第26話 勇者4

 俺の名はアモン。近年最強の勇者と呼ばれているブランカ王国の公認勇者だ。

 15の時国を出発して、今年19歳になった。

 元々小心者で、魔物と戦ったりするのは苦手であったのだが、勇者の圧倒的な能力で誤魔化して、強い勇者を無理やり演じてきた。

 だが、俺は最近あるスキルを手に入れる事によりそれを克服した。

 そう、小心者の最終秘奥義『開き直り』である。どうせ1回は死ぬ訳だし、勇者なんてやっていれば早死にするというか、させられてしまう確率はかなり高い。

 逃げられないなら、勇者の義務は仕方ないにしても後は好きに生きよう。後で何を言われようと知ったことじゃ無い。

 望んで勇者になった訳じゃ無い。そう開き直ったら怖いものなどなど無くなった。


 流石に悪事は働かないが、他の冒険者と酒を飲んで騒いだり、娼館で乱痴気騒ぎをしたり、

ヤクザ者から博打で金を巻き上げたりと、そこら辺によくいる、明日の事は何も考えない乱暴でがさつな冒険者となった。

 パーティの女達が嫌がって近付いて来なくなったので、調子に乗った俺は更にそれを強調するような演技をするようになり、いつしかそれは演技でなくなった。

 理想的な勇者という矯正をされていたが、どうやらそれが外れて、俺の中の別な一面が出てきたのかもしれない。


 何を言われても知ったことがと思っていたが、何故か親しみやすい市井の勇者とか言われて、民衆の支持は高くなった。

 貴族、特に娘を持つ父親達は今までと違って、娘に近づかないように警戒されたが、別に貴族娘になど興味がないので痛くも痒くも無い。


 今の所、強大な魔王は現れていないため、人々を困らせる怪異や魔物を討伐しながら戦闘レベルを上げるため世界を回っている。

 同行者はベルゼ、フルーレ、モレクの女性3人。知らない者から見ればハーレムパーティだが、俺はこいつらが嫌いだ。

 もちろん子供ではないので、そんな事は顔に出さないが、愛想笑いができる程大人でもない。


 この一年位で、俺たちは騎士団が総がかりで対応するような魔物を2匹倒し、スタンピートと呼ばれる魔物の異常発生との戦いに参加して大きな功績をあげた。

 今までの歴史を振り返ると強い勇者が現れた時は強い魔王が出現し、強い魔王が現れた時に、その時存在する勇者が負けても必ずそれを倒す勇者が覚醒したりしている気がする。


 だから、強いとか史上最強とか言われても、小心者の俺は安心できない。いつか俺達に匹敵するというか、俺達を殺すことのできる魔王が現れて、そいつと死闘を演じる羽目になる気がするのだ。

 その事を何度もパーティの女共に言ったのだが理解しようとしない。

 俺は剣の達人がいれば教えを乞い、強い魔物の討伐を引き受け、金のためだと言って奴等をダンジョンに引っ張り込もうとするのだが、形だけ俺の戦闘の補助をするくらいで真剣にやらない。

 確かに女共は並外れた能力を持っているが、あの程度なら勇者ではなくても、ごろごろ居るとは言わないが、冒険者にはそれなりに居るのだ。

 あのまま伸びていればパルムで知り合ったジップだって奴等より上に行っているはずだ。

 はっきり言って、奴等はこの4年間ほとんど変わっていない。


 結局、俺も関わり合いを持ちたくないので、近づかないし余分なことも言わなくなった。

 なぜか、今でも思い出したように薄着で挑発したり、ボディタッチをしてきたりするが、成長に伴ってあっちこっちが出っ張ってきたとはいえ、今までの事もあり、俺は興味がない。

 出るところが出っ張って、引っ込むところが引っ込んでいるだけなら、キラービーの女王蜂の方がよっぽど凸凹があるではないか。

 明日からはここロームのダンジョンの最深層に入る。今日はここで知り合った冒険者達と娼館で壮行会だ。

 娼館のお姉様方は魔女と違って優しいのだ。


 私の名はベルゼ。勇者パーティの魔法使いだ。国を出て4年も各地をほっつき歩いているが、この旅はいつ終わるのだろう。

 馬鹿アモンは、いずれ強力な魔王が現れるかもしれないと言って、強い魔物がいると聞くと訓練だと言ってその討伐に向かったり、金のためだと言ってダンジョンの深層に向かったりする。

