第18話 勇者3

 何度もダンジョンマスターのオーガジェネラルと戦ったが、マジックバッグはドロップされない。

 勇者はあちらこちらを旅しながら困った人達を助けて回るのが仕事と言うか義務である。

 マジックバッグこそドロップされなかったが、それなりに価値のある物がドロップされたし、勇者は魔石を換金する時一般の冒険者と違って税や手数料を取られない。

 資金にも多少の余裕ができたので、そろそろ旅立たねばならない。

 

 出立については魔女達も文句を言わなかった。数ヶ月温泉に浸かって美食三昧。いくら成長期とはいえ消費カロリーを摂取カロリーが大幅に超えている。

 どうみても3人とも見苦しい程ではないが、だいぶふくよかになっている。ちょっと贅沢をしすぎたから旅に出て体を使おうと言ったら、文句を言わずに同意した。


 パルムのダンジョンに潜るのもこれが最後となる。入り口の転移石から40階層に飛び、オーガジェネラルと戦う。目を瞑ってでも勝てる相手とは言わないが、パルムに来てから何度も戦っている。慣れもあって楽勝である。だけど今回もドロップ品はミスリルの盾。売ればそれなりになるのでありがたいがちょっと残念。

 ボス部屋を出て帰ることにする。


 入り口でジップと会う。半月ぶり位だろうか。パルムを旅立つことになったので、次に会うのはいつになるかわからないけど、またどこかで必ず会おうと言葉をかける。

 考えてみれば、この子はもしかしたら俺にとって初めての友人かもしれない。物心ついた時には周りは大人ばかり。

 旅に出た後も知り合いは魔女達だけ。アレを友人とは言いたくない。

 利害も義務も関係なく数日一緒に過ごしたのはこの子だけだ。勝手に友人扱いするのはジップに失礼な気もするが、単なる知り合いより少しだけ親密なのは間違いない。間違いなく同じ釜の飯を食った仲間なのだ。


 俺がマジックバッグを手に入れられなかったと言うと、沢山あるからくれると言う。

 余るような物ではないだろうからと固辞するが腰のバッグからいくつか取り出し好きな物を選べばと言われる。

 これが全部あれば小さな国とか、なんとか伯爵領とか位買えるのではないか?子供から貰うのは騙しているみたいで遠慮していたが、考えてみれば彼は普通の子供ではない。

 ありがたく頂くことにした。せめてお返しに何かと思ったが、討伐の札に貰ったオリハルコンの短剣が何本かあるくらいで、碌な物がない。

 それを3本渡して少ないがこの場の札とした。

いずれジップが大きくなったとき打ち直して剣にしても良い。価値ではドロップ品のマジックバッグには及ばないが、換金性も良いし、オリハルコンは欲しくても簡単に手に入る物ではないから、マジックバッグがあるなら、持っていても邪魔にならないだろう。



 私はベルゼ。勇者アモンの心の主人だ。

仲間の弓使いモレクと賢者のフルーレも同じ立場なので共同主人といったところか。

 最近アモンが楽しそうにダンジョンに行っている。最初はお金が無いと言って出かけてたので放っておいたのだが、楽しそうにしているとなると話が変わる。私は困って意気消沈しているアモンが好きなのだ。卑屈なアモンはもっと好き。想像するだけで身体の芯が熱くなる。

 勇者と言う立場に忠実なアモンが女を作ったとは思えないが、楽しそうなアモンなんてアモンじゃない。ダンジョンに行かせない理由を考え始める。


 モレクが私の部屋にやってくる。いきなり腹の肉をつままれる。よーし決闘だ。お前とは倶に天を戴けない事がはっきりした。外へ出ろ。

 そしてモレクは次に自分の腹の肉をつまむ。同じように彼女の贅肉もたっぷりつまめる。


 私達は顔を見合わせてため息をつく。どげんとせんかいかんと思いつつ日は過ぎるが、ある日アモンが、金も少しできたからそろそろ旅立とうと言ってくる。

 美食に慣れすぎると旅が辛くなるから、身体のためにもそろそろ出立するべきだろうとか言っている。

 最近、胸や尻が見えるようなポーズをとっても、前みたいに気にしないのは何となく気づいていた。よし、少し動いてシェイプアップして見直させてやろう。


 

 アモンと別れて私達もオーガジェネラルに最後の挑戦。アモンにバッグをひとつ譲ったけどこれでまた一つ手に入る。

 今回のジェネラルはモーニングスターを振り回している。何度も戦っているのと、ジップは本当に強くなり問題なく勝利する。

 ドロップされたバッグと魔石を拾い、部屋を出ようとした時、部屋の床から台のような物がせりあがってくる。

 

 台の表面に古代文字が浮かぶ。

なになに?当ダンジョンのダンジョンマスターの秘蔵品マジックバッグの収集10個達成おめでとうございます。

 つきましては達成得点といたしまして、空間魔法を駆使したご旅行にご招待。ボタンひとつです世界のどこへでも一瞬で到着。逝ってらっしゃいませ。


 台の一部が開いて赤いボタンが出てくる。これはヤバいボタンだ。これを押すようなバカの顔がみてみた……


 「これを押せば良いんだね」


 ジップが横からボタンを押していた。


床全体に魔法陣が浮かび上がり、私達は光に包まれる。体が少し浮揚するような感じがした後、気がつけば私達はどこかの洞窟の中の祭壇の上にいた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る