第28話 サイト

 ようやくサイトの町に着く。ここはこの国で最初の王朝が生まれた町だという伝承がある。

 古い建物も多く、歴史を感じさせる。

 冬はとても寒くなるせいか、名物の辛い鍋料理に代表される辛い料理が有名らしい。

 季節はもう晩秋であり、ここからチベタを抜けアサムに行くには季節が悪い。ここに春まで留まる事になる。

 古書の蔵書をたくさん保有する古い図書館もあるらしいのでやる事は沢山ある。

 私達は春まで、図書館の近くに風呂付きの部屋を借りることにした。


 雪が風に舞う山の麓の枯れ野を私とジップは他の冒険者達と進んでいる。食べ物が少ないため山から降りてきたらしい、オークジェネラルに率られた200匹程のオークの群れを駆除するためだ。

 200匹でも小さな村が襲われたりすると酷いことになる。ただ軍が出動するような規模では無いので複数の冒険者パーティが雇われたのだ。


 たまたまギルドに顔を出した私達は、ちょうど良かったとばかりに駆り出されたのだ。

 ジップの冒険者カードは現在シルバーになっている。上級冒険者になると、ミスリル、ゴールド、シルバーの3段階に分類されるが、どのレベルでも年齢や人数に関わりなく依頼を受けられるようになる。

 今までの実績から子供でもシルバーの冒険者カードを保持するようになったのだ。

 現在サイトには寒くなって仕事が減ったため、力のあるパーティはほとんどいなくなってしまった。

 オークは弱くはないが、強い魔物でも無い。

今サイトの町にいるパーティで充分対応可能なのだがジェネラルがいるとなると話が変わる。

 ジップは何かの時のための用心棒というか、保険としてここにいるのである。


 あちらこちらで、10匹くらいのオークの群れと冒険者パーティが戦っている。

 冒険者の方が有利だが、次の10匹が来る前に倒さないと20匹を相手にすることになる。

 短時間で敵の戦闘力を奪うのが大事だ。

 私とジップは枯れ野を走り回りながら、オークの群れに攻撃を加えて連携を乱している。

 ジェネラルがいるせいで、統制のとれた行動をしている。

 それをなんとかしないと冒険者パーティは個別撃破されてしまう。

 冒険者は軍のような訓練は受けてないので、統制の取れた戦いはできないのだ。


 前進してきた敵の本隊の中にジェネラルが見える。あれを殺れば敵は烏合の衆になる。

 ジップは前衛のオークを斬り飛ばしながら、敵の本隊に突っ込んで行く。楔を打ち込まれた木のように敵は二つに割れジップはジェネラルに肉薄する。

 ジップが座るように腰を落し、私のアイスランス達がジェネラルの前にいた旗本を串刺しにする。

 しゃがんだジップがジャンプしてジェネラルの頸を跳ね切る。

 司令塔を失ったオーク達は次々と倒されてゆく。


 ギルドに戻って討伐終了を報告。倒されたオーク達はギルドに回収されて、魔石やつけていた武具をとり外されて、残りは冬の食料となる。後日パーティの数で割られた報酬が渡される予定だ。


 私達はこの冬、サイトの町に2組しかいないシルバーランクのパーティの一つとして、時々仕事に駆り出されながら、図書館で調べ物をしつつ春を待ったのであった。

 私もジップも最初、辛い物は苦手であった。が、冬の間、オーク肉の辛味鍋を何度も食べているうちに春には辛さの奥にある甘味や旨味がわかるようになっていた。

 唐辛子をたくさん買い込んだ事は言うまでも無い。


 ペクンに続けてサイトでも図書館通いをしていたせいか、ジップは読み書きが大変上達した。

 この大陸は大陸共通語と言う言語を、私達の出会ったアルジャンの辺りは60字程の表音文字の組み合わせで書き、シンやハポンは数百の表意文字と40程の表音文字を組み合わせて表記する。

 アサムは同じような60字程の表音文字を使うが、文字は独特の物を使う。シンの文字を全て覚える事はできなかったが、日常使うレベルの物なら問題なく使えるようになっていたのだ。

 ちなみに私は齢500年になろうとする永遠の25歳なので、全て使えるし、加えて古代文字や、神代文字、その他あれやこれやも問題なく読み書きできる。

 よくわからないのは、私が変身した時に使った魔法陣の文字くらいだ。


 春になり、サイトを離れる時が来た。結局、それほどの事はわからず、その昔9番目のチャクラを回した者がいて、その者は神となって天に登ったという記録と言うより伝説が見つかっただけだった。

 ソーマの情報は無く、その者は理によって8つのチャクラを回し、更に情によって9つ目のチャクラを回したと書かれていたが、どう言うことなのかはわからない。

 チベタやアサムで得られるかもしれない知見に期待するしか無いだろう。


 チベタに向かう道は万年雪に覆われ夏でも防寒具が必要だという。魔物も出るため商隊は護衛を連れて山越えする。

 さぁ気を引き締めて行こう。


 チベタ街道は村や町もほとんどなく、基本野営であったが、小屋を持っている私達は快適に旅を続ける事ができた。

 壁には障壁魔法の魔法陣が描かれ、私が魔法を多重掛けしてあるのでオークキングやゴーレムの突進でも壊れない。

 そしてこの冬の改装により浄化機能のあるトイレと、浴室が付いたのだ。

 今の私は無詠唱で氷からお湯まで出し放題。小屋を展開できる平な地面さえ確保できれば、吹雪の原野ですら快適にお泊まりできるのだ。


 街道を歩きながら寄ってくる魔物を倒して魔石を集める。片っ端から倒したので半月位は街道の魔物も減るはずだ。

 チベタに近づくにつれ、岩山が増え、植生が変わり、畑の麦も背の高い麦が増えてきた。

 もう直ぐチベタの都ラザだ。有益なソーマの情報があれば良いのだが。


 

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