第20話 ハポン2
ハポンに飛ばされて一年が過ぎた。私達はそれぞれの師より修行の達成を認められて、旅立つ準備を始めた。
この国にはマジックバッグが無いようなので、ジップと相談してそれぞれの師に一つずつ謝礼として贈った。
そしてバッグをあと二つ売却して換金したいのだがどこに売るのが良いかと相談した。
旅の資金は魔石を売ったお金もバッグの中にあるし、魔石もまだバッグの中に大きなものが数十個入っている。
大陸に渡ってギルドを見つければ預けてあるお金もかなりある。その他換金してないミスリルの剣やらのドロップ品もある。
だが、大金を必要とする理由はジップに魔力を移しやすい刀と管槍を作りたいのだ。
師には、2つのマジックバッグを王家である将軍家に献上する事を勧められた。
バッグの価値からいって多額の金子が下賜されるだろうし、何より過去の例から言って宝刀とも言うべき名刀が一緒に下賜されるはずだ。
これは武門の棟梁たる将軍家のみが持つ刀であり、古刀には霊気を帯び、魂を持つものすらある。今から新しい物を打つより遥かにジップに向いていると思われるので、その方が良いだろうと。
どの刀を下賜するかについては、剣術指南役である楊生家にも相談がある筈だから、ジップの魔道路閉塞の話を伝えて、それに適した物が下賜されるように働きかけると。
そして、管槍は今持っているミスリルの剣とオリハルコンの短剣、楊生家にある古い魔鋼を使って楊生の里にいる鍛治に打たせれば三月程で納得のゆくものができるだろうということで、こちらは全て師に丸投げした。ついでに今ジップが使っているダンチョーの形見の脇差も手入れをしてもらう事になった。
将軍家にマジックバッグを献上したジップは楊生真陰流の免許皆伝も含めて、子供ながら天晴れとお褒めの言葉を賜り、異例の御目通りが許され、士分に取り上げらた。
大陸で言えば騎士である。齢10歳の騎士は世界初かもしれない。
刀は「村正」が下賜された。妖刀という異名を持つ言わば魔刀である。ゴーストはもちろん妖魔だろうが神だろうがなんでも切れるそうで、ヒヒイロガネ製の魔力を通せばオリハルコンの兜や鎧も真っ二つという恐ろしい刀だそうだ。
ただ、並の者が使うと魔力を吸い取られすぎて衰弱死したり、戦いの時魔力切れで倒れて殺されたりということが起きる事から妖刀の異名を持つ。
もちろん鞘に入れておけば魔力を吸い取られたりはしないのて、持っているだけで消耗するような事は無いから問題ない。
ジップが持つにはまだ大きすぎるが、数年後ジップが成長期にかかる頃には、大きさもその妖刀の持つ魔力路が開いていようが閉じていようと魔力を吸い取ってしまう力もジップにちょうど良くなるだろうと。
刃こぼれもしないし錆もしない。刀自体が神となっている付喪神と呼ばれる代物だそうだ。
刀の茎(ナカゴ、柄に入る部分)にハポンに伝わる神代文字を刻むことにより、魔力の流れが良くなり、更に能力が上がるそうで、拵えを直すときに、形見の脇差共々加工してもらった。
脇差には一兵衛の手で、ジップに与えるときに刀身に神代文字で呪が彫られていたが、柄に刻む方が効果的だそうだ。
管槍は材料が多めにあったので、大きさの違うものを2本作ってもらった。なかなかここまで来れないし、ハポンの刀鍛冶の技術は世界一と言っても過言ではない。頼める時に頼んでおかないと、後で後悔する。更にジップが育ったとき柄を延長できるようにしたのでかなり凝った作りになった。これも柄に神代文字が刻まれた。
管槍は材料持参で親戚価格。下賜されたお金はほとんど残っている。折角なので師から紹介された刀剣商から大刀と脇差を何本も買ってこれも念の為、茎に文字を加工してもらった。
大刀はそのままだが、脇差の柄はジップの手に合わせて少し細く作ってもらったのは言うまでもない。
ハポンの刀の柄は消耗品で後々何度も作り直さねばならないから、今のジップに合わせて作っても問題無い。
結局、修行を続けながら更に4ヶ月ハポンに滞在した。手裏剣術や居合、小太刀の斗美田流の稽古など剣術関係にも力を入れたが、私達が1番力を入れたのはハポン料理。
私達はこれがとても気に入った。ここにしか無い醤油屋や味噌、昆布、鰹節、出汁、刺身。ネバネバするから豆とか見たことも聞いたことも無い料理が沢山ある。ジップは飲まないが酒も美味い。マジックバッグに入れれば新鮮なまま永久保存できる。
結局、マジックバッグを1つハポン料理専用にして師達に呆れられた。そんな事に使うなんて聞いたことがないそうだ。私もそう思う。
そして旅立ちの日、私達は師や兄弟子達に見送られ1年以上世話になった楊生屋敷を出る。
楊生屋敷のある穢土の町から陸路で西に向かい、凶都の町を経由して墓多の町から大陸に渡る船に乗る予定である。
ハポンの国に不吉な名前の町が多いのは悪魔に目をつけられないようにするためだそうである。
ハポンの国は龍脈の上にあるとかで魔物も少なく、古い道具が神性を得て付喪神になったりする国なのだそうだ。
士分と呼ばれる階級のサムライと言われる騎士身分の剣士達は己を律する事と主人への忠誠をその本分としており、弱者に優しい。
盗賊団などもいないため安全な国なのだが、流石に子供が国宝級の武器を持っていて周りの目を引くのは、あまり望ましくないという楊生家の判断で一兵衛の形見の脇差と魔鋼製の管槍のみを持って旅をしている。
腰の後ろにはベルトに付けたマジックバッグをふたつ。背中には背負ったままでも戦闘の邪魔にならない小さめのリュックサック。
私もマジックバッグを背負っている。これはよく出来ていて不意に人になってしまっても装着具のベルトがある程度の張力がかかると外れるようになっており、首が締まったりしない。首輪も同じ構造でメダルは光を反射しにくいように加工したミスリル製でクロエの名前と裏に神代文字で神下ろしの呪文が彫ってある。つけてると良い事があると言われているそうだ。
全て忍び道具を作っている楊生工房の力作である。
公務で凶都まで行く予定の兄弟子が、同行を申し出てくれたが、断った。ジップの問題がほぼ解決したので、時間的な焦りが無くなった。
それならあっちこっち観光して美味しいものを見つけながらのんびり旅をしたいし、変身解除の方法なども探したい。
将軍家発行の手形と楊生家の添え状があればハポンのどこに行っても全く困らないらしいし。しかもこの手形、これを見せれば大きな町にある本陣という将軍家御用達の宿が空いていれば公務として無料で泊まれるらしい。
絶対急ぎ旅なんてしたくない。
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