第29話 ラザからアサムへ
チベタで1番大きな町ラザに着く。ここには大きな寺院と僧坊も沢山ある。滞在はそれ程長くならない予定なので宿坊に宿をとった。
チベタは勇猛果敢なチベタ兵で有名だが、彼等は王と共に2番目に大きな町シゲツにいる。
人口は多いが、ラザは祈りと学究の町なのだ。清貧を美徳とする僧が集まっているせいか、山の上だからなのか、ここの食事はとても寂しい。
貧しいのもあるのだろうが、食事を楽しむという姿勢が感じられないのだ。
神に祈るために生き、生きるための食事と言う考えはわかるが、ハポン、ペクン、ケイシユ、サイトと美味いものを食い尽くして来た私達にとってここはあまりにも寂しいのだ。
腹を減らして泣きながら虫を食べてたお前が何を言うかって?
そんな私だから美味しい物を感謝して頂きたいのだ。
食は命なり。
とりあえず宿を決めた私達は、次の日寺院に行き多額の喜捨を行った。盗賊どもの血に濡れたお金もこれできれいになるだろう。
地獄の沙汰も金次第。チャクラやソーマ、魔導路を研究している僧を紹介してもらえた。
紹介してもらったツルティム師は気さくな人で、私たちが困ってある事を知ると、自分の知る限りの事を教えてくれた。
第9のチャクラと言うのは本来獣に変ずるチャクラではなく、人が神に至る為のチャクラなのだそうだ。
一般に魔力節とかチャクラとして知られている8つのチャクラは魔力をよく使う者なら知覚できるもので、その存在は確認されている。
しかし9つ目のチャクラは人体の構造上、座が存在せず、実である8つのチャクラに対して虚のチャクラであるとされている。
ただ、9つ目のチャクラの実在を証明する物は何も無い。
このチャクラをうまく回せず、神になれなかった者は、人でもなくなり魔獣になってしまうと言われており、それが誤って伝わり獣のチャクラと呼ばれているのでは無いか。
ソーマが植物でチョモマの山頂にソーマが生えていると言う話は昔からこの地に伝わるが、誰も行けない所に生えている木を誰が知っているのだろう。無い証拠は無いが、あるとは思えない。
だいたいソーマが植物であるという話も当てにならない。ソーマとは古い言葉で情という意味である。
魔力の流れの制御で回す8つのチャクラに対して、精神を利用するのか、高めるのかわからないが、それにより9つ目のチャクラを回し、人からより高次の、神に至ろうとするのが9つ目のチャクラの秘密ではないのか。
と言うのが師の結論であった。あくまで推論だがねと言われたが、別の方法ではあるが、魔力を最大限使い、寿命の無いアストラルボディを得て人でなくなった事のある私には納得できる話だった。
その後10日ほどかけて師の集めた文献や伝承の資料を見せてもらった。
資料に埋もれて寝る場所もなさそうだったので、私の作ったマジックバッグを礼に渡したらとても感謝された。
アサムに向かう日の朝、師からアサムのインドラ大寺院に古い友人がいる。
これを見せれば力になってくれるはずだと手紙を書いてくれた。感謝である。
チベタからアサムに向かう道は基本下りである。南下するにつれ、気温がどんどん上昇する。それに伴って空気の密度も上がった気がする。
餌が増えるせいか魔物も増えてくる。それを倒しながら1ヶ月あまり進むと、海辺の町コルカに到着する。
インドラ大寺院に行くには少し遠回りなのだが、ここに来たのは理由がある。
ここはアサムの貿易の一大拠点であり、アサム中の名物や特産品が集まっている。
それに世界的に有名な軽防具の生産地なのだ。
元々ジップは子供なので、敏捷性重視で金属プレートて補強した胸当てに近い革鎧と小手しか使っていない。
楊生真陰流も忍術をその体系に取り込んでいるため、軽防具もしくは防具無しが前提の剣術である。
敵の攻撃を後の先でかわして、無傷のまま斃すのを身上としている。
勇者のようにオリハルコンの鎧を装着して、ドラゴンのブレスを受けてもダメージを受けずに戦う剣術と根本的に違うのだ。
ジップは12歳になり、また背が伸びた。今までの鎧は連結部を直しながら着てきたが、流石に限界である。ハポンで手に入れたヒヒイロガネや、シンで手に入れたオリハルコンも少しある。今使う物と、将来を考えて大人になった時に使う鎧を作ってもらう事にしたのだ。
そしてコルカに寄る3つ目の理由。
ここは香辛料を沢山使ったカリと言うアサムの名物料理があるのだ。
カリ自体はアサム中で食べられているのだが、アサムの各地の商人が集まる貿易港のコルカでは、アサム各地のカリが食べられるのだ。
コルカに入り、宿を確保。ここの人達は暑いためか湯に入るより水浴を好むようである。公共の水浴場なども整備されており、浴室を持つ宿を探すのに苦労した。
暑い時程湯に入るとさっぱりする気がするのだが……
宿で教えてもらった何軒かの防具の工房を訪れる。
見本に置かれている防具を見るが素晴らしい出来だ。
注文する工房を決めて念入りに打ち合わせ。
今使っているような胸当てに補強をしたタイプに決めた。
そこで紹介してもらった刀鍛冶で普段使いの武器の手入れを頼んで、いよいよカリの探求だ。
カリというのは、具材と香辛料の無限の組み合わせによって生まれる料理だ。
肉料理とか魚料理という分け方は正しく無い気がする。私達の故郷では肉を楽しむための香辛料であったが、ここでは香辛料を楽しむための肉と言えばわかるだろうか?
更にそれを米やパンと組み合わせることによりカリの世界は無限に拡がる。
もちろんカリの食べ歩きしかしてなかった訳ではなく、ヨーガを教えてくれる教師がいて、
教えを乞いに出かけた。
結論。犬にヨーガは無理。ジップは体内の魔力を動かしやすくなる気がすると言ってたが、犬には犬用のヨーガを開発しなければならないと思う。
基礎は教えてもらったので、人に戻ったときに練習しようと思う。
2月余りの後、鎧が出来た。成長しても、あと数年使える物と、完全に大人になった時に使う物の2つ。フルプレートと違ってサイズの融通はかなり効く。大人になった時サイズが合わなければ売っても良い。
元々剣も防具も一部の物を除けば消耗品なのだ。良い機会なので作っておいたが、絶対これで無ければと言う物では無い。
大量の香辛料も買い込んだ私達は、ツルティム師に教えてもらったインドラ大寺院に向かう。
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