第27話 天誅2
私達は海岸沿いに南下し、商都ケイシュの町から内陸に向かいサイトの町を目指す。
ケイシュの町は海鮮が美味かった。素材を活かすために技法を尽くすハポンの海鮮料理と対照的な、素材の味を膨らますために技法を尽くすケイシユの海鮮料理。どちらも捨てがたい。
シャリヤにハポン料理を渡して空いた空間にケイシュ料理と、素材を買い込んで大量に収納したのであった。
もちろん一月余り滞在したケイシュでも、魔法や魔導路、チャクラの情報を収集したが、新たな知見は無かった。
次は数千年の歴史を誇る、いくつもの王朝の勃興を見てきた町、サイトである。
ケイシュを出てサイトに向かうと、いきなり人が少なくなる。広い国だが、多くの人々は海岸寄りに住んでいる。
満月の日に少し街道をはずれ、土魔法で30メートル位の深い穴を堀る。人に戻った時の方が詠唱できるため色々な魔法を使えるのだ。浄化の魔法陣を書いた紙と共に劉哥達を埋める。
こうしておけばアンデッドになる事もなく魂の輪廻の輪に戻れるはずだ。
この国では死ねば全ての罪は消えるそうである。
来世は善人とまでは言わないが、悪人にならなければ良いと思う。
街道は埃っぽく、風呂は無理でもせめて湯を使いたい私達は、出来るだけ村や町に泊まる事にしている。
ジップのアイデアで、小さな小屋をマジックバッグに収納しており、野営でもそれなりに快適に眠れるのではあるのだが、ダンジョン内で使う事なども考えコンパクトに作ったためやはり小さい。
今なら黒の森にある私の家にも入れるだろうし、またパルムのダンジョンに行きマジックバッグをドロップさせて、旅用の家を収納する専用マジックバッグというのもありかなとか思ったりもするが、いずれにせよ先の話だ。
多少不便でも、旅はその不便さを楽しめる。長い間黒の森の家で引きこもっていた生活も悪くは無かったが、今の生活も楽しい。
旅の途中、ある村で泊まろうとした。なんだか様子がおかしい。
聴けば、この辺りは大きな盗賊団が実効支配しており、この地を治める領主達もどうにもできないと言う。
土地も肥えているわけでもなく、商いも盛んでない。領主達も国に兵の派遣を請願しているが、国にとってどうでも良いと思われている土地なのか腰が重い。
これは我等の案件に違いない。私とジップは顔を見合わせ頷く。
その晩は隠密同心でゆくか、闇討ち同心でゆくかについて私とジップの間で朝方まで熱い議論が交わされたが、考えてみればどうでも良い事だ。実は私達は両者の名前以外の違いがよくわかっていない。
夕方まだ寝て、夜旅は危ないから止めるように止める村長に、『闇に紛れ闇に生きるは我らが定め 』という決め台詞を残して私達は旅立つ。
暫く歩くと数人の盗賊達が寄ってくる。友好的に手足を切り飛ばすと喜んでアジトを教えてくれた。案外良い人達である。
夜中に血の匂いを撒き散らしていると魔物が寄ってくるから気をつけるようにと注意して彼等と別れる。ジップは親切で優しい子に育っている。
2時間位で盗賊団のアジトに到着。山にある大きな洞窟を了解している。200人程の規模だと聞いていたが、気配からは100人弱しかいないようだ。お仕事中なのかもしれない。
さぁ我々も仕事の時間だ。
ジップ柿色の服装に着替えて、ハポンの縁日で買った狐の面をかぶって準備完了。私も念の為、目の周りを隠した仮面を装着。気分の問題だから黙っていて貰いたい。
まず洞窟の外にいる連中を、入り口から離れた者から始末してゆく。半分程までは気づかれずに済んだ。気づいた後は多少の音は無視して殲滅する。
外にいた盗賊どもを始末した後、気配を消して洞窟に入る。ジップは大針で、私は細く硬く作った同じくらいの大きさのアイスランスで盗賊共の盆の窪を刺して始末してゆく。
今思うと、昨日必殺闇討ち人を思い出さなかったのは痛恨の極みだ。
畳針の英さんは私の推しの1人なのに。
多少鍛えようが、修行しようが裏楊生の暗殺剣の敵ではない。僅かな間に盗賊の殲滅は終わった。この辺りは自然の洞窟が多い。
その一つに死体を運び、村正を使い楊生壊山剣で穴を塞ぐ。本当によく切れる。魔力を通せるようになったジップが使えばどれ程の威力を発揮するだろう。
盗賊の洞窟を探検する。溜め込んであった金銀財宝は当然没収。1番奥に数人の若い女達がいた。攫われてきた村人のようだ。
ヒールで治療。私達は影の大目付の配下で盗賊団を始末するために働いている。まだ100人くらいの盗賊が外にいるので、それを片付けたら帰してやるから、あと数日我慢するように話す。美味しいケイシュ料理も沢山あるから問題無いだろう。綺麗に片付けたから血の匂いなどもしないし。
それから3日ばかりの間に100人余りの盗賊を始末した。もちろん獲物は没収である。
その後2日待ったが誰も現れなかったので、討伐終了。捕まっていた女達と、新たに連れてこられた女達を馬に乗せ町の近くまで送る。
没収したお金の一部を持たせたため、皆家に帰れるはずだ。
私達の事は一言も漏らすな。漏らしたら天罰が下ると言っておいたので多分大丈夫。
鬼神か何かだと思って拝んでいた娘も何人かいたし。
サイトの町に着くまでに盗賊団を4つ成敗し、
悪徳領主2名を神隠しにした。私達は神様でも勇者でも無いのでもちろん有料である。
誰も依頼人にならないので、成敗対象から取り立てざるを得なかったのは私達のせいじゃない。
その村は山に近いためか温泉が湧き出していた。通りかかった時ちょうど満月だったので2人で露天風呂に入っている。
最近はジップが恥ずかしがるのでタオルを巻いて入浴している。こういうのはエチケット違反だとハポンで習ったが、風呂自体が男女別になっていないので仕方ない。
ジップは恥ずかしがるものの、私に対して性的な興味はまだ無いようだ。人になった私を見る目も女を見る目でなく憧憬の目だ。
まぁ変な目で見られても、相手をしてやれるわけでは無いので今のままが良い。
犬になった時の私に対して頬擦りしたり、匂いをかいだりしているのは相変わらずだ。何かのオンオフがはっきりしているようだ。
風呂の中でジップが言う。
「ねぇクロエ、勧善懲悪がこんなにお金になるなら、勇者になりたかったけど、やっぱり隠密同心とかになった方がよいかねぇ。光魔法も使えないし」
この子は5歳から自分で稼いで生活している。金銭の大事さについては誰より知っているのだ。
正直私も勧善懲悪がこんなにお金になるとは知らなかった。どうりで昔の人は正義の味方になって悪を討つ訳である。
勇者は勇者でいられる期間は短く、たいして金にならない。命短し戦え勇者と言った古人は誰だったか……
「お前の人生は始まったばかりじゃ無いか。よく考えてなりたい物になれば良い。途中でなりたいものを変えるのも全然ありだしな」
「でもしっかり稼げないとクロエ師匠をお嫁に貰えないよ」
責任を取る約束は忘れていないようだ。
私は……私は何になろう。最近は魔法より料理に対する興味の方が大きい気がする。
人のままで居られるようになったら温泉のあるパルムのような町で食堂でも開こうか。
だけど、それなら転移魔法を完成させたい。
それさえあれば世界中から旬の食材を仕入れてこれる。
私は湯に浸かりながら、とりとめのない事を考えていた。
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