 私に言わせればただの戦闘狂だ。

 

 大概の事は女達で反対すれば何とかなるけど、人々を救うためと言って出かける勇者を1人で向かわせる訳にはいかない。

 勇者パーティで魔王を倒して、名誉と地位と大金をもらうのだ。パーティが解散とかになったら、私はただの優秀な魔法使いだ。

 それでは多少稼ぎは良くても地位や名誉は得られない。私達の教官をしていた元勇者達だって、みな子爵や男爵だった。

 地位と名誉と従順なイケメン婿を得るためにはアモンを利用しなければならない。


 婿と言えば、少し前までアモンの事を愛している気がしていたけど、今では憑き物が落ちたようにそんな感情は無くなった。

 あれは思春期の気の迷いだった。子供だからたまたま近くにいた男を好きだと思い込んでしまう。

 チョロチョロ髭が生えてきたし、無駄に肩幅も広がり、なんか臭い。手なんて肉体労働者のごつい手になってしまった。

 命短き者よ、その名は美少年だ。

 野営の時も音が聞こえるような距離で立小便をするし、町に着くと若い冒険者と誘いあって娼館に行く。

 不潔だ。出来るだけ近寄らないでもらいたい。

 ただ、アモンがいるおかげで、国からの仕送りではとても泊まれない高い宿に泊まれるし、

美味いものも食べられる。

 流石に服やアクセサリーは買ってくれないが、金に関しては鷹揚だ。

 2年くらい前にお金が無くなって困窮した時、それまでは全てのお金を私が管理していたのだが、それぞれのお金は各自管理しようと言われて、一緒に潜ったダンジョンの稼ぎなどは4等分されるようになった。

 1人で稼いだ分は各自で管理している。取り決めは無いが、今の所宿はアモンが出してくれる。

 どこでアモンの育て方を間違ったのだろう?

 乳が大きくなったフルーレは野生の雄の匂いがするとか言って、時々アモンにちょっかいを出しているが、全く相手にされてない。

 当たり前だが、手練手管で娼館の女達にかなうわけもない。


 ロームのダンジョンの最下層で、俺はダンジョンマスターのファイアドラゴンと戦っている。

 前にパーティで討伐したドラゴンの数倍の大きさがある。

 ドラゴンは厄介な魔物で、皮膚は硬く強靭で普通の剣では深い傷はつけられない。頭もよく空も飛ぶ。

 ここはダンジョン内だから自由に飛べないが、ダンジョンマスターの部屋は天井が30メーターもあるため、上からの攻撃は無いと決めつけてしまうのは危ない。

 炎や氷のブレスを吐くが、ファイアドラゴンとかアイスドラゴンとか言われる、体の色が赤や青に変じたもののブレスは最大級魔法に匹敵する。

 噂では更にその上には人語を理解し、神の領域に近づいたやつがあるらしい。


 俺はブレスを避けつつ、右手に持った剣を盾のように構えながらドラゴンの懐に飛び込む。

 剣を下に振り下ろしながら途中で軌跡を変えドラゴンの左後脚を切り裂く。

 突き出してくるドラゴンの右前脚をバックステテップで避けつつ、左手から放ったアイスランスでドラゴンの顔を狙う。

 左に首をひねってそれを避けたドラゴンの頭を僅かな時間差で剣先から放たれた光魔法ホーリーランスが直撃する。

 ドラゴンより小さい俺から放たれたホーリーランスはドラゴンの頭を下から攻撃する形になり、ドラゴンは顎を上げ、無防備な首が晒される。

 再び飛び込んだ俺はオリハルコンでできた勇者の剣でドラゴンの首を三分の一程斬りとばし、剣を持って伸ばした右手を一度引きドラゴンの胸を柄元まで貫く。


 ドラゴンは光の粒になって消え、子供の頭程もある魔石とオリハルコンの長剣がドロップされていた。

 俺が全力で力を使ったとき、それに耐えられるのはオリハルコン製の武具だけである。

 ドロップされた剣は流石に、勇者の剣のような自己修復能力や退魔の力は無いだろうが、

希少品である事は間違いなく、値段のつけられない宝の一つである。剣としての性能は遜色無い。

 今まで、予備の武器としては、オリハルコンの短剣しか持っていなかったので、これは助かる。早速マジックバッグにしまう。町に戻ったらふさわしい鞘を作らせよう。

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