第21話 ハポン3

 穢土から東海道を下って悪割の町に向かう。途中、10日程漁師町に泊まって魚の捌き方を習ったり、ワサビを大量に仕入れたり、温泉に入ったり。この国で一番高い不死の山も見た。

 

 将軍家の手形の効果は素晴らしく、本陣旅館でなくても、宿帳を記入するときに見せると無料にはならないが、何かと便宜をはかってもらえたのはありがたかった。


 悪割の城下町に着いて宿をとったところ、城から遣いが来た。悪割公が楊生真陰流免許皆伝の子供に会いたいそうである。

 将軍家の姻戚である悪割公も楊生流の剣士であり、興味があるらしい。同門であれば断るわけにもいかないので登城する。

 御目通りを許された後、御前試合が行われ、ジップはそれに参加することになった。

 

 ジップは8人の勝ち抜きで行われた試合の1人目には勝ったものの、2人目に負けた。

 子供であることを考えれば、すごい事だと私は思うのであったが、殿様もそう考えたようで、古刀の脇差を褒美に与えられた。村正とは比べるべくもないが、霊気が感じられる程の物であったので、これにも後日神代文字を刻んでおく事にしよう。将軍家と同じお返しと言うわけにはいかないので、お返しにオーガジェネラルの大きな魔石を献上した。ハポンではあまり魔石が獲れないため大変喜ばれた。


 悪割を出て凶都に向かう。凶都はハポンでも最も古い町の一つで、ここでは将軍家の前の王朝の子孫もミカドという尊称で国の祭祀を行っている。古い建造物なども綺麗に残っており、

中々興味深い町であった。

 ここには安倍家と賀茂家という呪術を専門とする陰陽師がおり、師からもぜひ訪ねてみるように言われている。


 まず、安倍家を尋ね、楊生家からの紹介状を出して主人の安倍清里に観てもらう。独特の呪を唱えると、私がヒトの姿に戻った。

 布を被っていたので、すっぽんぽんを晒さずにすんだのは良かったが、暫くするとまた犬に戻ってしまった。すまないがこれ以上は無理なようだと言われる。

 呪により一時的に月の力を強くしたのだそうだ。魔法自体は私のアストラルボディと複雑に融合してしまっており、呪では分離したり打ち消すことは出来ないらしい。

 ジップの魔力路については、陰陽道は専門外であり、密教で言うところのプラーナとチャクラの関係と似ているようなので、高野山を訪ねては?と言われこれも紹介状を書いてもらった。女人禁制なので、私は行けないそうである。


 安倍清里は賀茂家当主の賀茂憲之にも手紙を書いてくれたので、それを持って賀茂家へ向かう。賀茂憲之もあれこれ試してくれたがやはりダメであった。

 何かの役に立つかもと言って、式神を2体もらった。普段は小さな人形だが、呪により私やジップの姿にできるそうである。簡単な言葉をしゃべれるし、簡単な命令なら言うことを聞く。ゴーレムのような物だが、何かあった時の身代わりにも使えるという。

 とりあえず必要ではないが、確かに何かの役に立つかもしれない。

 安倍家と賀茂家にも魔石を礼として納めた。


 凶都の町を出て、ジップと高野山に向かう。山が多く、5日かかった。

 阿部清里に書いてもらった手紙と礼がわりの魔石を持ってジップだけ山門を入る。半日程待っていると2人の僧がジップと共に山から降りてきた。

 私を診たいが、犬とはいえ女人を高野には入れられぬため、門前町の宿にて診るという。

 手をかざされたり、真言を唱えられたりしたが、やはり高野山にもこれを外から解く術はないそうである。

 だが密教でいうところの、気を循環させる事によりプラーナを開きチャクラを回す行為は、

私たちの魔力を回して魔力節を活性化させるのと同じ行為であり、これにより変身の解除や魔力路の解放を行おうとするのは正しい道筋だろうと。

 私達がやっていた漠然とした方法でなく、高野で確立されている、それを効率よく行う方法を教えてもらった。後は修行次第らしい。


 再び山道を歩いて凶都に戻る。凶料理を堪能して、その時に凶都の北西の海で蟹の水揚げが始まったというのを聞いて、そちらに寄り道。カニを堪能した後、戻って瀬戸内の海の幸を堪能しながら墓多に向かった。


 山愚痴から墓多へは船で渡るのだが、その前に名物の河豚を食す。なんでも、河豚は体の一部に猛毒があり、専門の料理人が調理したものでないと食べて死ぬ事もあるらしい。

 解毒ポーションも効かず、賢者や高位聖職者の使う光魔法を使えば助かるかもレベルの毒だとか。

 だが、それにしても美味い。刺身も極上。唐揚げという料理法で調理されたそれはこの世のものとは思えないほどの美味であった。

 当然、これらの料理は皿ごと買ってマジックバッグにしまわれる。ジップの成長に伴い容量も拡張したが、先日買ったカニも沢山入っているし、そろそろいっぱいかも。


 船でハポン最後の町、墓多に上陸。ここは商人の町だそうで、武家町と違って華やかであった。

 名残りを惜しむようにハポン料理を食べまくり、船で津死馬を経由して大陸に渡った。

 大陸には現在、前王朝に代わって「シン」と言う国ができたばかりで、地方であっても活気に満ちている。

 ハポンと同じ黒目黒髪の人達であるが微妙に顔付きが違う気もする。言葉はここも多少のニュアンスの違いはあるものの、大陸公用語が通じる。

 とりあえず皇帝がおわすというペクンに向かう。


 「シン」と我々の居たアルジャンやパルムの間には大きな砂漠や大森林があり、少数の隊商は行き来しているものの、陸路の人の交流は余り無い。

 大陸の香辛料のほとんどは、この地と南のアサム帝国で産出されており、海路で西の国々に運ばれている。

 私達もシンを調べた後、アサムへ向かい、そこから海路で西にゆく予定だ。


 

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