第25話 天誅

 話しを聞いて私とジップは激昂した。

そのような不届者には天誅を与えなければなるまい。私達の気分はすっかり水◯黄門か破傘先生。いや、死した屍拾って大変であった。

 どうも犬の時の私は精神年齢が子供化するようで、ジップととても気が合うのだ。


 ミタリの事を考えれば急がねばならない。2人で相談して早速その日に劉哥の屋敷に潜入する事にした。

 皇帝の姻戚となるとやはり正面突破のガチンコ勝負は出来ない。勝っても負けても追っ手がかかるだろう。

 ミタリだけ盗み出すのも、追っ手がかかるだろうし、人買いが劉哥の指示で動いていたので無ければ、ミタリの所有権は劉哥にある。

 屋敷に脳をやられる楊生の秘薬を風魔法で充満させミタリだけ治療というのも考えたが楊生の秘薬が効きすぎて治らなかったらマズい。


 で、決まった今回の作戦名はオペレーション・カミカクシ。

 

 シャリアが参加したがったが、彼女の幻覚術程度では忍び込む時に足手纏いになる。近くで待機させ途中から参加させる事にした。

 私達は潜入した後、用心棒でも使用人でも片っ端から殺してマジックバッグに収納してゆく。

 生き物をしまうのは禁忌だが、死体なら狩った魔物や釣った魚と同じである。

 後で食べるか食べないかの差しかない。

 この屋敷にいるという事は、共犯者も同然。同情の余地はない。

 忍びの術を会得した我等にとって、ちょっと強いまた冒険者や兵士などを斃す事など児戯にも等しい。

 30分もかからず、ミタリ以外の全員が敷地からいなくなった。

 シャリヤを呼び、ミタリとあわせる。危なかった。ミタリは明日の夜に生け贄にされる予定だったらしい。

 

 周りの屋敷の者はこの屋敷については無関心だ。関心を持っても酷い目に会うだけだからだろう。この屋敷で悲鳴があがっていても通報されない。

 最も音はほとんど立ててないので、心配する事は無い。

 家を調べて、現金や潰してしまえば足のつかない金銀細工、宝石、魔石。金貸しの帳簿や証書、やばそうな薬など片っ端からバッグに収納してゆく。

 証書や薬はいずれ燃やす予定だし、死体は旅の途中の荒野にでも捨てれば、一晩で魔物が食べてくれる。

 変態野郎に同情は要らない。

 

 助け出したミタリは、夜中に目を覚まして叫んだり、突然泣き出したり、深く心が傷ついてしまったようで、シャリヤがか一日中そばを離れずに一緒にいる。

 私の使える魔法に全てを忘れさせる魔法というのがあるが、文字通り全てを忘れてしまうのであまりおすすめできない。


 真名に知り合いの娘が人攫いに攫われ酷い目にあった。助け出したが心が壊れて一日中怯えている。

 治す良い方法は無いかと相談すると人形をひとつ作ってくれた。人形とはヒトガタでこれは式神であるので、つまり呪を形にした物に他ならない。

 要するに人形とは身代わりの依代だから、これを持たせておけば、悪夢をこの人形に移せるそうだ。数年したら、この人形を燃やすか川に流せば良いだろうと。


 わかった振りをしたけど、実は良くわからなかった。もし人に戻ることができたら、いつかハポンに戻って安倍家か賀茂家に何年か弟子入りしよう。


 劉哥については、数日して尋ねてきた者により事件が発覚した。

 屋敷から何の痕跡もなく人が全員消えてしまっている。

 血の一滴も無く争った形跡も無い。金目の物も取られていない(様に細工した)ようだし、さっきまで酒を飲んでいたり、寝ていた形跡があるのに人だけ居なくなっている。

 調べるうちに悪事の証拠がたくさん出てきて、地下牢や拷問部屋も見つかったので、悪業に呼ばれた鬼神の仕業によるものだろうという事で決着してしまった。

 前から悪い噂ばかりだし、皇帝の縁戚が悪事を働いていたと言うのは外聞が悪い。

 臭い物には葢というやつである。


それから半年余り、真名も協力してくれてあれこれ調べたが、私とジップに関しての新しい知識は得られなかった。

 この国独自の魔法や、功夫と呼ばれる気の使い方、拳法と呼ばれる格闘術など得られたものも多かったので良しとしよう。


 私達はアサムに旅立つ事になった。いつの間にかミタリと真名が恋仲になっていたので、シャリヤとミタリはこちらに残るそうである。

 故郷に帰っても何も残ってないらしいので、それも良いだろう。

 シャリヤにマジックバッグ(もちろん死体の入ってないやつだ)に劉哥に寄付してもらった金銀の半分と、いずれハポンに行くのだろうから食に慣れておいた方が良いだろうと考えハポン料理を入れて渡した。

 真名には言葉を話せるようになり詠唱ができるようになったので作れるようになった、クロエ鞄店謹製のマジックバッグをわたす。

 シンでは材料が少し違うのと、私が人に戻れる時間が少ない為、リュックサック位の大きさになってしまった。

 だが、容量も倍くらい入る。どうやって持って帰るつもりなのか、本を山のように買い込んでいるので、かえってこちらの方が良いだろう。

 ついでにジップのリュックもマジックバッグに改造した。

 借家はシャリヤとミタリが引き継ぎ、彼女達も真名の帰国まで大学で学ぶそうである。

 良く仕えてくれた使用人達にも充分な金銭をわたす。彼等も真名の帰国まで引き続きここで働きたいと言ったので、すっかり仲良くなっていたシャリヤ達も喜んだ。


 南にある大国アサム帝国。魔法発祥の地だという伝承のある国。香辛料の国、ヨーガという独自のチャクラを回す方法論を伝える国。数学が生まれた国。とても興味深い。

 

 アサムに行くには、ペクンから南下して、ケイシユの町から内陸に向かい、荒地を抜けてサイトの町に至り、そこからチベタ山脈を越えなければならない。人の足で3ヶ月以上かかる難路である。海路でアサムに行く方法もあるがソーマと、第9のチャクラの地チベタは外せない。


 私とチャックは再会を約した友人達に見送られてペクンを後にしたのであった。

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