ当な人生を送ってもらいたい。

 この旅は私が人に戻っていた時、地方の豪族にみそめられてプロポーズされたりというアクシデントもあり、面白かった。


 インドラの町はインドラ大寺院を中心とした門前町である。常に祈りの声がどこかで聞こえ、人々の信仰心が聖なる障壁となっていて魔物もこの町の周囲には出現しないらしい。

 

 ツルティム師が紹介してくれたのは、インドラ大寺院にいるイシャーン師という高僧である。

 今回もそれなりの額を喜捨して手紙を差し出す。そのせいかどうかはわからなけど、扱いが丁寧な気がする。

 僧坊の一つに案内されて茶を出される。暫く待っていると50歳位の僧がやってきて、イシャーンですと自己紹介する。

 私達も自己紹介して話を進める。


 イシャーン師によると、現在アサムではチャクラを回す方法よりも、修行により精神を解放することにより、神にに近づくビムクテイという方法が主流となっていると言う。

 結局、9つ目のチャクラの存在は確認できず、それを探すより、精神を肉の頚城から解放する事により肉体を持たない神に近づく事を目指すのだそうだ。

 それだと魔力を高めアストラルボディを主体、肉体を従体とすることにより寿命と言うものを無くすことと同じであり、結局両者は分離不能であるため、肉体を無くした段階でアストラルボディも消滅するから神になどなれないのではないかと思うのだが、アサムではそれをヨーガでなんとかできると信じているらしい。


 で、私の問題は進展を見せなかったのだが、ジップの問題はヨーガでもう少し改善できそうだという事で、イシャーン師の友人のアーディブ師を加えて色々試す事になった。

 4か月後、ヨーガの奥義を習得したジップは、刀の茎に掘った神代文字に対応した神代文字の呪文を左右の腕から手の甲に螺旋状に刺青する事により、体内の魔力を刀身に移せるようになった。

 何度も流しているうちに、閉塞している魔導路が開通する可能性もあるだろうと言われた。

 怪我をして神代文字が消えてもヒールをかければ元に戻るし、必要なくなれば皮を剥いでハイヒールをかければ消えるはずだと言う。 

 とても痛そうだ。刺青を入れる前に言うべきだと思うのは私だけだろうか?


 得るべきものは得られたと思う。私達は故郷に帰る事にした。

 シンやアサムにはあまりダンジョンは無いが、何故か故郷には沢山ある。魔物の分布のように同じ大陸でも偏りがあるのだ。

 そして西側には、まだ未踏破のダンジョンも沢山あり、同じような魔法陣が見つかるかもしれない。

 いまの状態で新しい未知の魔法陣を試す気はしないが、数が集まればわかることも増えるのだ。

 チャクラによる魔法の解除はこれ以上調べても何か出て来るとは思いにくい。

 そもそも魔法を解除する手段ではないようだ。

 長い旅ではあったが、ジップの命を永らえる方法が分かっただけで良しとせねばならないだろう。


 私達はイシャーン師とアーディブ師に礼を言い、ツルティム師の時と同じように私の作ったマジックバッグを贈り、船に乗るため西海岸の町ムンバに向かった。


 途中、怪しげなケシを育てて、それで作った薬を売ってぜっせとヤク中を作り続けている組織があったので闇討ち同心が再び活躍する事になった。

 やはり人間を廃業する様な薬はよろしくないのできっちり反省させなければならない。

見せしめに、癒着していた役人共々大掃除だ。

 特に組織のトップ連中には、一族みんなが自分達の薬でヤク中のパッパラパーになったのを見せたあと始末した。

 頼むから殺してくれと頼まれたので、闇撃ち人の正式な依頼として受けたのだ。

 お金も全部くれると言われたのでありがたく頂いた。

 お金をぜんぶくれるから許してくれと言ってた気もするが、幻聴だろう。

 方々での勧善懲悪により私達の資産はちょっとした国の総資産を超えているくらいになっている。世の為人の為は自分の為にもなると言うのはどうやら本当のようだ。


 ムンバから船に乗り、目指すはダマスコの港。そこまでゆけば、そこから黒の森まで三月余りだ。


 ムンバの港でダマスコまでの船を探す。貿易船の準荷物扱いだが、ジップと私で金貨5枚。

部屋は個室だが、寝棚があるだけの狭い場所である。

 交易の為、沿岸沿いの何ヶ所かの港を経由しながらの一月余りの航海となる。

基本食料と水は自分で用意する事。途中の港で上洛もできるが、病気の予防にレモンなどを用意することを勧められた。

 食事についてはマジックバッグがあるので問題ない。かえって味のしないビスケットや塩漬け肉の配給がない分ありがたい。

 外洋を航海する船だと、持ち込みでなくそう言う食事の配給になるらしい。

 ダマスコまで、ほとんど直通の2週間位で着く便もあったのだが、値段も金貨7枚と高く、急ぐ旅ではないので快適さを優先した。

 

 ジップは船旅の経験はハポンからシンに向かうのに少し乗っただけであまり無い。

 大きな貿易船での旅は初めてである。すっかりその気になり、片目に眼帯を付けて船の舳先に立っていたのであった。私もやりたかったが大人なので我慢した。


 途中満月があったが、荷積みと荷下ろしで2日間港にいる時であったため、ラッキーであった。それも考えて船を選んだのだが、航海は天気次第であり予定通りに進む事はあまり無い。

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